第122話 帰還
邪神樹を倒して全てのセフィラを集めた俺は、冒険家ニートンを連れてマルクト王国へ帰還していた。
国民には伝えていなかったので特に賞賛はされない。しゅん。
その代わり、彼女のトマティナとオイチが屋敷で待っていた。
俺本体が着ている鎧を仮想空間に消す。瞬時に二人が抱きついてきた。
「おかえり、シロ」
「会いたかったですわ」
二人の温もりが心地いい。無事に帰れてよかった。
「ただいま。やっと終わったよ」
「これで巨獣が消えるのかな?」
「分からない。けど信じたい」
大丈夫、だよな? 邪神樹を破壊してここに帰還するまで巨獣の動きに変化は見られなかった。相変わらず鎧兵を見たら襲ってくるし、弱体化しているようにも思えなかった。
神樹セフィロトやホド砂漠の大樹や新天地カーナの切り株が残っているからだろうか。それとも他に邪神樹のように強力な樹がどこかに存在しているのか。リンゴ農家のシラユッキに聞いても分からないとのことだった。
不安は残るが、セフィラという希望も抱いている。もう賽は投げられたのだ。ここまで来たらやるしかない。セフィラの融合を。
俺が決心していた一方、ニートンは何をしているかというと、王都で新たな巨獣図鑑や珍しい調度品などをボッタクリのような価格で売っていた。まぁ命を懸けて冒険しているわけだし、いいか。
しばらくすると、貧民街のボス、豚鼻キャロブゥがやってきた。
ニートンを見るなり、目を丸くした。
「に、ニィさん! 生きていたんすね……!」
え? 兄さん?
「ん? おお。キャロブゥじゃねぇかドン!」
「風の噂で、肘についたクリームを舐めようとして首がおかしな方向に曲がって死んだと聞いていたのに、よくぞご無事で!」
なんか昔、兄さんがどうとか言ってた時に聞いた覚えがあるな。つーか、そんなウワサ信じるなよ。
「ガハハ! ワシが死ぬわけないドン」
「そうっすよねぇ! いやぁよかったでさぁ!」
二人は人目も憚らず抱き合った。
俺は近くの豚型鎧兵トンカツを操作して話し掛ける。
「二人は兄弟なのかトン?」
「いや、違いますぜ」
「え、でも兄さんって」
「いやいや、ニートンの“ニィ”さんでさぁ」
ニィさんって、兄弟の兄さんではなくてニートンのあだ名だったのかよ! 紛らわしいな!
「ニィさんが生きてたのでトンカツニィさんからニィは剥奪させてもらいやすぜ」
うん、そんな風に呼ばれてた覚えないし、なんかもう訳わかんないし好きにしてくれよ。
俺が諦めの境地に至っていると、ニートンがキャロブゥとトンカツの肩を抱き寄せた。
「これからは三人でブタ同盟として頑張っていこうぜドン」
嫌だよ。それ許されるの三匹の子豚くらいだろ。
「それより裏団長ポテト殿はいないのかドン?」
「えっ、ポテトさんが裏団長……!?」
キャロブゥが驚きの表情を浮かべる。
ゲッ、ややこしくなりそうなこと言うなよ。
「ああ、ポテト殿はいうならば神だドン。ワシが寝ている間に巨獣の群れが巣食う雪山を一つ越え、悪魔の木が生える湖まで行って敵情視察し、無傷で帰還してきたんだドン」
う、さすがに一日も経たずにやったのはマズかったか?
「なぁんだ、そんな事ですかい。ま、ポテトさんなら余裕でしょうね」
「なんだぁ? 自分は知ったような口振りだドンなぁ?」
「ここだけの話、あっしは聖教ポテトの教祖をしているんでさぁ。つまり神に近いあっしの方が“上”でさぁ」
くそマウントとってんじゃねぇぞ。
「いやいや、こちらは一緒に冒険して同じ釜の飯を食った仲だドン。対等な仲間であり、こちらの方が“上”だドンな」
マウント取り合ってんじゃねぇぞ。
「はぁ?」
「んだぁやんのかぁ?」
にらみ合う二人。
もう拗らせるのはやめてくれー!
それから豚どもの糞の投げ合いはしばらく続き、終わる頃には昼前になっていた。
とにかく後はセフィラを大司教の元へ持っていくだけだ。
これで全てが終わる。