第116話 ケテル連山調査
次の日の朝。俺はニートンが寝ている間に大量の鎧コウモリを放った。
モニターでニートンを監視しつつ、別窓でコウモリ視点を眺める。
暗黒迷宮ビナーより北東に行った先、ケテル連山へ。
しばらく移動すると、一面雪化粧で覆われた山々が見えてきた。
変わり映えしない地形が続く。退屈が俺の脳内を登り始めた頃、白いゴリラ型巨獣の群れを発見した。
「あれがイエティか」
ナックルウォークで移動している。一番前のやつには額にバツ印が刻まれている。その顔はゴリラのように凛々しさの中に優しさを覗かせるような顔つきでは無く、地獄の釜の底から世界の闇を掬い上げて、無理矢理固めたような邪悪な顔をしている。
耳が良いらしいイエティが、鎧コウモリの羽音でこちらに気づく。直後、尻に手をやったかと思うと、何かをぶん投げてきた。げっ、フンじゃねぇか! 汚ねぇ!
必死に回避していると、新たな敵が現れる。白い体毛を持つ狼型の巨獣。
「コイツがフェンリルみたいだな」
こちらも十頭くらいの群れで行動している。一番前には左目の瞼を縦断するように傷が入っている個体がいた。狼然りとした顔付きだが、黄金の瞳には暴君のごとく冷然とした光を湛えており、他者と和解することは皆無な雰囲気を漂わせている。
フェンリルが鼻をピクピクさせてコチラを視認したかと思うと、ワニのように大きく口を開いた。直後、氷の塊を勢いよく吐き出す。
「くそ、遠距離攻撃持ちかよ!」
大して速度のない鎧コウモリは、隕石のように飛来する氷塊を避け切れない。次々と迎撃されていく。
「あーうぜぇ」
コウモリの高度を上げて、敵が豆粒ほどに望めるくらい上昇すると、ようやく攻撃が止んだ。
一方、敵のイエティとフェンリルの群れ同士が合流していた。殴り合うことはなく、顔を寄せ合って匂いを嗅いだり、舐め合ったりしている。仲は悪くなさそうだ。くそ、もっとギスギスしろよ。どうやら同士討ちは厳しそうだな。
思考を切り替えてコウモリを先へ進ませる。そして山を一つ越えた時だった。
「あれは……!」
山々に囲まれるように存在する澱んだ湖があった。それだけなら驚かないが、中心には黒に染まった禍々しい大樹。葉はなく、地獄の底から這い出ようとする悪魔の腕のようだ。
「あれが“邪神樹トリフェス”か」
リンゴ農家シラユッキが言っていた神樹の対となる巨獣を生み出している悪の元凶だ。あれを破壊すればセフィラを集めるまでもなく平和になるかも知れない。
「ん? 何か動いている?」
ズームすると幹に無数の蠢く何かがいた。
それは“ハエ型巨獣の群れ”であった。
「うげぇ」
気持ち悪いのを我慢し、高度を下げて観察する。
すると、鳥肌の立つ羽音を鳴らしながらコチラに向かってきた。一体の大きさはワンボックスカーぐらいある。でけぇ。
敵はイエティのフンがついた鎧コウモリを狙ってきた。くそ、洗っておくべきだったか。
逃がそうとするも、相手の方が早くて簡単に捕まってしまい、頭を牙で噛み砕かれた。
「やばいやばいやばい」
数も速度も上回るハエになすすべなく破壊されていく。
「うーん、無理か。……ん、あれは!?」
諦めかけたところで、邪神樹の上部に真珠のように光る大玉を発見した。
「セフィラだ!」
俺が叫んだと同時に鎧コウモリは全滅し、映像が途切れた。
「マジかー。セフィラもあるかー」
邪神樹トリフェスが取り込んでいると見ていいのかな? だとしたら邪神樹自身が意志を持って攻撃してくるのか? もしくは巨獣を瞬時に生み出したり、超強化したりするのだろうか?
いずれにせよ全て考慮しといた方が良さそうだ。
思考がまとまった俺は、ニートンの元へ裏団長ポテトを向かわせた。
「帰ったぞ」
「うひょお、さすが裏団長ポテト殿! 早かったドン!」
すっかりポテト信者に変わったニートンにハエと邪神樹について話した。
「……そいつは厄介だドンな。あ、ハエを“ベルゼブブ”と名付けるドン」
相変わらず早いな。さすが中二病だ。
「さてと、攻略の策を練る必要があるな」
イエティ、フェンリル、ベルゼブブ、邪神樹トリフェス。今回もかなり面倒そうだ。だが、今まで死線をいくつも乗り越えてきたことと、十万の鎧兵がいることで精神的余裕がある。
「ワシも協力するドン」
ニートンが笑顔で親指を立てる。それは助かるな。巨獣と言ったらニートンの巨獣図鑑だし、俺の思いつかない発想や視点を与えてくれるはず。
そして俺達はアイデアを出し合って邪神樹攻略の策を煮詰めていった。




