第64話 ゲブラー火山の大決戦1・再戦
サラマンダーを倒すと覚悟を決めた数日後。
どうにか全ての準備が整った。
俺は洞窟の広間に遊牧民族族長イドテア達を集めた。
「それじゃあ行ってくる。もし一日経っても戻らなかったら新天地へ向かって欲しい。そうなったら恐らく我々は全滅しているが、少しはサラマンダーを弱らせているはずだ」
火山灰が降り止まない以上、新天地へ向かっても助からない可能性はある。ただ、それでもここに滞在するよりは希望があるはず。まぁ俺がサラマンダーを倒すのがベストだが。
「分かったよ。準備はしておこう。だが願わくば聖騎士団の奇跡を見たいものだ」
イドテアが口端を上げて答えた。
「全力で頑張ります」
俺本体は聖騎士団の中に紛れて兜を正した。
「聖騎士団アイン、出陣」
そして、運命の戦いが始まる。
……数時間後、ゲブラー火山の火口に到着した。俺本体も火口が見える位置にいる。空気も足場も悪く長居はできない。
中を覗くと紅玉色のトカゲ型巨獣サラマンダーが優雅に溶岩を泳いでいた。
相変わらずのサラマンダーにため息をつく。もっと涼しいところに引っ越せよな。
「さて、来たか」
視線の先、火口の縁に現れたのはミイラ男型巨獣“マミー”と炭のように黒い人型巨獣“スミー”の集団だ。
俺が鎧兵を使ってここに誘導したのだ。コイツらを連れて来れた理由は二つ。
一つは、この二種類の巨獣は天敵のにおいに怯えることがないこと。どちらも俺が振り撒いておいた天敵の香水に恐れなかったのが論拠だ。
もう一つの理由。それはまず、コイツらと戦った時に聖騎士団の隊長格を狙っているような気がしていた。しかしそうではなく、マミーは黒や青など明度の低い鎧兵を、スミーは白やピンクなど明度の高い鎧兵を狙っていた。
気付いたきっかけは邪教ゼロと聖教ポテトの存在だ。あいつらも黒と白に分かれており仲が悪かった。
そしてその色に対する執着心を利用し、色付きの鎧兵を上手く操作して二種類の集団をここまで連れてくることに成功したのだ。
肝心のコイツらの使い道は火口を埋めること。
サラマンダーとの戦闘で厄介なのはこの火口という地形だ。足場が少なく、また、敵が溶岩に潜ったりして戦い辛いのである。
外に誘き出すことも考えたが、後の作戦のためにもこの窪地からサラマンダーを動かしたくなかった。ならば埋めればいい。単純にそう考えた。
邪教と聖教のいざこざでゼロとポテトが戦わされた時にやらされた“メンコ”がヒントになった。叩きつけるメンコが場を埋めていくのを見てだ。あのくだらない遊びも無駄ではなかったと今にして思う。
「オオオオ……」
火口周辺に集まったマミーとスミーが唸り声を上げている。
「聖騎士団アイン、突撃!」
俺の合図と共に鎧兵を火口に移動させた。それを見て二種の巨獣が追いかけてくる。そこは舗装されていない坂道、というか崖なので二足歩行のコイツらは簡単に転倒して転がり落ちていく。
だが当然、落ちなかったり、来なかったりするやつもいるわけで、そういうのはローションのようなスライム液を撒いて滑らせる。それも無理なら最終手段としてスライムボム改を使って無理矢理落とすつもりだ。SB改は有限であり、なるべく温存したいので本当に最後の手段だ。
「キェェ!」
音に気付いたサラマンダーが雄叫びを上げながら動き出す。自分のテリトリーを侵されてさぞご立腹なのだろう。
敵が口からファイアボールを放ってきた。それが足をもつれさせていたマミーに直撃して大炎上を起こした。いやー、援護助かるね。コイツは部屋の掃除をしようとして逆に散らかすタイプだな。
俺はそんなことを考えながらもマミー達を突き落としていく。
ラグビーのスクラムのように鎧兵に肩を組ませて足に突撃させる。これはダンゴムシ型巨獣と戦った時に使った戦術キャッチ&ポカポカアタックの流用だ。ポカポカ殴らない代わりに足にガッチリ絡みついて転倒させるのである。
他にもマミーの伸縮性のある包帯皮膚を使って足を引っ掛ける。こちらはゴム紐のようなもので一度引っ掛かるとバランスを取るのに苦労する。
そして火口から上に登ろうとする奴はスライム液を飛ばして足止め。このようにたくさんの小技を使って火口を埋めていき、三分の一ほど潰すことに成功した。
「よし、だいぶ整ったな」
これが作戦の全容ではない。これだけで圧死か窒息死させられたら良かったが、そう甘くないのは分かっていた。だから次にこの作戦の要である楔を打つ。
「行け! ケンタウロス隊!」
マミー&スミーを足場にして鎧ケンタウロスをサラマンダーの目の前に移動させた。クロスボウから射出したSB改を顔面に当てる。これが効かないのは前回の戦いで実践済み。重要なのは爆炎により視界を遮ることだ。
直撃したSB改が爆発。狙い通り、爆炎と煙で敵の目を封じた。
「ここだ!」
相手が見えていないうちに俺は巨獣の大きさに及ばない程度の“巨大な直方体の石”を火口に投げ込んだ。
爆炎はこの石の存在を知られて外に出させないための目眩しだ。敵は気付いていないかは分からないが、少なくとも興味はなさそうだ。よし、準備は整った。
「次のお客さんが来たようだな」
そう言って俺は視線の先にいる、とある巨獣を見て口角を上げた。
到着時間もバッチリ。さすがタイミングの天才の俺だぜ。
俺本体の真逆に位置する火口の縁に現れたのは、獅子型巨獣“スフィンクス”であった。




