第96話 王都決戦3・恵みの雨
俺本体がようやく王都にいる光のゾンビに追いついた。グレイプニルのお陰で翼を破壊できたのは大きい。だが再生するので時間はない。この好機に賭けるしかない。
「聖騎士団アイン、突撃!!」
鎧コウモリなどの召喚獣を敵の眼前へ飛ばした。ここに来るまでにたくさん召喚しておいた甲斐があった。
「オオオ!」
光ゾンビは空を破るような叫び声を上げて、体中から剣先が生えたかと思うと、ロケットのように勢いよく全方位へ射出した。
「大味なんだよ!」
鎧兵を何十体もやられたが、こっちには一万体いる。適当に範囲攻撃したくらいでは全滅しない。
「あそこは……! いい位置にいやがるぜ……!」
俺は“とある場所”を見てニヤリと笑った。天はまだ俺の味方をしてくれている。今いる敵の位置なら奇策が使えるはずだ。
残るSB改は二個だけ。確実に当てる状況がいる。
狙うなら体に無数の穴が開いて蚊の巨獣を出してきた時だろう。恐らくヤツはビームと蚊を同時に出せない。出せば蚊をビームで巻き込んで殺してしまうことになるからだ。
だからそこがチャンスというわけだ。蚊はトロいし、大きく隙ができるはず。
俺が今やるべきことは、蚊を出現させやすくすること。グレイ達に差し向けてきたところを見れば、歩兵をぶつけたら出してくるはず。
さっそく鎧コウモリで撹乱して、その間に歩兵を足元へ。
「オオオオオ!」
イライラしてきたであろう敵の体に穴が開いた。
「来るか!?」
しかし、残念ながらビームだ。
俺本体もビームを避けつつ、召喚を続ける。
「早く出せ早く出せ早く出せ!」
俺の焦りをあざ笑うかのように鞭、剣、盾を使ってくる。続けて鞭、鞭、鞭。
おい! もっとバランスよく使えよ! てめぇは乱数偏ったクソゲーのボスかよ!
歯が砕けそうなくらい歯噛みしていると、ようやく敵が蚊を出してきた。
「来た! ここしかない!」
クロスボウでSB改付きの矢を放つ。
その希望の矢は敵に当たることはなかった。だがしかし。
「よし、当たった」
外れて光ゾンビの足元に刺さった矢が爆発。玉響、地面から“温泉”が噴き出した。そう、そこはトマティナ、オイチの二人と入った大浴場のある場所だった。
これで倒せるわけではない。しかし、動きは鈍るはず。なぜならコイツらゾンビは“水”に弱いからだ。
何度か戦ったゾンビ達には“動きのない”時間があった。それはゴブリンを倒した後からリザードマンが来るまでの期間、リザードマンを倒してゾンビの群れが急襲してくるまでの期間、藍色ゾンビを倒して七体のゾンビが進撃して来るまでの期間の三回だ。それらの時期に共通するのはいずれも“雨”が降っていたことだ。
偶然と片付けるには違和感を覚えていた俺は、虫好きルシフェルに蚊について聞いていた。
蚊などの小さな虫は雨粒ひとつ取っても脅威なため、雨の時は葉の裏などで休んでいるらしい。もし、その習性が蚊を媒介するゾンビ達にもあるとしたら策に使えないか、ということを考えていた。
「アアアア!」
叫びを上げながら光ゾンビの動きが鈍る。やはり水が苦手、正確には液体がダメなのだろう。体を覆っているヘドロ状の液体の濃度が下がるというのもありそうだ。
「ここしかない! いくぞ! 全開放!!」
俺本体の周囲に鎧兵と召喚獣が延々と召喚される。敵に位置がバレようともお構いなしだ。これで決める!
「うおおおお!」
全ての駒を、さながら龍のごとく突撃させる。
敵は動きが緩慢になっている中でも、鞭やビーム、蚊を出して応戦してきた。
「数で負けるかよ!」
一気に押し込む。そして遂に敵の口からありったけの鎧コウモリを叩き込んだ。
「ゴガガ!」
みるみる内に光ゾンビのお腹が膨らみ、すぐに破裂して体が半分に千切れた。
「まだまだぁぁ!」
ゾンビは頭を潰さなければ倒せない。散々分からされてきたことだ、抜かりはない。
俺はありったけの鎧コウモリを頭部へ向けて落とした。さすがに一万体居れば潰れるだろ!
「おっと、忘れるところだった」
俺は一体の鎧兵に最後のSB改を持たせた。やっぱ最後は派手に決めたいよな。
「ごーとぅーへる!」
俺はクソ発音で手向けの言葉を放った。刹那、青い炎が敵の頭部を包んだ。
静寂。爆ぜる音だけがパチパチと響く。
そして煙が消えた先、光ゾンビは完全に動かなくなっていた。
「よっしゃああああ! 勝ったあああ!」
どこかに人がいるかも知れないが、お構いなしに勝利の雄叫びを上げた。
危なかった。今回ばかりは本当に終わったと思った。でも、勝った、勝ったんだ!
「アハハハハ!」
勝利の余韻に浸りながら拳を天に掲げた。




