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微笑みの春  作者: 蔵人藻袮
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第9話 電話

博物館研修で、ふと湧いた思いがけない感情に戸惑っていた。しかし、そうこうしているうちに夏休みがまもなくやってくる。

 毎年この時期の悩みの種といえば、大体決まっている。


 それは、夏祭りに行くかどうかということだ。夏祭りにはぜひ行きたい。なんと言っても、あの夜空に打ち上がる大輪の花火を見なければ、夏っていう感じがしないのだ。友人に誘われたりすれば、夏祭りを満喫できるというものである。

 ただ、別に誰かに誘われるわけではない。例年、長期休みのうちは友人との接触がほとんどない。そのために、誘われるわけでもないし、逆にこっちから誘うわけでもないのである。

 しかし、夏祭りに1人で行くのはどうなのか、と、このように毎年思うのである。夏祭りなんて、それも花火大会の場合、友達同士かカップルで出かけるのが一般的だ。だとすれば、やはり1人で行くのは——と考えているうちに、当日になり、1人で出かける羽目になる。


 今年こそは誰か誘おう。思い立ったらすぐに……。

「えー、1学期の初めに、私が話したことを覚えていますか、えー、生徒の皆さんは。あー、私はですね、この学期の始業式の時にぃー……」

「……校長、去年とおんなじこと言ってね?」

「そうだよな、校長っが言うことっていつも中身ないよな」

終業式の式辞を述べるテレビの中の校長は、花火大会という重要事項を思い出させた。教室の隅の花瓶には桔梗が刺さっていた。


 終業式後の長いホームルームという、ほとんど何もすることのない時間は、身支度以外、ほとんど何もしないまま終わった。しいて言うなら、柿くんとか鈴木くんとかと少しだけ雑談した。それ以外は、本を読んだり、タブレットを弄ったりした。

「明日から夏休みだ。えー、終業式で教頭先生が言っていたように、羽目を外さないように」


 ってなわけで、1学期も終わった。時間切れだ……。

 いや、そうではない。連絡手段がまだあるではないか。ショートメッセージがある。


 ところで誰を誘おう。……誰でもよかったんでしょと思われたくはない。誰でもよかったとは思われてはいけない。

 ———じゃあ、誰でもいいわけではないって人を誘えばいい。———そうだよ。じゃあそうしよう。というかそうすべきなのかもしれない。


 いざケータイの画面に向かっても、そのまま指を運んでポンポンッというわけにはいかなかった。


 7月24日空いてる?と、こう聞いてみるとするか。——いや、こう聞いたら、何で?って返ってきて、こちらの返信によっては、空いてないって答えが返ってくるかもしれない。

 そこで、何かその他の、相手の様子を伺いながらしれ〜っと誘ういい方法は何かないかと考えては見たものの、なんせ人を誘ってみるという経験が少ない。他の人はどういった誘い方をするのだろうか。

 

 気づいた時には、7月24日空いてる?と送っていた。他に聞きようがなかった。今の僕には。


つづく

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