第69話 新天地カーナ2・オレンジャ
俺はテンソと話し終わり、宴の続きを楽しんでいた。
あれ、そういえばオレンジャが居ない。渡そうと思っていた物があるので竜騎士バハムートを操作して探すことにした。
しばらく捜索した後、人気のない平地で一人たき火をしながら星を眺めていた右眼に眼帯の青年オレンジャを発見した。風になびく短めの赤毛。ガタイもいいので絵になる。喋らなければまぁまぁカッコイイのにな。
「オレンジャさん」
「お、ハムか」
「みんなと騒がないんですか?」
「オレだって一人になりたい事はある。特に今は夢の中にいるような気分なんだぜ。一人で噛み締めてぇよ」
希望に満ちた若者の瞳をしている。
「そうだ、キャロブゥさんから手紙を預かっていたんです」
貧民街のボスであり、オレンジャの育ての親でもあるキャロブゥの預かり物を差し出した。
「あの豚が手紙? 天地がひっくり返る前触れか?」
ひでぇ言いようだな。
「本物かどうか読んでみてくださいよ」
「……ハムが読んでくれよ。オレはこの通り目が悪い。頼む」
右目の眼帯を触り、自嘲気味に笑う。やけに素直だな。俺が女ならガサツ男のふと見せた弱さにキュンとしていただろう。でも残念、男だからキュンとしませーん!
「ボクなんかに見せていいんですか?」
「お前だからいいんだよ」
「分かりました。読ませていただきます」
俺はゆっくりと手紙の封を切った。
“オレンジャへ
この手紙を読んでるってことは生きて新天地に着いたみてぇだな。お前みたいなバカでもポテトさんが居れば余裕だとは思っていた。ポテトさんに感謝するんだぞ。
新天地では人様に迷惑を掛けるんじゃねぇぞ。お前は短気だからすぐにキレて投げ出しちまうだろ? そういう時は飯でもたらふく食って、もう一度挑戦したら案外上手くできちまうもんだ。だから引き受けた仕事は簡単に投げ出すんじゃねぇぞ?
それと早く嫁さん見つけろよ。お前は腑抜けだから姉さん女房にしとけ。イライラしたりメソメソし出したらケツでも蹴ってもらえ。そしたら元気も出るだろ。
あとよ、殴って悪かったな。あっしは育ちが悪いからああいうやり方しかできなかった。不器用で、雑で、文章でしか素直になれないあっしを許してくれ。いや、許せ。
もう会うこともねぇかもしれねぇが、もし王国と新天地が自由に行き来できるようになったら、いつでも殴り返しに戻ってこい。
それじゃあ元気でなバカ息子。死ぬんじゃねぇぞ。
嫌味な豚野郎より”
手紙を読み終わった俺はそれを折り畳んでオレンジャに渡した。
「ヘッ、最後にぶん殴っておいて臭ぇことしやがって、ほとんど悪口じゃねぇか」
そう言いながらどこか嬉しそうだ。キャロブゥの親心が伝わったようだ。
「帰ったら伝えてくれ。余計なお世話だバカ親父、ってな」
目を細め、歯を見せて笑う。今まで見せた事ない最高の笑顔だった。
それから俺達は宴の輪に戻り、一夜だけのお祭りを存分に楽しんだ。
そして三日後。新天地が安全な場所だという事は分かったし、気力と体力も戻ったので聖騎士団はマルクト王国に帰還することにした。
荷造りを終えたところでオレンジャがバハムートに話しかけてきた。
「なぁハム。お前もここに残んねぇか?」
鎧兵は様子見のため何体か残していくつもりだが、バハムートは連れて帰るつもりだ。なぜならバハムートを置いていけばオレンジャはずっと頼ってきて為にならないと思うから。
俺は新天地の開拓は自分で考えて行動する必要があると考えている。新しいことをするのだから、何が足りなくて何が必要か、そのためにやるべき事は何か。そういう風に自分自身で思考を巡らせないと、国も自らも発展していかないだろう。
「遠慮しておきます。ボクにはマルクト王国の国民を守るという使命がありますから。キャロブゥさんとかね」
「くせぇこと言ってんじゃねぇよ」
「次に来た時にはオレンジャさんの建てた家を見せてくださいよ。楽しみにしてますから」
「ケッ、食えねぇヤツだ。聖騎士団は気に食わねぇが、お前だけは認めるぜ」
じゃあ実質全員認めたことになるな!
「あ、やっぱポテトも認めるぜ。アイツはカッコいい」
ポテトさんの隠れファンかよ。隊長会議の時にいた貴族の親子のように親と子は似るんだな。血が繋がっていなくてもさ。
その後、オレンジャと別れ、さらに色んな人に挨拶をして最後に族長イドテアの元へ向かった。
「もう帰るのか」
「えぇ。ここは居心地が良過ぎて、ずっと居ると体中から根が生えて動けなくなってしまいそうですから。それにマルクト王国がどうなってるか心配というのもあります」
「そうか。残念だが仕方あるまい。お前達の活躍は未来永劫、遊牧民ポリネーターの間で語り継がれるだろう。ありがとう我らの英雄」
いつもながらお礼を言われると嬉しいね。苦しい旅だったけど、みんなを無事に連れて来られてよかったって思う。
それから少し会話した後、集落の外に出た。そこには聖騎士団を見送るためか、みんな集まっていた。
「じゃあな聖騎士団アイン!」
「いつでも会いに来いよ!」
「次に来た時はここを国にしとくから楽しみにしとけよな!」
希望に満ちた言葉が飛び交う。
「みんなと会えて良かった! それでは、また会いましょう!」
軽く手を振って皆に背を向ける。別れってのはいつだって寂しい。でもこれから前を向いて頑張ろうって気にもさせてくれる大切な儀式だ。
名残惜しい気持ちを抱きながら新天地カーナを守る枝を抜けて外へ出た。その時。
「ア・イ・ン!」
「ア・イ・ン!」
「ア・イ・ン!」
遠くから歓声が響く。新天地カーナの人々が声を張ってくれているのだろう。いつ聞いても称賛の歓声は悪くない。
それじゃあこいつを聞きながらマルクト王国へ戻ろうか。油断しないようにしないとな。
無事に帰るまでが冒険なのだから。




