第66話 ゲブラー火山の大決戦3・混沌
突然現れた二頭目のスフィンクス。琥珀色の体をした突然変異体の方だ。
監視は付けていたが戦闘に集中していて接近に気付かなかった。迂闊だった。
でもどうしてここに来たんだ? 俺と同じく漁夫の利狙いか? それとも気まぐれか?
クソ、これだからガサツな奴は!
文句を垂れつつも思考を加速させてこれから起こりうる事態を予測する。まずサラマンダーとスフィンクス二頭の三つ巴の戦いが始まるのは間違いない。
俺の目的は最低でもサラマンダーを倒すこと。となれば二頭のスフィンクスを援護すべきだろう。
優先的に援護すべきは一頭目の小さい方だ。なぜなら一頭目は既に全方位に体毛を飛ばす大技を使っている。前回スフィンクス同士で喧嘩していてその技を使用した後はスフィンクス二頭とも息を切らして疲れている様子だった。よほど体力を使うものというのが分かる。
故にハンデを背負っている一頭目を助け、サラマンダーをどちらかに殺して貰うのがベストだろう。
俺のやるべきことは一頭目を援護しつつ、三頭を火口から逃さないように立ち回ることだ。至難の業だし、俺本体も戦場の近くにいなければ鎧兵の供給が間に合わないだろう。
逃げるわけにはいかない。この機を逃せば次はないのだから。必ず勝ってみせる。
すべきことが見えた俺はすぐに行動に移した。一頭目を助けやすいように近くに鎧兵を配置。
三頭の巨獣は小さく吠えて威嚇し合っている。そして次の瞬間、全員が同時に動いた。
やはり一番小さく弱っている“小スフィンクス”が他二頭から狙われる。コイツがやられたら全ては狂う。
「やらせるかよ!」
火口にある巨獣の死骸や、溶岩に突き刺さったスフィンクスの棘体毛の隙間に隠していた鎧ケンタウロスを動かしてクロスボウを打たせた。
小スフィンクス以外の二頭にSB改が着弾して爆発。攻撃は致命の一撃にはならなかったものの、小スフィンクスの援護にはなった。
付け加えるとタイミングを合わせることだけは一流の俺は、敵の攻撃に偽装することに成功していた。鎧兵の一撃だとはどの巨獣も気付いていない。良かった。敵の目標が俺に向けば終わりだからな。常にギリギリの戦いだ。
三頭の小競り合いが続く。地形がかなり荒れているので動きづらそうだ。そんな中、小回りのきく小スフィンクスが障害物の隙間を縫って他二頭を削っていた。
だがしかし、かすり傷程度で致命傷には至らない。このままだとジリ貧だろう。
どうにか手助けできないか、と考えていると大スフィンクスの体毛がピンと張り出した。早くも大技か。せっかちなヤツだ。でもこれでサラマンダーが死んでくれれば助かる。
俺が息を呑んで見守っていると、予想とは違う動きがあった。
「なんだよ、あれ」
大スフィンクスの棘体毛の塊が触手状になり体中から張り出していた。突然変異体なだけあって進化したのかもしれない。
「グルァ!」
大スフィンクスが吠えたと同時、棘触手が二頭を襲う。それに加えて全身の棘体毛も全方位に向けミサイルのように発射していた。チート過ぎんだろ!
サラマンダーが全身の炎を勢いよく燃やす。出力を上げたのだろう。次の瞬間、高速移動して棘をかわした。
小スフィンクスも必死に回避に回る。お前は耐えろ、耐えてくれ。俺の鎧兵が援護している余裕はない。俺本体の防御&回避で手一杯だ。
小スフィンクスは息を切らしながらも避け続ける。しかし、一瞬だけ視線を左に向けると、すぐさまそちらへ大跳躍した。
おい、やめろ! 空を飛べない以上、空中に身を投げ出すのは悪手と言っていい。
なぜ跳んだのか、向かった先を見ると、そこにあったのは自身の巣の一部であるピラミッドの石だった。守ろうとしていたのだ。
「バカ! そんなことしてる場合じゃ——」
俺が言い終わる前に棘体毛が小スフィンクスの頭蓋を貫いていた。血を吐く。懸命に前足を出して棘を抜こうと試みている。
しかし、それを許すまいと大スフィンクスが追撃で相手の体中を貫いた。
白目を剥いた小スフィンクスはあっけなく絶命していた。
「クソ!」
援護できなかった。こうなったら大スフィンクスの次の行動次第で詰みになる。ここに留まる理由のないヤツが興味を失って帰還を選んだら終わりだ。
そうなったらサラマンダーと聖騎士団の戦いになるが、弱っているとはいえ今のところ勝算はない。冷や汗が頬を伝う。頼む、まだ行かないでくれ。
「グォォ……!」
俺の願いが通じたわけではないだろうが大スフィンクスは、臨戦態勢をとったままでサラマンダーを殺す気満々だ。
よ、よし。まだ希望は繋がっている。落ち着いて俺の取るべき行動を考える。サラマンダーを逃さないように逃げ道を塞ぎつつ、大スフィンクスが相手を殺せるようアシストだ。小スフィンクスが生きていた時とやる事はさほど変わらない。
「キェェ!」
先に動いたのはサラマンダーだった。体中の炎を急激に燃え上がらせる。直後、跳躍。ドリルのように高速横回転して燃え盛る槍のように相手を貫きにかかる。
大スフィンクスは焦る様子も見せず、複数の棘触手を顔の前に出して受け止めた。
地割れでも起きたかのような轟音が鳴り響く。
俺は鼓膜が破れそうなその音に顔を顰めて、長めの瞬きをした。
が、その一瞬の間が命取りになった。
「あ、しまっ——」
言い終える前に敵の攻撃の余波で足元が崩壊した。火口へと滑り落ちていく。俺は必死に鎧兵や召喚獣を出して落石を防いだ。さらに鎧馬を出してどうにか手綱を掴むと上へと登らせた。
だがしかし、自身が巨獣を登らせないために地面に撒いておいたスライム液により馬の足が取られて再び落下してしまう。
その後、火口に落下したものの、どうにか鎧兵をクッションにして死なずには済んだ。ただ体中が痛い。骨折はしていないだろうが間違いなくむち打ちだろう。
暴風が吹き荒れる中、体を起こして二頭の巨獣の状況を確かめる。
轟音が止み、風が止み、煙の晴れた先に立っていたのは大スフィンクスだった。
サラマンダーは棘の触手にグルグル巻きにされて体がくの字に折れ曲がり絶命していた。
た、助かった。後はこのスフィンクスがどこかに行ってくれれば終わりだ。
しかし、スフィンクスの視線は俺本体の近くにいる鎧兵を捉えたままだった。
「……ちきしょう、そういう事かよ」
もしかしたらコイツがここに来たのは“鎧兵を殺すため”じゃないか? よく考えたら巨獣は人を見たら食うか殺すかしてきた。前回俺を仕留めそこなったのを覚えていてここに来たのなら辻褄が合う。
クソッタレ、どうすりゃあいいんだ……!
全身を嫌な汗が伝う。絶望的だ。しかし、それでも俺は諦めない。




