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【完結】すまない民よ。その聖騎士団、実は全員俺なんだ  作者: 一終一(にのまえしゅういち)
第1章 誕生編

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第25話 一人百役の利点4・再戦と巨獣加工屋クローザ

 マルクト王国で秘策の準備を進めている一方、俺は密かにミノタウロスに向けて調査兵を派遣していた。


「朝だぜ。ミノタウロスさんよ」


 涸れたケセド川の縁にある森林から、矢で敵の巣の魔王城を攻撃。鳴り矢も混ぜて音で存在感をアピール。


 うるさいだろー? 隣近所でいきなり花火を始める子供みたいにうるさいだろー?


「グルル……」


 十年放置したメロンソーダみたいな色のミノタウロスが不機嫌そうな顔でのっそりと出てきた。いや、元々そんな顔だったか。


「ほぅら、こっちだぞー、掛かって来ーい」


 お尻ぺんぺんで煽る。良い子はマネしないでね。


「ガァ!」


 挑発が効いたのかは謎だが、一足飛びに距離を詰めてきた。その姿はまるで巨大隕石のよう。


 やっぱり早いな。だがそんなものは想定済み。無策で来るほどバカではない。今回は鎧馬ならぬ“鎧チーター”を持ってきた。


 能力ワンオペは、鎧兵一体につき一頭動物を作れる。人型以外の哺乳類なら大体オッケー。そうは言っても俺の知らないものや想像できないものは無理だ。だから俺の知ってるもので一番速そうなチーターにした。


 デザインは、俺が大して上手くない絵を描くとそれをAI(仮)が補正してくれる。大学時代、演劇サークルで衣装のデザインを手伝っていたこともあったので多少絵心はある。


 鎧兵も似た感じで、モニターに映した白い鎧の素体をキーボードでいじって形を変えたり、色を塗ったりすればAI(仮)さんがいい感じに仕上げてくれるのだ。


「グオオオ!」


 目の前まで迫ってきたミノタウロスが左腕で地面ごとチーターを(えぐ)ろうとしてきた。


 甘い! 避けられるギリギリの距離を見極めて回避した。タイミングバッチリ。さすが俺。自称音ゲーの天才なだけはあるな。だがしかし。


「ぐわーハチ」

「ぐわーアリ」

「ぐわークモ」


 アヒルの大合唱かよ。


 残念ながら上に乗っていた鎧兵だけ死んだ。乗りにくそうだもんね。


 その後、数体やられたものの、チーターは馬より速いし、小回りが効くので簡単には死ななかった。


「フゥゥゥ」


 敵が間を取るように大きく息を吐いた。周囲の土砂が吹き飛んでいく。夏場の扇風機に使いたいね。いや、臭そうだし辞めておこう。


 さて次だな。残ったチーター隊が森から涸れた川の真ん中に飛び降りた。


 よし、みんな逃げろー。


「チーチー」

「チーチー」

「チーチー」


 あ、これチーターの鳴き声(仮)ね。麻雀してるわけじゃないよ。チーターの鳴き声なんて知らないから仕方ないよね。


 合図と共に一斉に下流側へと走り出した。気付いたミノタウロスが川に降りて追ってくる。


 魔王城のある第三ダムから第二ダムまではほぼ直線なので、動きが単調になってしまいモグラでも叩くように簡単に潰されていく。


 しかし、ある程度逃げると急に追って来なくなった。情報通りだな。近衛兵シトローンから、ミノタウロスは巣がある場合、深追いはして来ないと聞いていた。


 という事で、次来たときにこの辺に罠を張ることにする。第二と第三ダムの中間くらいにね。


「そろそろ終わるか」


 最後に鎧チーターに煽りダンスをさせてみた。ムーンウォーク的なことをさせたり、服従のポーズをとってみたり、ゴロゴロ転がってみたりした。


 ほーれ、牛くんこっちだぞー? 来ないなら前足だけ縄張りに入っちゃおっかなー? どこか分かんないけどー?


「あ!」


 調子に乗っていると岩が飛んできて潰され、大阪のオバチャンが着てそうなシャツの柄みたいになった。ああ、俺の猫ちゃんが!


 こうして“(おとり)の兵”は壊滅した。


「よし、任務完了」


 ああ眠い。徹夜したから。お陰で敵の縄張りを大体把握できた。前回、寝ている時に調査兵がやられていたことがあり、蛇巨獣サーペントは尻尾が打ち付けられていたから犯人はミノタウロスだと分かっていた。


 そこで調査兵を巣の周りに再度配置し、徹夜して縄張りの範囲を調べたのだ。お陰で“攻撃が来ない場所”を見つける事ができた。


 さらに、さっきの囮の兵が敵を巣からおびき寄せている間に騎士団No.4土鎧のドロダンゴにあるブツを採取させていた。


 その日の夕方。無事ドロダンゴは帰還。神樹の北門を管理する赤毛の女クローザが門を開けてくれた。


「おかえり、ってクッセェ!」


「あはは、お土産のコイツのせいでごわす。クローザ殿にこれを加工して欲しいでごわす」


 クローザは巨獣加工屋でもあるのだ。彼女に何に使うか説明した。


「フーン、そういうのは“トマティナ”の方が詳しいし得意だぞ。そっちに頼めよ」


 トマティナさん……か。酒場の店員で踊り子の女性だ。以前、No.5エアロに酒をぶっかけた人。俺のトラウマである。


「ま、トマティナは気が強くて気難しいヤツだから、お前のそのブヨブヨの腹じゃ悪口言われて追い返されるだろうな。ぎゃはは!」


「だから、そんな事ないでごわす! 腹筋は六つに割れているでごわすよ!」


「はいはい。そうだ、聞いてると思うが“酸”の方の加工は順調だぞ。一週間以内には終わると思う。あとスライムボムもな」


 クローザには他にも頼み事をしていたのだ。


「ありがとうでごわす」


「他にあーしがやれる事あるか?」


「いや、大丈夫でごわす。頼んでいた件を進めてくれればそれで充分でごわす」


「そっか。あー、あとさ」


 日焼けした頬をポリポリ掻きながら何か言いたそうにしている。


「……こんなこと言うのも何だけどさ、あーしはお前達のこと……信じてるから。お前達が頑張ってること、知ってるから。ちゃんとさ、見てるから」


 ああ、そうか。考えてみれば彼女とは一番交流しているんだ。巨獣を退治する時、調査に行く時、帰還した時、その全てでクローザは笑顔で対応してくれた。その積み重ねが今、信頼の言葉として結実している。


 彼女の不器用な言い振りが心に染み渡った。こんな怪しい騎士団を見てくれている人もいたんだ。俺が欲しくて、だけど気付かなかったものをクローザは持っていて、与えてくれた。純粋に、ただ純粋に、嬉しい。


「だからさ、頼んだぜ? それといつも言ってっけど、死ぬなよ?」


 ありがとう。その言葉の数々をくれるだけで俺は戦える。


「任せるでごわす。必ずマルクト王国を救ってみせるでごわす」


 心からの言葉だった。


「それは置いといて一つお願いができたでごわす」


「お願い?」


「抱きついていいでごわすか?」


「やっぱ死ねよ」


 言っていいツッコミの限界ちょっと超えてない?


 その後、クローザと和解して家路についた。


 さて、疲れたし今日は寝て、明日の昼にトマティナに会いに行こう。説得方法は考えてある。大丈夫、きっと上手くいく。

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