第70話 トランポリン
新天地から無事に帰ってきた俺。
帰還を知ったマルクト王国民が出迎えてくれた。
「おかえり!」
「信じてたぜ。俺らの英雄達!」
「早く武勇伝を聞かせてくれよ!」
ったく、しゃあねぇなぁ。疲れてんだけどなー! あーやれやれ! とか言いながら自己肯定感爆上がりで悪い気はしない。
そんな中、真剣な顔をした踊り子トマティナが聖騎士団No.1の赤鎧ファイアの元へ駆け寄ってきた。
「……ファイア、ちょっと来て」
「え? お、おう」
ファイアだけを人目のない小屋の裏に連れて行かれた。
着いて早々トマティナが抱きついてくる。
「お、おい、ケガするぞ」
「黙って」
数十秒の間、俺は彼女をケガさせないように、長くて艶のある茶髪を撫でながら抱きしめていた。
「……生きててよかった。帰ってきてくれてよかった」
顔を上げた彼女を見ると、鳶色の瞳から涙が流れて頬を伝っていた。
ああそうか、そうだよな。俺、つまりファイアが戻らない可能性もあったんだよな。生きていても新天地に滞在する選択もトマティナ視点なら考えられるわけだし。もっとちゃんと戻ってくるって伝えておくべきだった。
「心配かけたな」
やっぱり俺の秘密を初めに話すならトマティナだと思う。これだけ心配してくれて泣いてくれるなら俺も彼女を信じたい。
たとえこの選択が間違っていて裏切られたとしても後悔はしない。俺の愛する女なのだから。
「トマティナ。大事な話がある。俺の屋敷に来てくれ」
彼女は黙って頷いた。
俺は女王やその他偉い人達に帰還報告だけをして、今日は疲れているので詳しい話は後日ということにしてもらった。
その間、トマティナを郊外にある俺のマイホームで待たせていた。
連絡を済ませた俺は、自室からファイアの鎧を着て彼女の元へと戻る。
「お待たせ。今から俺の秘密をトマティナにだけ話す。それを聞いたらもう後戻りは出来なくなるけど大丈夫か?」
「うん。あなたと一緒に居られるならどのような劇薬も飲み干すわ」
「分かった。まずは顔を見せるよ」
俺は一度、大きく息を吐いて、ゆっくりと兜をとった。
少し乱れた黒髪を直しつつ、恐る恐る彼女と目を合わせる。
「分かってはいたけどこの辺りでは見ない顔つきさね」
「あはは、ごめん。理想の顔ではなかったかな」
「顔なんてどうでもいい。中身のアナタが好きだから」
照れるけど嬉しい。トマティナはいつだって欲しい言葉をくれる。
「俺の本当の名前は有塚しろ。二十三歳で、日本という国に住んでいたんだけど事故に遭った時になぜかこの世界に転移していたんだ」
「他の人もニホンという国の人なの?」
「いや、すまないトマティナ。その聖騎士団、実は全員俺なんだ」
キーボードを空中に出して、団長ゼロやNo.99ポテトを呼び出した。そして兜を取って中身がないことを証明した。
「え、凄い……! どうなってるの?」
「原理は分からない。魔法のようなもので、気付いたら使えてたんだ」
「それで誰一人犠牲がなかったのね」
「そういうことだ」
俺は今まで起きたことを嘘偽りなく話した。ミノタウロスを倒したこと、新天地の話などなど。
彼女は真剣に、時に笑って話を聞いてくれた。人に話すってだけで凄く幸せな気持ちになる。
「今まで騙してたみたいでごめん」
「ううん、いいの。全部知ってもシロが好き」
そっと抱きついてくるトマティナ。俺も応えるように彼女を抱き寄せた。
暖かい。人の肌ってこんなにも暖かくて安心するんだな。心が満たされていく。鎧兵では得られない温かみがそこにはあった。
「もう我慢しなくていいよね?」
「俺でいいのか?」
「黙っていじめられなさいな」
そう言ってベッドに押し倒された。
ああ遂にトランポリンが始まってしまうのか。
視線が交差し、どちらともなく、そっと口付けを交わそうとした瞬間だった。突然の轟音。
「な、なんだ!?」
振り返ると天井が崩れ落ちていた。埃がモウモウと舞う中、目を凝らすと人影が見える。
「いたた、ですわぁ」
その人物は、占い師クズヨさんであった。
いつもの全身を覆っている紫のローブがはだけて顔が露わになっている。銀髪ロング、イチジクの葉型のピアス。間違いなくクズヨさんであり、貴族の令嬢イチクジでもあった。
「あ……ぐ、偶然ですわね」
「そ、そんなわけないだろ。警備がいたはずだがどうやって入った?」
「上、右、左、右、右、左、ジャンプですわ」
げっ、あのスフィンクスの攻撃回避コマンドは侵入経路でもあったのか。部屋を無理矢理改装していたせいで天井が脆くなっており最後のジャンプで破壊されたようだ。
とにかくヤバいな。俺の姿を見られた。
「どこまで聞いていた?」
「安心してくださいませ。何も聞いてませんわ“シロ様”」
「全部聞いてんじゃねぇか!」
思わずツッコんでしまったが、そんな場合じゃなくヤバい。よりによってこのクズに秘密を知られてしまうとは。どうにかしないと国中に秘密が露呈する。
「マズイですわよね。仕方ありませんからわたくしをイスに縛り付けて動けなくした後、二人で愛の囁きを続けてくださいませ」
見たいだけだろ!
まずいまずい。どうする?
俺が眉間に手を当てて悩んでいると、トマティナが口を開いた。
「それじゃあお言葉に甘えて続きをしましょ」
「えっ……?」
トマティナさん? 誰かに見られながらっていう背徳的なのがお好みなのかい? 初めての俺にはハードル高いんですけど?
俺が戸惑っていると、トマティナがクズヨさんの背後に回り、両肩に両手を置く。
「三人で、ね」
ええええ!?
「シロの秘密を知られた以上、彼女をそのまま帰すわけにはいかないわ。それなら体で分からせて身も心も懐柔した方がいいさね。彼女もまんざらではなさそうだし」
クズヨさんは瞳孔が開き、息遣いが荒くなっている。どう見ても怯えている人間の表情ではない。
「し、仕方ありませんわね。ただ忠告しておきますわ。わたくしが逃げないよう両手をベッドに縛り付けて目隠しをしておくべきですわ」
やる気満々じゃねぇか!
「うーん、困ったな」
俺がまだ躊躇っていると、トマティナが艶かしい手をクズヨさんの服の隙間から胸に差し込んだ。
「まさか何百人も束ねる聖騎士団の軍師様が二人の美女を手球に取れないなんてないさね?」
煽るねぇ。でもどうする俺。いいのか俺。手を出せば後戻りできないぞ俺。
そして葛藤の末、俺が出した結論は。
すまない俺よ。この(股間の)性騎士団、実は我慢の限界なんだ。
もうなんとかなれだ! 諸々の問題は賢者タイムになってから考えよう!
しかし初めてが三人か。不安だなぁ。……いや、こういう時こそ演じろ。モテ男を。アダルトな男になってやる。
「仕方ないな。遊んでやるよ」
と、キザなセリフを吐いて、俺達は朝までトランポリンした。




