第87話 観察
国民を聖地へ避難させつつ、俺、トマティナ、オイチの三人は未だ動きのない七体のゾンビを観察することにした。
雨が降って視界の悪い中、鎧コウモリを敵に近付ける。
七体中六体はヘドロを被ったような人型で、虚ろな表情をしながらユラユラと揺れて突っ立っている。そいつらの主な違いは体色だ。それぞれ、赤、橙、黄、緑、青、紫色をしている。すでに倒した藍色ゾンビを入れると虹の七色だ。
「あの六体は“蚊の巨獣”の腹部の色と似ているし、何か関係ありそうね」
「ああ、間違いない。一番奥のヤツを見てくれ」
最奥にいる最後の一体を注視する。他の六体と違い、全体像はドーム状だ。体色は虹色でシャボン液のように流動している。体中には数十個の目玉が不規則に並んでおり、嫌悪感を覚える。さらにそれを増長するように無数の穴が空いていて、中から虫の羽音が聞こえてくる。
「蚊の巨獣が中に居るわね。あの虹色ゾンビ自体が巣なのかしら?」
「どうだろうな。寄生かもしれないし、ゾンビが生み出しているかもしれない。遠くから見る限りでは分からないな」
「あれがゾンビを増やしているとして、倒せば戦力増強は防げそうね」
「もう少し確実な情報が欲しいところだな」
モニターとにらめっこしながら思考していると、オイチが長い銀髪を耳に掛けながら口を開いた。
「二人とも、紫のゾンビを見てくださいまし」
言われた通りカメラを拡大すると、紫ゾンビが体中から毒霧を噴き出していた。
「……毒霧はアイツが原因か。待てよ、ウェアラットの中にも吐くヤツがいたよな」
神樹近くのウェアラットの死体を調べると、“紫に染まった腹部の蚊”がいた。
「なるほど、分かりましたわ。あの蚊が人型ゾンビの体液を吸い上げ、それを他の巨獣に注入することでゾンビ化を引き起こしているのですわ」
「恐らくな。そして色によって付与される能力が変わる、と」
「赤が剣、橙色が大砲、黄色が修復、緑が透明、青が盾、藍色が剛腕、紫が毒霧ですわね」
「藍色は倒したからこれ以上増えないはず。確定ではないけどな」
「もしもの時のために遊撃隊を配置して臨機応変に対応するのがいいですわね」
「それで行こう。後はこれらを踏まえてゾンビ討伐の策が必要だな。……実は今までの情報からもう思い付いている」
「さすがね。二回も国を救っただけあるわ」
「難しい戦いになる。二人にも手伝って欲しい」
「もちろん」
「任せてくださいな」
「ありがとう。それじゃあ作戦の概要を話すぞ。まずは——」
二人に俺の考えを全て話した。
「——なるほど。色々と綱渡りではあるけどそれをやるしかないようね」
「かなり場当たり的な対応になりますわね。けれど、シロ様とお姉さまとわたくしならやれると思いますわ」
「ああ。時間もないしすぐに行動に移るぞ」
そして、俺達は国民の避難と並行して戦闘準備を進めた。
幸いゾンビ達に動きはなく、準備が終わる頃には朝になっていた。
夜通し降り続いた雨が止み、いよいよ攻撃を仕掛けようとした矢先。
「オオオオ!」
ゾンビ達が咆哮を上げ、神樹に向けて侵攻を開始した。
……先手は取れなかったか。だが想定内だ。むしろここまで滞りなく準備できたのは僥倖といえる。後は勝つのみ。
「——聖騎士団アイン、出陣」
そして国の存亡を賭けた戦いが始まる。




