第53話 ホド砂漠1・マミー戦
セフィロトの森を抜け、荒野を進んだ先のホド砂漠にたどり着いた。
ホド砂漠は誰もが想像するようなありふれた砂地で、日の光を反射して黄金のように輝く砂は神秘的にも見える。
迷えば死ぬので地図にしるしてある巨獣の骨の残骸や、特徴のある岩などの目印を確認しながら慎重に進む。
周囲にはセフィロトの森の時と同じく、天敵の巨獣の香りを振り撒いておいた。これはミノタウロスのものではなく、砂漠の生態系の頂点に立つ、とあるモンスターのものだ。テンソが所持していたのを香水作りが得意な踊り子トマティナに渡して量産してもらった。
これで砂漠も安全。……と思っていたが当然効かないやつもいるわけで、順調に進んでいた俺本体のいる部隊の前方の砂が盛り上がって巨獣が現れた。
二足歩行の人型巨獣。名をマミーという。簡単に言うとデカいミイラ男だ。包帯に見える部分は紙や布ではなく、皮膚でできている。
「ま、そう簡単に行かせてはくれないか」
俺本体は砂丘の裏に身を潜め、魔法のトリプルモニターを開いた。
鎧兵の武器として召喚したパラソルを砂地に立てる。日の光でモニターが見えにくいのを軽減するのと同時に暑さ対策でもある。
魔法の鎧は耐熱、耐寒に優れるが完全に凌げる訳ではないのでこうやって工夫する必要があるのだ。ホント、このワンオペって魔法は痒いところに手が届かない器用貧乏な性能してやがる。
心の中で悪態をつきながらもキーボードを操作する手は止めない。この旅のためにあらゆる準備をしてきた。焦る必要はない。
まずは遠く離れている後方の新天地組に停止するよう指示を送った。並行するように“鎧コウモリ”を空に飛ばした。
魔法ワンオペは鎧兵の他に馬などの動物を召喚できるのだが、人型以外の哺乳類に限られている。
コウモリ似の男テンソを見ていた時にそういえばコウモリも哺乳類だなと思い立ち、作ってみたら成功したのだ。
ただ、人を乗せるくらい大型にはできたものの、騎乗させての飛行はできなかった。だが、諦めの悪い俺はもしかしたらダンゴムシ巨獣と戦った時に実験した極限まで軽量化した“スピード型”の鎧兵なら乗せられるかも、と思ってチャレンジしてみた。
結果は成功。ただし、体を鎧コウモリに括り付けないとどこかに飛んでいってしまう。色々とコストはかかるものの飛ばすメリットはある。
まず、全体を俯瞰できること。これまでは鎧兵の主観カメラを切り替えてやりくりしていたが、人数も増えてきて不便を感じていた。それを上空から見下ろすことでカメラの数を少なくしつつ、部隊を動かしやすくなった。
でもこれに関しては鎧コウモリがいればいいので鎧兵を乗せなくてもよい。
大事なのはもう一つのメリットだ。それは武器が持てること。鎧兵はどんな武器も自動で上手く扱えるので、後で使う予定のとあるモノを使用する時に重要になるのだ。
準備をしていると、マミーの気を引いている囮部隊に動きがあった。
マミーが包帯型皮膚をイカの足のようにしならせて鎧兵を攻撃し始めた。
舐めるなよ。こっちには最強の隊長達がいるんだぜ?
団長ゼロ! 虫騎士ヘラクレス! 竜騎士バハムート! いけ!
「うおおお!」
三小隊を突撃させる。だが。
「クッ、すまないみんな。聖騎士団は任せた……」
「ぐわー死んだカブトー!」
「ママぁ!」
マミーの包帯の一撃で無事全員バラバラになり、ふりかけ状になった。
よっわ! 何が隊長だよ! 知ってたけど!
敵の攻撃により砂煙が上がる中、次は包帯を地面スレスレに横なぎに払ってきた。
こ、これは……! 数多の学生にトラウマを植え付けた大縄跳びか!? 運動会、体育祭などでやらされた人も多いだろう。全員で一つの縄を飛ぶアレだ。
一回引っ掛かるとみんなの視線を一挙に集めることになり、恥ずかしさと申し訳なさで死にたくなった人は少なくないはず。二回以上連続引っ掛かろうものならトラウマ確定といっても過言ではない恐ろしい競技だ。
だが俺はリズムゲーが得意なだけあってこの手の競技は得意だ。
今回は俺自身が飛ぶわけじゃないし余裕だろ。そーれ、ぴょーん。包帯が迫ってくるタイミングで鎧兵達をジャンプさせた。が。
「無念でごわす」
「死んだセミ」
「グハッ、死んだぜベイベー!」
みんなテンプレ断末魔を叫びながら壊れた。
まぁ無理だよな。だってデカすぎて縄じゃなくて壁だもん。足場も悪いし、飛べませーん!
さらに蹂躙されていく鎧兵達。
「くっ、ここまでか!」
「ポロポローン、これが葬送曲ですか」
「カレーはかれぇ!」
獣騎士セイリュウ、音楽騎士ピアーノ、暴食騎士カレエがやられた。なんか隊長格ばっか狙われてねぇか?
……まぁいいか、モタモタしてられないし次のフェーズに移行する。
こういう食うより破壊を優先するタイプの巨獣は、わざと食べられて内臓を破壊する自己犠牲アタックは使いづらい。高さもあるしな。かといって疲れるまで待っていたら他の巨獣が現れて更なるピンチを招くことになるだろう。
「それじゃあアレ使いますか」
こんな時のために策を練ってきた。やはり内臓破壊だけでは限界があるので、外側から巨獣の分厚い皮膚を破壊するための武器を作ることにしたのだ。
前々からミノタウロス討伐時に使ったスライムボムを強化できないか巨獣加工屋のクローザに頼んでいた。
俺が国に住む前は貴重な素材で手に入らずに強化できなかったが、今は俺がやる気を出せば入手し放題なのでいつでも実験できるのだ。
それが実を結んで、つい先日“スライムボム改”、通称SB改が完成した。威力が飛躍的に上がったコレで少なくとも雑魚巨獣には外傷を与えられるようになった。
「準備完了! コウモリ部隊突撃!」
包帯皮膚で顔もグルグル巻きのマミーは死角が多い。囮部隊で足元に注意を向けている隙にコウモリ部隊を背後に回り込ませていた。
コウモリに乗っている鎧兵がクロスボウを構える。先述した通り鎧兵は武器を自動で上手に使用してくれる。
狙いを定め、SB改を括り付けた矢を射出した。
矢は直線を描きながら敵の後頭部に直撃した。直後、眩い光と共に大爆発。SB改特有の青い爆炎が上がる。
くぅー、カッコイイ! やっぱ炎は青か黒が中二心をそそっていいですなぁ!
「オオオオ!」
マミーが苦痛の叫びを上げながら倒れていく。しかし、複数の包帯皮膚を砂地へ垂直に突き刺して体を支える。
「甘いぜ」
下にいたSB改持ちの鎧達が敵の包帯と両足を狙う。
こっちは数だけは多いからな。手数じゃ負けないぜ。
着弾したSB改が次々と爆発していき、マミーを支えるものが壊れていく。そして遂に自重を支えられずに砂地に叩きつけられた。
両手をつき、何とか立ちあがろうとするマミー。しかし既に俺の鎧兵は、がら空きの首筋に狙いを定めていた。
「じゃあな」
そうつぶやいた瞬間、爆弾付きの矢が敵の項に打ち込まれた。そして爆発。ちぎれた頭部が砂地に落ち、続いて体も後を追うように倒れ込んだ。衝撃で砂煙が辺りを包む。数秒後、視界が晴れた先にはマミーの死体が転がっていた。
「よし、討伐完了。周囲にも異常なし」
ふぅ、と大きく息を吐いてその場に座る。
SB改結構使っちゃったな。やっぱり補充した方が良さそうだ。後で補給部隊を巨獣加工屋クローザの元へ向かわせよう。こんな時のために旅の最中も作り続けておいて欲しいと頼んでおいたのだ。
「休んでる場合じゃないな。新手が来る前に先を急ごう」
この旅の初戦闘で緊張したが、まだ想定内。心身共に余裕もある。長い旅だ、頑張ろう。
俺は重い腰を上げ、鎧兵と新天地組に指示を出した。




