④ 意固地
「はい!」
キールはイワンへの苛立ちや疑念をぶつけるように力強く返事をし、銃を受け取って台の方に歩み寄る。
右腕をまっすぐ的に伸ばし、左半身を引き気味に開いて立つ。
「キール?」
「おいおい……」
「…………」
仲間たちが慌てるような声を上げるが無視し、イワンも止めようとしなかったのでそのままトリガーに掛けた指に力を込める。
「……くっ!」
決してトリガーが固かったり重いわけではないはずなのに、キールは発砲に手こずる。
ゲンドウやグァンダイン、自分より力の劣るカリーリが引けたはずのトリガーを引ききれないことに焦ったキールは、力任せに指を動かした。
イヤープロテクターで発砲音こそ軽かったが、右手が破裂したような衝撃が起こり勝手に腕が跳ね上がった。
射撃の衝撃はそれだけでは収まらず、キールの体は後ろへ突き飛ばされたように倒れていく。
仲間たちが「あっ」と声をあげたが、キールの体は倒れる寸前で停止した。
「……あ、……あ」
最初、ゴルディかゲンドウが受け止めてくれたのだと思ったのだが、体が停止した理由は、イワンがキールの右腕を掴んで倒れないように助けてくれたからだった。
「……ありがとう……ございます」
体勢を変え床にへたりこむような格好だが、キールは一応イワンへ感謝の言葉を吐く。
だが、イワンからは違った言葉が突きつけられた。
「話を聞いていなかったのか?
初めての者はツーハンドショットで撃てと言ったはずだ。
撃つ瞬間にグリップを強く握れとも言った。
力が足りなければ足を開き腰を落とし踏ん張れとも言った。
お前は何一つ教えた通りにしなかった。
どういう事だ?」
トレーニングルームで怒鳴るように指示していたのとは違い、静かなトーンで正しいことを言われ、キールは返す言葉がない。
「……片手で出来ると、思いました……」
苦し紛れで出てしまった言い訳とはいえ、キールは自分でも『子供じみた言い逃れ』だと思った。
これまでにこんなに情けない返事はしたことがなく、イワンを見返そうと思ったり自分なら出来るなどと考えたことが恥ずかしくなり、恥ずかしさと情けなさで悲しくなった。
「……未熟だな」
ポツリと呟かれたイワンの一言に、キールはハッと顔を上げる。
「この施設に来る前は、世界最強とか勇者とか持て囃されたようだが、まだ体験していない物事に対して『自分なら出来る』などと思い上がるなど未熟としか言えん。
なぜ初日からハントガンを撃たせたか、その理由も理解していないんじゃないか?」
イワンの厳しい言葉にキールは打ちのめされ、頭が回らずなんと答えてよいか考えることすらできない。
「……分かりません」
「そうか。
ならば、今のお前には何も教えられない。
人の教えを聞き、教えの意味を考え、自分の立場を分かっている者は成長する。
人の話を聞かず、話に込めた意味を考えず、自分の力すら分からない者は成長しない。
ただ無様に死ぬだけだ。
足掻いたことのない人間は死んでしまう理由すら分からずに死ぬのだ。
今のお前は戦場に出ても戦力にならん」
キールはイワンの言っていることが分からないながらも、自分の中に何が至らぬかを考え始めていた。
だからイワンの真意を聞き逃し、何も言葉を返すことができなかった。
「……今日はこれまで!
明日からは厳しい筋力アップのカリキュラムを進めていく!
今日はよく休め!」
イワンはへたりこんだままのキールを捨て置き、今日のトレーニングの終了を宣言した。
イワンはまた音が鳴るほどの敬礼をし、キールの手からそっと銃を抜き取って歩み去る。
仲間たちもキールの落胆を気遣ったのか、無言で立ち去る中、カリーリが小さく名を呼んで肩に手をかけてくれた。
しかし、キールは返事すらできずにいた。
「……部屋に、戻りましょう」
宿舎に戻った二人は、会話もなく、食事も摂らず、熱いシャワーを浴び、早いうちからベッドに潜り込んでしまう。
だが二人は恋仲ではない。
互いにひかれ合っていたし、パーティーメンバーからも公認のように扱われていたが、いつの頃からか魔王討伐という目標を達するまでお互いの恋心は押し込めてしまっていた。
だからこの夜も、同じ部屋の同じベッドに入ってしまっても、どちらかから何かをすることはない。
キールはカリーリが居ることを拒みはしない。
ただ自分の幼さ、無知、おごり、未熟さ……そうした勘違いや思い上がりを悔やむのみだ。
「……キール、初心に帰りましょう。
わたしたちはあの頃のように、勇者隊に参加した時のように、また新人に戻ったのよ。
これからしっかりやり直せば良いだけよ。
きっと、ね……」
暗闇の中でささやかれたカリーリの声は、女神のようにキールを包み込んでくれた。
いつの間にか涙を流していたキールは、こんな顔だけはカリーリに見せたくないと思い、返事もせず眠りへと落ちていった。




