第63話 覚悟
結局サラマンダーを倒すビジョンが見えないまま遊牧民族族長イドテアの元へ戻ってきた。
「よく無事に帰ってきたな。それでサラマンダーはどうなった?」
「姿を確認して少し戦ってみたものの歯が立ちませんでした。今のところ有効な策もない状況ですね……」
イドテアは神妙な面持ちをしている。
「……そうか。とりあえず休むといい。寝れば何かいい案が浮かぶかもしれないからな」
「そうですね。お言葉に甘えさせてもらいます」
俺本体は鎧兵の集団に紛れて休憩することにした。
薄い布を引いただけの寝床に寝転がる。しばらく寝返りを打って睡眠に入ろうと試みるも寝れない。
胸につっかえて取れない不安が休むのを許さない。このまま真綿で首を締めるようにジワジワと追い詰められていくのだろうか。
「どうするかなぁ」
困っているとリンゴ農家のシラユッキさんが団長ゼロの元へやってきた。
「お疲れのようですわね」
「分かりますか。今は有効な策が思い付かなくて八方塞がりなんです」
「大変ですのね。元気を出してもらうために美味しいリンゴでも差し上げられたらいいのですけれど今は無くて申し訳ないですわー」
「あはは、お気遣いなく。干しリンゴでも充分満足です」
「確かにそれも美味しいですわね。ところで知ってます? リンゴは冷やしても美味しいんですのよー」
いいなぁ、今度たらふく食べたい。
しかし冷たいものか……。サラマンダーを氷漬けにできたらなぁ。もしくは奴の住む火口を潰せたらいいのだが生憎この周辺には水もない。
シラユッキと雑談していると、今度は眼帯の青年オレンジャが竜騎士小隊隊長バハムートに話しかけてきた。
「おいハム、ボッーとしてどうした?」
「ちょっと考え事です」
「サラマンダーが倒せないんだろ? オレが手伝ってやろうか?」
はぁ……能天気で羨ましいな。
「嬉しい提案ですが間に合ってます。新天地に着くまで力を温存しといてくださいよ」
「しゃあねぇなぁ。新天地に着いたらまず家を作ってやるから任せとけ。こう見えても貧民達に犬小屋を作ったことがあるから腕は確かだぜ」
いや、住まねぇよ。すぐ倒壊しそうだし。
……でも家、か。ふと、俺は自分の屋敷を思い出していた。俺の屋敷の部屋は鎧兵が再召喚された時に物が倒壊して危ないし、狭いので家の壁を無理矢理ぶち壊して広くしている。
住処というのは個性が出るものだ。綺麗好きの家は隅々まで整理整頓されているし、反対にガサツな人はある程度自分の周りだけ片付いていれば満足だろう。このようにみんな自分なりの住みやすさを追求しているものだ。
「……やる価値はあるか」
俺はとある策を閃いた。オレンジャもたまには役立つな。
オレンジャとの会話を切り上げ、さっそく策を煮詰めていく。一度思い付いたら今まで起きたことをきっかけに次々とアイデアが浮かんでくる。
「うん、こんなものか」
策をまとめ終わり、みんなを広間に集めた。
「これからサラマンダーを討伐するための準備にかかる。数日は掛かる予定だ。不安だと思うが信じて待っていて欲しい」
シラユッキが答える。
「もちろんですわー。初めから最後まで信じていますわ」
彼女のお付きの七人の執事も頷く。
「イドテアもそれでいいか?」
「テンソが信じる者達だ。言うまでもないさ。テンソもだろう?」
族長代理テンソの顔が真っ赤になっている。相変わらず分かりやすいやつ。
「わ、私も信じます。ここまで連れてきていただいたのが信頼できる何よりの証拠です」
俺は頷いて、次にオレンジャの方へ向く。
「オレンジャ、私の考える策を使えばもう王国へは戻れなくなるかも知れない。それでもいいか?」
「豚野郎の元に戻る気はねぇよ。半端な覚悟でここにはいねぇ」
他の新天地組も反対しなかった。誰もが覚悟を決めていた。
「ありがとうみんな。全員必ず新天地へ送り届けるよ」
みな、大きく頷く。
さてと、それじゃあ“メンコ”でもやりに行きますか。
俺は決戦の時へ向けて動き出した。




