第52話 セフィロトの森・縛りプレイ
俺を除いた八十名の新天地組と、約二週間の旅が静かに幕を開けた。
セフィロトの森。ここはマルクト王国のある神樹セフィロトを囲むように存在する。
新天地へ向けて出発した俺達は森を北西へと進んでいた。
さて、まだ何も起きていないが、いくつか抱えている問題がある。
まず一つ目、鎧兵の数の問題だ。現在、五百体召喚出来るわけだが、民衆には百体しかいないということにしている。それで同じ鎧を五体ずつ作ってストックしているのだが、出来れば見られるのを避けたい。
とりあえずの対策として部隊を五つに分けて運用することにした。中心にオレンジャ達新天地組をひとまとめにして、それを囲むように東西南北に残りの四部隊を配置した。こうすることで遠目には人数が分かりにくくなったはずだ。
二つ目の問題が巨獣との戦闘。こちらも当然見られたくない。死んで復活するところなんて見られたら後に面倒になるだろう。まぁでもこの問題もなるべく遠くで戦闘をするようにして処理すればいい。
三つ目が補給。新天地までは二週間ほどかかる。補給地点は道中いくつかあるので補給自体は問題ないが、他人と寝食を共にしないといけないのが問題なのだ。
俺が目を離している隙に鎧兵を調べられたらひとたまりもない。対策としては触れられたら大きめの警報音が鳴るようにしとくくらいだ。
他にも他の人間達が予想外の行動を取ったり、俺本体が病気やケガをすればジ・エンド。本当に最悪の縛りプレイである。
「さてどうなるかな」
今、俺本体は先頭を走る部隊にまぎれ、順路を慎重に進んでいる。
今のところ大きなトラブルはない。それというのもミノタウロスのフンの匂いを模した香水を周囲に散布しているのが大きい。これにより雑魚巨獣は寄り付きにくくなる。
何かが起こるとしたら森を抜けてからだろう。ミノタウロスの香水は森の外だと、他の巨獣からしたら知らない香りなのであんまり効かなくなるからだ。
他にも遊牧民族族長代理テンソ達を襲っていたヤドカリ型巨獣ミミックのように鼻で天敵を察知しないタイプにも効かない。
まぁ森の中の巨獣は大体把握しているので出会ってもどうにかなるだろう。
それより直近の悩みのタネは同行している八十人の新天地組である。特に三人の問題児が面倒くさい。
「おぉー、すっげぇ! 神樹ってあんなでっけぇんだなぁ!」
問題児その一。右目に眼帯、明るめの短髪赤毛の青年オレンジャ。短気なので怒らせないように立ち回らないといけない。
「ホントですわー。おもわず歌いたくなりますわー! らららー!」
問題児その二。リンゴ農家で黒髪ロングのお姉さんシラユッキ。とりあえずお前は歌うな。彼女は七人の執事を連れているが、そいつらはプルプル震えている。こういうタイプの執事って大体有能じゃねぇのかよ。
「あはは、賑やかでいいですね」
問題児その三。遊牧民族族長代理のテンソ。コウモリ似のほっそりした黒髪短髪の三十代くらいの男だ。コイツの場合は問題児というか要注意人物といった方が正しい。未だ新天地を見ていない俺からしたらテンソの虚言の可能性を捨てきれないのだ。常に見張っておく必要がある。
「はぁ……」
俺は問題児達を魔法のモニターで監視しながらため息をついた。俺はテレビゲームやネットゲームで護衛任務系のミッションが苦手だった。というのも護衛対象のキャラが壁に引っかかったり、勝手に敵に特攻して返り討ちにあったりして上手く動いてくれないからだ。
今回の場合、ゲームと違って一回失敗したらコンティニューできない。頼むから身勝手な行動はしないでくれよ。
そんなことを願いながらしばらく歩いた後、休憩に入った。
俺は干し肉とドライフルーツをかじりながら、周囲の警戒をしていた。すると、オレンジャがとある鎧兵に話しかけてきた。
「おいハム。森はまだ抜けねぇのかよ」
「まだまだですねぇ」
ハムと呼ばれているこの鎧兵は、黒い竜の兜を被った竜騎士小隊隊長のバハムート。
オレンジャに気に入られている鎧兵だ。正確には気に入られるように仕向けた、と言った方がいいだろう。
この旅のメンバーを見た時に一番やっかいそうなのがオレンジャだと俺は考えた。短気でプライドが高く、いかにも直情的に動きそうなタイプ。放っておけば内部崩壊をまねきかねないだろう。
そこでバハムートのキャラ設定をコイツ好みに変えて制御することにしたのだ。設定する時にどういうタイプがいいか考えた。まず思い浮かんだのは中学の時の部活だった。
中学時代、万年中二病の俺は剣が使えたらカッコいいな、というアホみたいな理由で剣道部に少しだけ入っていた。そこは強豪校ではなかったからかエンジョイ勢とガチ勢が入り乱れるカオスな部だった。
水と油の両者は既定路線のように衝突して部内は崩壊。部員の大半が辞めることになり、俺も面倒ごとは嫌だったのでどさくさに紛れて辞めた。
それで後に部内にどういう人間がいたかを考えたことがあった。
大きく分けると二種類で、年齢学年に関わらず先輩タイプと後輩タイプがいた。先輩タイプは面倒見が良く部員をグイグイ引っ張っていく感じで、後輩タイプは従順に部内の調和を保つ感じ。
これのやっかいな所は実際に先輩タイプが後輩に、後輩タイプが先輩になった時だろう。先輩タイプは反発しやすいだろうし、後輩タイプは部員を引っ張れずグダグダになったりすると思う。
さて、長い昔話はこれくらいにしてオレンジャの話に戻る。コイツを先ほどの部活に当て嵌めるなら先輩タイプだろう。そこでバハムートを従順な後輩っぽい感じに設定した。自分に反抗しないやつが好きだろうと考えたからだ。
なぜバハムートを選んだかというとオレンジャが竜が好きというのと、隊長格だという理由だ。これにより自分より格上の人間を従えることができて自尊心が満たされるのだ。
噛み砕いていうと、『好きな見た目で英雄の一団の隊長と仲良くしているオレすげぇ』である。傍から見たら虎の威を借る狐ってことで滑稽だが本人は気付くまい。
んで、出発前からアプローチをかけて仲良くなるよう仕込んでおいて今に至るってわけ。
「なぁハム。この鎧馬かっけーよな」
「分かります? ボクも思ってました」
「やっぱカッコいいよな! オレの乗ってる馬は特にカッコいい!」
いや、全部一緒だけど。
鎧馬は新天地組全員に貸してある。本物の馬だとケガしたり死んでしまう可能性があってかわいそうだからだ。くぅー、俺って優しい!
「確かに! さすがオレンジャさん! よっ、非凡な洞察力!」
「ちょっとバカにしてねぇか?」
ぎくっ。素直に受け取っとけよ。面倒なやつ!
「あはは、まさかぁ。オレンジャさんを馬鹿にする訳ないじゃないですかぁ」
「……まぁいいか。で、コイツに名前はあんのか?」
「ないですけど」
「よし、この馬の名をオレンジバニクと名付けよう」
たまにいるネタみたいな競走馬の名前やめろ!
「あはは、素敵な名前ですね」
「もし死んだら食っていいよな?」
てめぇに慈悲はないのか。名前付けた直後に食べること考えるってちょっとサイコパス入ってるよな。
「オレンジャさんの方が先に死ぬと思うので意味のない仮定ですね」
「おいてめぇ」
俺の辛口にオレンジャはツッコミながらも笑っている。まだご機嫌なようだ。
このようにコイツに対しては基本的に全肯定だが、ちょっと生意気な後輩っぽく演じる。友達に近い後輩って感じだ。イエスマン過ぎるとこっちの話を聞かなくなりそうだしこれぐらいの距離感が丁度いいと思う。経験則だけどな。いやー、演劇サークル時代に人間観察力を磨いておいてよかったわ!
とにかくこれでトラブルを起こされてもバハムートが間に割って入ればどうにかなるだろう。
まぁ最悪ぶん殴って新天地着くまで気絶させとけばいいしな! ギャハハ!




