【連載版始めました】悪役令嬢は全力でグータラしたいのに、隣国皇太子が溺愛してくる。なぜ。
【連載版】も始めました✧︎◝︎(*´꒳`*)◜︎✧︎˖
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深緑の葉を朝露が濡らし、柔らかな日差しを受けた清浄な空気が私を包む。すがすがしい朝を呑み込むように、めいっぱい空気を吸い込んだ。
ゆっくりと息を吐き出しながら、そよ風に揺れる木々に視線を向ける。バルコニーを見下ろすように立つ木の上では、小鳥たちが私の未来を応援するように歌っていた。
お父様の起きる時間に合わせて準備は整えた。バッチリと戦闘服である赤と黒のドレスに身を包み、バルコニーから部屋へと入りそのまま廊下まで勢いよく進んでいく。
廊下に出て左に進路を変え、壁の名画を横目にまっすぐ目的地を目指した。
——やっと準備が整った。ようやく私の本懐を遂げられる。
長かった。本当に長かった。
私は前世を日本人として生きた独身アラフォーのOL、いわゆる枯れ女だった。一応、彼氏だっていたことはあったけど、デート代はすべて私持ちだったり、無職で浮気男だったり、DV男だったりとあまりいい記憶がない。
幸薄そうな見た目が災いし、愛人の誘いや本命の彼女がいるけどなんて二股前提の男もいた。
すっかり男性不信になった私は婚期を逃し、本当に枯れたような生活を送っていた。
両親は事故で他界していたから妹の美華とは仲がよく、美華は漫画や小説が大好きだった。週に一度は顔を合わせてその作品について熱く語られたけど、美華の楽しそうな笑顔を見ているだけでよかった。
美華が特にハマっていたのは『勇者の末裔』という小説で、漫画も大ヒットしていて、今度アニメ化すると嬉しそうに話していた。
その中でも一番人気のキャラが冷徹だけど一途な皇太子、アル様だと言っていた。『鍛え上げられた頑強な肉体、鋭利な刃のような眼差し、真っ直ぐに伸びた鼻梁、艶のある唇。一途な愛。お姉ちゃんの相手にピッタリ!』と何度も語られたので私まで覚えてしまった。
その頃、半年かけて手にした成果を若くてかわいい後輩に奪われた。上司たちは後輩を褒め、私は叱責され、誰にもフォローさえしてもらえずヤケ酒を飲んだ。
その後、湯船で寝てしまったのが最後の記憶となっている。
そして私は『勇者の末裔』に出てくる、バッドエンド確定の悪役令嬢ユーリエス・フランセル公爵令嬢になっていた。
一週間も高熱にうなされたのがきっかけで思い出した。
最初は混乱していたが、三日くらい経ってようやく落ち着いた。妹のことは心配で仕方なかったけれど、今の私にはどうしようもできなかった。
少し冷静になりこの状況を考え、昔妹に勧められて読んだラノベにあった『転生』だと理解して現在に至る。どうやら物語が始まる前らしい。
残念なことに転生特典のようなものはないらしく、このままでは私の将来はお先真っ暗だ。さらに浮気に忙しい王太子の政務が、こちらに回されるようになってしまう。
社畜だった私はもう馬車馬のように働くことにうんざりしていた。
一番に愛されない生活も、枯れ草のように潤いのない毎日も、なにもかも。
問題はユーリエスが王太子の婚約者でいることだ。この先、物語が始まればヒロインが現れ、王太子は真実の愛に目覚める。そして私が浮気相手を排除してきた証拠を突きつけ、稀代の悪女だと言って処刑するのだ。
原作で王太子が浮気しまくっていたとか、そういう描写があったかは知らないけれど、ユーリエスからみたらただの浮気男だ。
それなら危険を排除して、前世の知識を活かしてお金を稼ぎ、引きこもって悠々自適の生活ができるのでは!?
ただグーダラして、自由気ままに生きていけるのでは!? それはつまり、夢にまで見た生活の不安のないプロのダラ!!
と考えた。ここまでが一年半前の出来事だ。
重厚な作りの焦茶色の扉を開き、毛足の長いカーペットの上を足跡なく進む。
執務机で難しい顔をしているお父様に向かって宣言した。
「お父様、王太子殿下との婚約解消を希望いたします」
「……は? お前、いったいどうした? どこか頭でも打ったのか?」
お父様の言いたいことはわかる。
以前の私からは想像できない発言だろう。それなら言い方を変えよう。
「私は目が覚めたのです! 今までは王太子殿下をお慕いするあまり、仲良くされていた女性を自ら進んで排除してまいりましたわ。ですが、そんな狭量な女は王太子妃にふさわしくないのです! 排除したご令嬢たちに顔向けできませんので、このまま国を出て行きます!!」
ここまで一気に言い切った。
一年半前から浮気相手の排除をやめて心から謝罪して回り、代わりに私が開発した手作り化粧水を普及し、事業として商売できる目処まで立てた。
拠点は帝国にしてすでに住まいも用意してあり、自宅兼事務所の小さな一軒家は私好みの内装で整えた。帝国を選んだ理由は、単純に市場規模が大きいからだ。
前世では薄給だったため節約していた知識が役に立ったのだ。
すでにそれぞれの部門長に運営を任せたので、これからはオーナーとして利益を享受するだけになっている。
ついでに仲良くなったご令嬢たちから、王太子殿下の命令で逆らえなかったと聞き、浮気の証言をたくさんもらうことができた。
「……ユーリエス。確かにここ最近は落ち着いたようだったが、婚約解消までしなくてもいいだろう?」
「いいえ、王太子殿下は変っておりません。これは前から考えていたことです」
というか、人前に出たくない。ずっと引きこもってグーダラしていたい。前世で働きまくって死んだので、ここでは平穏にのんびりと暮らしたい。
それにこの縁談は王家から打診されたものだ。こちらとしては忠誠心を示すために受けたが、王太子の度重なる浮気が原因なら、国王も納得してくれるだろう。
「ユーリエス……そんなに自分を責めていたとは……気付いてやれなかったな。わかった、婚約解消はなんとかしよう。しかし国から出るのは私が許さない」
「お父様、それでは罪を犯した罰になりません。幸いにも帝国で事業が始められるよう準備は整えてあります。これくらいの苦難でなければ、皆様が納得されません」
「まったくお前は……わかった。好きにしなさい。だが公爵家の護衛騎士はつけるからな」
「ありがとうございます、お父様」
そう言って淑女の見本のようなカーテシーをして、お父様の執務室を後にした。
それから三カ月が経ち、私は帝国の自宅で化粧品販売の指揮を取りながら、悠々自適な生活を送っていた。
護衛の部屋と私の寝室、仕事部屋にリビングとキッチンだけのこぢんまりした一戸建ては、帝都の外れに位置している。
日々の暮らしは穏やかで、父がつけてくれた専属護衛のフレッドは逞しくて帝国のことにも詳しく、頼り甲斐がある有能な騎士であった。新顔だったから、私のために帝国出身の人材をわざわざ雇ってくれたのだろう。
艶のある銀の髪はサラサラで、サファイアみたいな瞳はどこまでも透き通っている。騎士だけに鋭い眼差しで、高い鼻と適度な厚みのある唇がバランスよく配置され、かなりの美形だ。
なにも喋らないと整った顔立ちも相まって冷酷な印象を受けるけれど、言葉を交わせば細やかな気遣いもできる心優しい人だとすぐにわかった。
一緒に暮らすうちにフレッドと打ち解けていき、私のことはユーリと愛称で呼ぶようになった。公爵家でも専属侍女にはそのように呼ばれていたので、心を許してくれたみたいで嬉しかった。
「ユーリ様、こんなところで眠っていてはお風邪を召されますよ」
「うう〜ん、でも眠くて……」
「それでは、俺が寝室までお運びいたします。失礼いたします」
そう言って、子猫を抱き上げるように軽々とお姫様だっこされた。昨日は新商品の開発で朝方まで起きていたので、このまま眠ってしまいそうだ。ていうか、寝てしまえばいい。私を縛るものはなにもないのだから。
フレッドがそっとベッドへ私を寝かせる気配を、沈みゆく意識の中で感じていた。
ここでダラダラと過ごしていて、気が付いたことがある。
ただダラけているだけではプロとは言えない。それはただ怠けているだけだ。ダラのプロとは微塵も生活の不安がないくらい働き、休みの日にはしっかりとダラける。
それこそベッドから一歩も動かず済むように、しっかりと準備を整え好きに過ごしてこそのプロだと気が付いた。さらにそのギャップこそが至上の喜びに繋がるのだ。なにごともメリハリが大切である。
目が覚めるとすでに日が暮れていた。もそもそとベッドから這い出して、一階のキッチンへ向かった。
「ユーリ様、起きましたか? 夕食の準備がちょうどできたところです。召し上がってください」
「え、本当!? すごいわね……私の起きる時間までわかるなんて」
「たまたまです。ほら、おかけください」
「ええ、ありがとう」
こんな風にフレッドは護衛騎士以上の役割を、笑顔でこなしてくれる。来月からさらにお給金をあげようと、心に決めた。
それから二週間後には新商品の開発も終わり、いよいよダラの時間がやってきた。
私はドレスを脱ぎ去り、ゆったりとしたシフォンドレスを見にまとった。
飲み物とつまみ食い用の焼き菓子を用意する。甘いものを食べたらしょっぱいものも欲しくなるので、塩の効いたミックスナッツも準備しておいた。
大きめのクッションをふたつと、小さめのクッションを何個かベッドの上に置けば完璧だ。フレッドにはダラの時間に入ると宣言してあるので、よほどでなければ寝室までやってこない。
グイーッと伸びをして、思いっ切りふかふかのベッドにダイブした。
「はあああ〜、やっとゆっくりできるわ〜!」
寝転びながら街で買ってきた人気のマドレーヌを口の中に放り込んだ。
ふわりと広がるバターの香りとコクのある甘さ、しっとりとしているのにふわふわの生地が口の中で解けていく。疲れ切った心を癒す極上スイーツに顔が緩む。
紅茶をひと口飲んででスッキリしてから、サイドボードに置いてあった読みかけの本を手に取った。しおりを挟んだページを開き、あっという間に物語の世界に没頭していく。
今読んでいるのは、この世界の恋愛物語だ。
笑わない悪女が浮気した王太子から婚約破棄されて、爽快にやり返し隣国の皇太子から溺愛されるお話だ。悔しがる王太子にスッキリして皇太子のヤバいくらいの愛情に大満足だった。
「ふふ、こういうのは美華が好きなのよね。よく読まされたっけ」
今でも美華のことを思い出す。ひとり残してしまった妹は、私が死んでもちゃんと立ち直っているだろうか?
私と違ってぱっちりとした瞳に愛嬌のある笑顔で、いつも周りを明るくする向日葵のような子だった。
どうか幸せになっていて——そう願わずにはいられない。
新商品の売れ行きは好調でますます生活は安定し、平和な時間が過ぎた。好きな時に起きて好きな時に寝て、好きなことだけして過ごしている。
しっかりと休んだおかげで、心も体もリラックスできた。そろそろ働くかと思っていた矢先のことだ。
「ユーリ様、目的は不明ですが元婚約者の王太子殿下がお見えになってます」
「え!? どうして今頃……?」
とっくに婚約は解消されているのに、なぜか王太子が訪ねてきた。フレッドは珍しく厳しい顔つきだ。
面倒だと思ったけれど無視することもできず、私が対応することにした。
玄関まで行くと、勢いよく王太子殿下が詰め寄ってくる。玄関先では近所の目もあるので、仕方なくリビングに通してお茶を用意した。王太子殿下の対面にゆっくりと腰掛ける。
すると王太子殿下が捲し立てるように口を開き、勢い余ってテーブルに手をつき身を乗り出してきた。
「ユーリエス! 婚約解消とはどういうことだ!? お前は私を愛しているのではなかったのか!?」
「失礼ですが、王太子殿下。私とはすでに婚約を解消いたしましたので、ユーリエス嬢とお呼びください」
「くっ、いいから質問に答えろ!!」
こちらの話は聞かないのに、自分の質問に答えろとは本当に身勝手な男だ。だけど、確かに以前付き合っていたDV男がこんな感じだった。私の真後ろに立つフレッドの殺気を感じ取ったのか、王太子殿下は浮かせた腰をソファーに下ろす。
「では僭越ながら申し上げます。私は王家への忠誠と家門のためを思い、王太子殿下と婚約を結んでおりました。政略的な婚約でしたが、確かに愛はございました」
「そうだろう! ならなぜ……!」
「それは、王太子殿下がご進言差し上げても聞き入れず、数多の令嬢たちと浮気されたからです」
本当にユーリエスはこんな男のどこがよかったのか。見た目しかいいところがない。DV気質で浮気性なんて、いくら王太子でもごめんだ。
それに王太子妃なんてやったら、ダラのプロを極めるどころではなくなる。絶対になにがなんでも避けなければならない案件だ。
「あんなものは遊びに過ぎないとわかっているだろう! 将来はお前が私の妻になるのだから、ゆったりと構えていればいいのだ!」
「……いえ、私はそれほど寛容にはなれません。度重なる裏切りですっかり心が枯れ果てたのです」
「だったら、これから存分に愛を注いでやるから戻ってくるのだ!」
なにを今さら慌てているのだろうか。そんなに別れてほしくなければ、最初から大切にすればいいのに。この会話を耳にしているフレッドから、ピリピリとした魔力が漏れ出している。主人が理不尽なことを言われて、忠誠心が篤い騎士だから怒りを感じるのだ。
「これ以上食い下がるのでしたら、ご令嬢から集めた証言を王太子殿下の不貞の証として国王陛下へ提出いたします。父から渡せば、あの数では国王陛下でも無視できないでしょう」
「そっ……そん、な……私は、お前がなにも言わなかったから……問題ないのだと……」
私がなにも言わなかったのは、以前の私が王太子に嫌われたくなくて黙って耐えていたからだ。
記憶を取り戻してからは、一瞬で気持ちが冷めたけど。
「私がなにも言わなければ、数々のご令嬢と浮名を流してもかまわないというのですか?」
「……だって、いつだってお前は微笑んでいたじゃないか!」
「微笑みの下は、いつも悲しみと嫉妬であふれてました。もう、そのような思いはしたくありません」
「それでは私が王太子でいられないのだ! 激怒した公爵から廃太子を迫られて、お前と再度婚約しないと私は——」
「だからなんですの? 婚約者でもない私には関係のないことです。お引き取りください」
王太子殿下は返す言葉がないようで、フレッドに引きずられ項垂れたまま応接室を後にした。王太子殿下を追い出したフレッドが戻ってきて、心配そうに私の顔を覗き込む。
「ユーリ様、大丈夫ですか?」
「ええ、婚約解消してから三カ月も経つというのに驚いたわね。まったくいい迷惑だわ」
それにお父様も実は相当怒っていたようだ。宰相を務めるお父様が王太子殿下の処罰を求めたなら、きっともう終わりだろう。
「では、俺が求婚しても迷惑でしょうか?」
「え……?」
突然の展開に驚き、言葉が続かない。
「ユーリ様と過ごすうちに、いつの間にか心惹かれておりました。この身に変えてもユーリ様を一生守り抜くと誓います」
「そ、そんな……急に言われても……」
「……俺をただの男として見てもらえませんか?」
フレッドと過ごした帝国での日々は、本当に穏やかで癒される毎日だった。
ずっとずっと誰にも頼らず頑張ってきた私を、守ってくれると言ってくれるの?
もう、ひとりで頑張らなくてもいいの?
「こんなダラのプロを目指すような私で幻滅しないの?」
「ははっ、あれには驚きましたが、その前に十分すぎるほどお仕事をされてましたから。メリハリがあっていいと思います」
「本当に、ずっと、一生守ってくれるの?」
「はい、この剣に誓って。俺は生涯ユーリ様だけを愛し、お守りいたします」
騎士が剣に誓うということは、まさしく命懸けで誓いを果たすということだ。
どうしよう、すごく嬉しい。でも、このまま頷いてもいいのだろうか? 前世も含めてこんな経験ないから、どうしていいかわからない。
「あの、すごく嬉しいけど……ちょっと……」
「やはり、すぐには決断できませんか。では、俺と一緒に来ていただきたいところがございます」
「え? どこへ?」
私がいくら尋ねてもフレッドが答えてくれることはなく、そのまま外へと連れ出された。
家の前にはやたら立派な馬車が止まっていて、フレッドが優雅にエスコートしてくれる。微笑みを浮かべたフレッドはまさに王子様のようにキラキラしていた。
馬車に揺られている間もフレッドは無言のままで、初めて見る様子に不安が込み上げる。車窓には薄いカーテンがかけられていて、外の様子はわからない。
やっと目的地に着いたのか、馬車は止まった。フレッドに宝物を扱うようにエスコートされて、馬車から降りるとそこは帝国の帝都にある皇城だった。
「え、どうしてここに?」
「このまま私についてきてください」
フレッドはどんどん皇城の中へ進んでいく。
すれ違う貴族たちはみんな道を開けて、頭を下げていた。皇城を守る騎士については胸元に拳を当て、フレッドに敬礼している。
これは、嫌な予感しかしない。
やがて貴族たちの姿も見かけなくなり、騎士たちが厳重に警備する建物へ入った。フレッドは無言のままで、話しかけるのもはばかられる。
どこをどう曲ったか覚えきれないほど、皇城の奥まで進みある扉の前で立ち止まった。純白の扉には薔薇の花が飾り彫されて、持ち手は金でできており繊細な模様が美しい。場所から考えてもやんごとなきお方のお部屋であることは間違いない。
「入るぞ」
短く声を掛けて、純白の扉を押し開く。部屋にツカツカと進んでいくフレッドは私の手を握ったまま離してくれない。
部屋の中は白で統一された家具が配置され、当然のように細やかな細工が施されている。鼻腔をくすぐる香りは、どこか懐かしくて切ない気持ちになった。
この香り……どこかで……。
「ミカエラ」
フレッドが声をかけた相手は、やはり皇族。帝国の皇女であるミカエラ殿下だった。
ミカエラ殿下は絹糸のような銀髪を背中に流し、ぱっちりとした二重の瞳は目の覚めるような鮮やかな青だ。小ぶりの鼻と薄く色づいた唇がかわいらしい。
しかもフレッドが皇女様を呼び捨てにするということは——
「お兄様、そんなに慌てて……ああ、もしかして失敗したのですか?」
「まだ失敗していない。だが、俺の決心がついたらここに連れてこいと言っただろう?」
「ええ、そうね。ふふふ、この時をどんなに待っていたか!」
ミカエラ殿下は私に嬉しそうな笑顔を向ける。そしてやっぱりフレッドはこの帝国の皇子だった……!! どうしてそんなやんごとなきお方が、私の護衛騎士なんぞをしていたのもわからない。途中から、もしかして、いやいや、もしかしなくてもそうだよね!? と思ってはいたけど。それに、私、ついさっきプロポーズされなかった? この皇子に!!
ミカエラ殿下がなにを待っていたかは知らないけれど、きっと私は無関係だし勘違いだと思う。ていうか思いたい。
「お姉ちゃん……」
「いえ、私はミカエラ殿下の姉ではございません。挨拶が遅れましたが、ユーリエス・フランセルと申します」
「ユリお姉ちゃん、ずっと会いたかった!!」
そう言って真珠のような涙を流して、ミカエラ殿下が抱きついてきた。その時、また懐かしい香りが私の鼻腔をくすぐる。
「わたしだよ! ミカ、美華なんだよ、百合お姉ちゃん!!」
「……え? み……か? 本当に美華なの……?」
そんな、まさか、そんな奇跡があるわけない。
ずっと幸せになってほしいと願っていた。あの子だけ残して死んでしまったことをずっと後悔していた。
その美華が、ここにいる? 私と同じように転生した?
そうだ、この香りは美華がずっと愛用していた香水の香りだ。
「ごめんなさい! お姉ちゃんがこんなことになったのは、わたしのせいなの!!」
「待って、どうしてそうなるの? 本当に美華なら私だって会えて嬉しいのよ?」
そう言うと堰を切ったように美華は泣き出した。
詳しく話を聞くと、私が死んだタイミングで美華も交通事故にあったらしい。薄れゆく意識の中で、私と一緒に幸せになりたかったと強く願ったそうだ。
そしてある時、前世の記憶が蘇り私を探していたそうだ。
諦めかけた時に私の開発した化粧品を使う機会があって、それで見つけられたらしい。そこで皇子にすべて話し、私のことを吹き込み、興味を持った皇子が私を知るために父に頼んで護衛騎士にしてもらったそうだ。
皇城に呼びつけて紹介したり、皇帝陛下から命令させればよかったのでは? と聞いたら、それではただの政略結婚であり、私がちゃんと愛されないとダメだと考えたらしい。
「それでね、お姉ちゃんを結婚相手に決めたらここへ連れてきてって頼んでおいたの! 絶対にふたりはベストカップルだと思ったのよ!!」
「ははは……そういうこと」
「ああ、今まで騙していたようですまない。俺はこの帝国の皇太子アルフレッドだ。改めて俺の妻になってほしい」
アルフレッド。なるほど、確かにアル様でフレッドだ。そもそも美華からはアル様としか聞いてないから、まったく気が付かなかった。
「え、それならお断りします」
「えええ! なんで断るの!? お姉ちゃんには絶対アル様がお似合いだから!!」
「俺はユーリを妻にすると決めたんだ。なにがダメなのか言ってくれ!」
なんということだろう。この兄妹は私を皇太子妃にしたいらしい。ていうか、中身は妹の皇女殿下に背後から撃たれまくっている。逃げ切れる自信はないけれど、ダラは譲れないのだ。皇太子妃なんてとんでもない。
「お兄様、絶対にお姉ちゃんは逃しませんわよ」
「当然だ。まずは住処をここに移そうか? ユーリ」
「ええー……それは大丈夫です。もう家に帰りますので。失礼します」
「待て。ユーリ、俺から逃げられると思うなよ?」
それから逃げに逃げたけれど、結局フレッドに心惹かれてしまった。私の平穏なメリハリあるダラ生活を維持する条件として、週休二日を約束してもらいプロポーズにイエスと答えた。
その後、フレッドに溺愛され、妹は最推しと結ばれた。
途中、王太子がストーカーになったり、前世で手柄を横取りした後輩が聖女としてやってきたりと、いろんなハプニングはあったけれど楽しく幸せな時間を過ごしたのだった。
お腹に宿る我が子が大きくなったら、いや、この子が大きくなるまでに、みんな誰かに愛されて生きるのだと教えたい。
数ある作品から選んでいただきありがとうございます!
転生ものは初めてなのですが、楽しんでいただけましたでしょうか?
少しでも面白いと思われましたら、ブックマークや★★★★★などで応援してくださると嬉しいです(*´꒳`*)
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【連載版】始めました!大幅加筆して投稿しています(*´꒳`*)
短編では物足りない溺愛や、「逃げられると思うなよ?」の先など気になる方はぜひ読んでみてください♡
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2023.3.14 異世界転生恋愛日間ランキング2位 ありがとうございます✧︎◝︎(*´꒳`*)◜︎✧︎˖
また異世界恋愛でも短編をあげてますので、こちらも読んでもらえるとさらに嬉しいです!
『氷の悪女は嗤いながら毒の花を咲かせる』
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