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第9話 勘違いな日常2・修道女ナナバ

 女型鎧兵が貧民街に行っている一方、ゴリラっぽい鎧兵の騎士団No.17“ウホホイ”は、街の北東にある修道院に来ていた。


「まぁ! ウホホイさん! 来てくださったのね!」


 ウホホイに気付いた修道女“ナナバ”が駆け寄ってきた。二十代後半ぐらいでタレ目。癖っ毛っぽい金髪がバナナのように跳ねてシスター服からはみ出している。


 彼女とはちょっとした知り合いで、まだマルクト王国に入国が許可されず宙ぶらりんな状態だった頃、水や食料、薬草酒などを無償で分けてくれたのだ。


「ウホウホホホウホ!」


 いきなり何言ってんだ俺、と初見なら誰もが思うだろう。ウホホイは激しい戦闘の末、脳の言語野をやられて上手く言葉を喋れなくなった、という設定なのだ。なんでそんな設定にしたの俺。


「まぁ! またモンスターを倒してきたのね! 凄いわぁ!」


 何で通じるんだよ。


「ウッホーウホウホウッホッホッー」


 この前のお礼に薬草酒の代金持ってきました。


「あらぁ、そんなのいいのに。困った時はお互い様でしょう?」


「ウッホホウッホホウッウッホー」


 そうはいきません。修道院に恩を返さねば神に嫌われてしまいます。


「うふふ、義理堅いのね。でもやっぱり受け取れないわ。百人もいれば色々と物入りでしょう? そちらに使ってあげてくださいな。きっと神様もお許しになりますわ」


 うーん、一人分でいいから駄々余りなんだよなー。


「ウホホイウホホイウッウッウッー」


 では修道院へのお布施ということにするのはどうでしょう。


「そんな本当に気になさらなくても……でも、これ以上断るのは野暮ですわね。はい、ではありがたく頂戴します」


 うんうん、良かった良かった。それともう一度だけ言っておこうか……なんで通じるんだよ!


 ウホウホ言ってると何というか、人として何かが失われていく気がするウホ。


「あ、そうだわ! この前、品種改良して収穫時期を早めたバナナが採れたのですわ。それ良かったら持っていってくださいな」


 へぇ、品種改良とか出来るのか。凄い技術が進んでいるんだなぁ。異世界の癖に。コラ、偏見は辞めなさい俺!


 そうこうしている内にナナバさんがいそいそと修道院に入っていった。


 数分後。


「お待たせしましたわ。どうぞ味見してみてくださいな」


 地球にあるのとそっくりの美味そうな黄色いバナナの束。しかし、味見は困った。鎧兵は飲食出来ないのだ。一応、口の部分から鎧の中に入れることは可能だが、消化や転移はさせられないので歩いているうちに内部でバナナシェイクが完成してしまうだろう。


「あ、そうよね。気付かなくてごめんなさい」


 うん? 何がだろう?


 彼女はバナナを一本、房からむしり取り、皮を剥いて頬張った。


「うん、美味しいわね。もちろん毒はないわ」


 毒味か。ありがたい。彼女も俺が聖騎士団に強行指名されて危うい立場にいることを理解してくれているのだろう。


「ウホホホ、ウホ」


 せっかくだし一本食べます。皮ごと。


 こんな事もあろうかと鎧の内側にポケット的なものを作っておいたからバナナ一本くらいは保存できるはず。


「良かったわ。って、えっ、皮ごと?」


「ウホ」


 大丈夫です。


「そう、じゃあ。はい、あーん」


 ナナバさんが口元にバナナを持ってくる。あーんって。子供じゃあるまいし。クールでナイスガイな俺はそんな幼稚な事はしない……と言いたいが、ここはさ、ほら、なんか、えっとそうそう! 仲良くしないといけないから! 仕方なくやりますか! いやーホントはやりたくないんだけどなー! ということでいただきまーす!


 口の部分を開き、素早く丸呑みした。口内に甘さが広がる……訳はないが心が満たされていく気がする。そして。


 美味しいよママぁ! ……ハッ、俺は何を言っているんだ。俺は硬派な男。普段は絶対そんな事口にしない。しかし、男というものはナナバさんのように母性の溢れる女性を前にすると幼児退行してしまうことがあるのだ。当社調べ。


 もう一度言うが俺は硬派な男。もう二度とママなどと戯れ言を口にすることはないだろう。


「美味しい?」


「ウホウホ!」


「良かったぁ。そうだわ、お水も欲しいわよね」


 この国の水は神樹から湧く。煮沸しなくても飲める素晴らしき水だ。俺の屋敷の周りにも湧いていて助かっている。しかし、液体はマズイ。鎧の隙間からお漏らししちゃう。


「あら、ここもなの」


 水を取りに行くべく振り返ったナナバさん。しかし、水場にはゴルフカップくらいの穴が開いているだけで何も湧いていない。


「最近、水が湧かないことが増えたのよね。どうしたのかしら」


 そういえば俺の屋敷の水場も湧かないことがあった。節水的なことかと思ったがどうやら違うらしい。ともかくちょうどいいので水は断った。


 その後、少し談笑し、帰ろうとした時。


「お待ちになって」


 こちらに向けるように空中で十字を切るナナバさん。


「神樹セフィロトのご加護がありますように」


 神樹セフィロト。このマルクト王国を支える大樹の名だ。そしてその名を冠したセフィロト教という宗教があり、この国の大多数が入信している。当然ナナバさんも信徒の一人。俺の聖騎士団はそれらを保護するのが役割のひとつだ。以上、俺用のまとめでした。覚えられて偉いぞ俺!


「ウホウホ」


 ありがとうございます。


 と、ナナバさんに向けて頭を下げると、近付いて来た彼女に頭を撫でられた。


「うふふ、いい子いい子。気をつけてね」


 ママぁ!

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