第78話 蛇の入れ墨の男ルシフェル
女王マルメロや北方騎士団団長グレイプニルに会った次の日。
蛇の入れ墨の男ルシフェルに呼び出されていたのでNo.20のカブトムシ型鎧兵ヘラクレスを彼の私室へと向かわせていた。
ルシフェルは女王陛下の側近だ。必要なこと以外は一切話さない謎の多い男。……と思っていたのだが、最近分かったことがある。それは“虫好き”ということ。
「失礼しますカブト」
ヘラクレスの語尾には『カブト』が付く。三文字以上の語尾はちょっとクドイよな。誰だよ付けたやつ。俺だよーん!
「ああヘラクレスか。よく来てくれた」
よく通る低い声だ。ルシフェルは三十代くらいの彫りの深いイケメン。金髪で長髪。
「今日はどのような要件ですカブト?」
「ああ、この間見せたカブトムシ“さん”が成虫になってな。それを見せたかった」
ルシフェルは虫に『さん』を付けるタイプなんだよな。かわいい。
ちょっとニヤけていると、彼がお洒落な虫籠を持ってきた。中にはヘラクレスオオカブトっぽい見た目のカブトムシが入っている。
「おぉ! カッコいい!」
やっぱカブトムシはロマンだぜ。虫ってカッコいいよな。ただしGは許さない。
「そうだろう、そうだろう。この大きさにするのに苦労した」
片方の口端を上げてニヤけている。嬉しそう。でも笑い方下手だな。
俺の方がニコニコしていると、目の前に虫型のクッキーが置かれた。
「おやつだ、食え」
間食でも、お菓子でもなく、『おやつ』という言葉のチョイスに笑いそうになる。
「あいにく聖騎士団の掟ですぐには食べられないカブト」
胃がないからな。食べたらカランコロン音が鳴って粉々だろう。
「そうか。なら包んでやろう。後で食え」
カブトムシの絵が刺繍された袋に詰めてくれた。ルシフェルって何しても面白いな。
カブトムシを眺めていると、ルシフェルが話し始めた。
「知っているか? カブトムシのサナギの中身はほとんど液体なのだ」
「へぇ、意外カブト」
「ドロドロの状態からあのように硬質な体になる。神秘的とは思わないか?」
「確かにカブト」
「サナギというのは面白い。大人になるためのいわば切り替え装置。人間もそれくらい分かりやすければいいのにな」
哲学的なことを言ってルシフェルは紅茶を飲んだ。
「ところでヘラクレス。その『カブト』という語尾だが——」
なんだぁ? テメェまで俺のイケてるキャラ付けを馬鹿にする気かぁ?
「素晴らしいな。分かりやすくて親しみやすい」
ルシフェル、お前はいいヤツだ!
その後、少し雑談して部屋を後にした。
ヘラクレスを自動帰還モードに切り替える。俺本体はイスから立ち上がり、凝り固まった体を伸ばした。
換気のために窓を開ける。雨上がりの湿った地面の匂いが気にならないくらい俺の気分は良かった。
——だがしかし、そんな良好な気分も、直後に現れた“ゾンビ化した巨獣”により吹き飛ぶこととなった。




