第28話 あの方のありがたいお言葉
一週間後。ミノタウロス討伐のための準備が全て整った。
一番懸念していた暴動も前の一件以来、小さな事件はあったが大きな問題は起きなかった。
俺は事前に貴族以外の人々を広場に集めていた。聖騎士団がいない間、問題を起こさないよう釘を刺すため。それに行動を可視化することで騎士団のイメージアップにも繋がるはず。
貴族の方は女王と人望の厚い近衛兵シトローンが抑え込んでくれているので大丈夫だろう。それに奴らは水をため込んでそうだし、まだまだ静観するはずだ。
黒鎧の団長ゼロを壇上に登らせる。きしむ足場。これ壊れねぇだろうな?
ともかく上に立った。一応人気のあるポテトも横に添えて。今ポテトサラダみたいって思ったな? 俺は思った。
前を向くと、視界を埋め尽くすほどの庶民が集まっていた。こちらを見て民衆が騒ぎ始める。
「ポテトさんだ……!」
「すげぇ、本物か!?」
「ゼロは引っ込め」
「ポテトさん団長にしろ」
なんかポテト信者増えてない? 貧民だけだったはずなのに平民っぽい人もポテトに心酔している様子だ。あと、ゼロに対する余計な鳴き声が聞こえるが無視だ。
「皆の衆、今日は集まってくれてありがとう。これから我々聖騎士団アインは、巨獣ミノタウロスに総攻撃を掛ける」
ざわつく民衆。
「一週間以内に必ず結果を出す。だからそれまで耐えて欲しい」
数字を出すことで安心させる。それとその日まで動くなと暗に釘を刺すためでもある。だがしかし。
「本当だろうなぁ?」
「全然勝てそうには見えないが」
「ポテトさん以外ダメそう」
みんな苛立っている。それも仕方ない。何の進捗もなくここまで我慢だけさせられているのだから。うーん、どうすっかなぁ。
その時だった。突然乾いた音が響いた。ポテトの巨体のせいで足元の板が割れたのだ。再び民がいろめき立つ。
「ひぇ」
「ポテトさんがお怒りだ」
「まずい、お供え物をしろ!」
何か勘違いしている。これはチャンスかも。
「……静まれ」
そのポテトの低い声に一瞬で場が静かになった。ポテトさんすげぇ。この機を逃すまい。
「お前達の気持ちは痛いほど分かる。問題に対しての進捗が掴めず、怒り、悲しみ、不安、そういった負の感情が山積しているのだろう。だが、暫し待て」
「しばし待て……かっけぇ……」
「しばし待て……美しい言葉だ……」
「新たなポテト語録が来たぜ……」
そこ引っ掛かるとこなの? 『暫し待て』なんて割と使うだろ。それとポテト語録って何だよ。変なもの作るんじゃないよ! ……いかんいかん、演説を続けないと。
「俺達は必ず結果を出す。不死身の聖騎士団に不可能はない。だから俺達を、いや、俺を信じろ」
「信じます!」
「俺も!」
「俺は初めから信じてましたけど?」
手のひら返し早過ぎだろ。手首ドリルかよ。ポテト信者らしくていいけども。
「てめぇら分かったか! ポテトさんがああ言ってんだ! 信じて待つしかねぇだろ!!」
ポテト信者一号である豚鼻のキャロブゥが人々の後ろから声を張り上げた。サクラみたい。だけど助かる。
「うおおお!!」
「ポテト!! ポテト!!」
「ポテト!! ポテト!!」
空気を震わせるほどの大歓声が起こる。こうしてまたポテトのお陰で場を丸め込むことに成功した。キャロブゥが民衆の一番後ろで親指を立ててドヤ顔をしてるのが腹立つが、今は許そう。
うんうん、めでたしめでたし。でもさ、ゼロさんコールは? ねぇ、ゼロさんは団長だよ? ポテトサラダがメインのおかずになるかい? ならないよね?
ポテトコールの中さ、信楽焼のたぬきみたいに哀愁漂わせて突っ立ってるゼロさんかわいそう、って誰も思わないの?
納得いかない俺は集音機能でゼロさんコールがないか探してみることにした。女々しいって? うるさい! 俺はゼロさん推しなんだ!
ともかく、少し探るとそれらしい声が聞こえてきた。
「ゼロって酒飲んだら手が付けられないらしい」
「ゼロは女団員全員食い散らかしているらしい」
「ゼロは賭け事が好きで団員全員から借金してるらしい」
酒・女・ギャンブル! クズ男に片足突っ込んでんじゃねぇか! ゼロさんの印象最悪過ぎだろ!
その後、必死に探してもゼロさんの高評価は一つもなかった。泣いていい?
そして集会は終わり、俺達聖騎士団はミノタウロス討伐のため神樹の北側へ向かった。
当然今回は本体の俺も兜を被る。本体が死ねば全て終わりだ。神樹は枯れ、反乱が起き、巨獣もなだれ込み、国が滅亡する。
……ネガティブなことを考えるな。勝てばいい。それで全てが丸く収まる。
さぁ行こう。必ず勝利してみせる。
「聖騎士団アイン、出陣」
そして、静かに、扉が開かれた。




