第54話 ホド砂漠2・ムシュフシュ戦
「俺、この戦いが終わったら結婚するんだ」
暑さで頭がボーッとしてきた俺は、死亡フラグをつぶやいていた。
ああクソッ。頑張ろうって思ってたのに体が重い。暑さもあるが、断続的に現れる巨獣のせいでまともに眠れていないのもある。
ただ、もうすぐオアシスに着くのでそこでガッツリ休憩を取れるはず。それまで我慢だ。
旅は五日目を迎えていた。変わり映えしない砂漠の景色が疲れと眠気を誘ってくる。
「早く砂漠抜けてぇな……」
俺はゲームで砂漠のステージが苦手だ。砂漠は大体ゲームの序中盤の山場で、この辺りから難しくなってくる。
暑さで体力を削ってきたり、蜃気楼や砂嵐で道に迷わせてきたりとめんどくさいギミックが多い。なにより敵が強くなる。毒やマヒなど状態異常持ちの敵が大体いるのだ。
そう、たとえば目の前のサソリ型の巨獣のようなやつだ。
サソリ型巨獣“ムシュフシュ”は巨大な一対のハサミをジョッキンジョッキンさせながらこちらの様子をうかがっている。
なんかムカつくなー。パン屋でトングをカチカチさせて威嚇するマナーの悪い客かよ。
ムシュフシュのエナメル靴のようなテカテカした外殻も嫌悪感を増加させてくる。
俺は部隊を展開させながら脳内で戦略をシミュレーションしていた。
ムシュフシュとは初めて戦うが、事前にテンソから貰った薄いペラペラの巨獣資料“ニートン巨獣記砂漠編”で予習してきたので多分大丈夫だ。
ちなみに巨獣記は火山編も貰っている。小分けにせずにまとめろよ。ニートンめ、いつか会ったら嫌味いってやるからな!
プンスカしながら敵と睨み合う。先に動いたのはムシュフシュだった。サソリのように反り返った尻尾の先から赤黒い液体を噴出してきた。
悪いが鎧兵に毒は効かないぜ?
ドヤ顔で身構えていたが、毒の勢いがあるせいで仲間達はボーリングのピンのように吹き飛んでいった。
クソッ、でもこの程度で死ぬほど柔じゃないぜ。……と思っていたら吹き飛ばされた色とりどりの鎧兵がドロドロに溶けて地面に叩きつけたアイスクリームのようになっていた。
毒というより酸じゃねぇか! ニートンの野郎、もっと細かく書いとけよ!
ムシュフシュは、クワガタの大顎のような牙を開閉させながら嘲笑うようにこちらを見ている。
今笑ったなてめぇ!
俺は田舎のヤンキーみたいな因縁をつけて鎧兵をけしかけた。
数人同時にスライムボム改を括り付けた矢を素早く放つ。
風を切り裂くように進んだ複数の矢は、見事相手の口に直撃して牙を一本破壊した。
何発か当ててようやく一本か。流石に硬いな。でもこれで口内ががら空きなのでSB改をぶち込めば内部から破壊できるはず。
そう思って追撃すべく矢を構えるも、敵は危険を察知してか瞬時にハサミで前方の砂を巻き上げて穴を掘って身を隠した。
チッ、その手で来たか。ニートン巨獣記で穴に潜るのは知っていたが、出来ればそうなる前に仕留めたかった。
激しい地鳴りの後、いきなり鎧兵の足元が崩れ始めた。うず潮でも描くように砂地がすり鉢状に変化していく。その穴の中心にはムシュフシュがアリジゴクのように牙をカチカチさせながら待ち構えていた。
「ブヒィ! やられたトン!」
「死んだぜウェーイ!」
「死んだセミ」
鎧兵達は脱出を試みるも叶わず、洗濯機に回されるTシャツのようにグルグルされて死んだ。
「面倒な戦い方しやがって。でもご安心! こんなこともあろうかと秘策を用意してあるぜ!」
若干の失敗フラグなセリフだが多分いけるはず。
俺は素早くショートカットキーを押して事前に登録しておいたプリセットを呼び出した。召喚したのは馬の下半身と鎧兵の上半身を組み合わせたものだ。簡単に言うとケンタウロスである。
これのメリットは落馬しないこと。いくら鎧兵と鎧馬でも強い衝撃を受けてバランスを崩せば落馬してしまう。それをカバーするのがこの形態だ。
中二病的にケンタウロスって賛否分かれそうだよな。カッコいいといえばそうだし、ダサいといえばそう。俺的には好きなんだけどな。特に今は団長ゼロの黒鎧着てるし。
「ここは俺に任せて先に行け」
余裕の出てきた俺はまたしても死亡フラグなセリフを吐いた。
「だけど団長……!」
「なーに、安心しろ。すぐに追いつくさ」
「分かりました! ここは任せます! 後で必ず会いましょう!」
……誰と誰が会話してるかって? もちろん俺と俺である。こうでもしないと恐怖で頭がおかしくなるからな。いつだって演技は俺を助けてくれる。入ってて良かった演劇サークル! いつかこっちの世界で劇団を作るのもいいかもな。
淡い夢を抱きながら団長ゼロ以外の鎧兵を下げる。
取り残された団長ケンタウロスをムシュフシュへ向けて走らせた。アリジゴク目掛けて大ジャンプ。敵の真上に位置した瞬間、クロスボウを放つ。
刹那の時を経て轟く爆音。しかし、爆炎の中に敵の姿はなかった。
チッ、逃げたか。ヒットアンドアウェイ戦法だな。雑魚巨獣にしては賢い。
だが、当然のように対策してきた俺は冷静に次の召喚獣を出現させた。それは“鎧モグラ”だ。
大人の人間くらいの大きさにし、SB改を括り付けて地中へ潜らせた。これで倒せなくてもモグラが爆発したところに敵がいると分かる。
後は呼吸か攻撃の時に外に出てきたところを仕留める。
さっさと顔を出しな。次にお天道様を見るときがテメェの死ぬ時だ。
程なくして爆発により砂の柱が上がる。俺はケンタウロスと数名の鎧兵を操作して爆発した付近に陣取らせた。そして一瞬の間の後、ムシュフシュが砂の波を立たせながらほぼ予想通りの位置に大口を開けながら出現。
「まぁまぁ楽しかったぜ。ちょっとだけ元気出た。ありがとな」
待ち構えていたケンタウロスの放った矢は雷のごとく高速で敵の口内に消えていった。そしてまばたきをする程度の時間を経て大爆発。ムシュフシュは青い炎に包まれながらその場に叩きつけられた。衝撃で砂煙が舞い上がり視界をさえぎる。
「やったか!?」
俺はまたしてもフラグみたいなことを呟いて戦況を見守っていた。
砂煙が晴れて行き、ムシュフシュの全体像が現れる。黒光りした外殻、鋭いハサミ、雄々しい尻尾。だけど壊れた頭。簡単に言うと死体になっていた。
「やってた!」




