第115話 最後のセフィラ
首なし騎士デュラハンを退けた後。
俺と、大男ニートンは暗黒迷宮ビナーから抜け出して、巨獣の入れそうもない地面の割れ目で休憩していた。
「いやぁ恐れいったドン。あんたら強いな」
「まぁな」
「でも首が飛んでいたように見えたが大丈夫だったドン?」
ギクゥ! 見てんじゃねぇよ。鶴の恩返しならジェット機並みの速度で去っていくところだぞ。
「ああ、兜が飛んだだけだから安心してくれ」
「それならいいがドン」
ふぅ、バカで助かった。
「さて、セフィラもあと一つだドンな。場所の見当はついているのかドン?」
「ケテル連山というんだが、隠れ里ダアトの北にあるらしい」
「それなら知ってるドン。最北にある雪山群で、ワシもまだ未踏の地なんだドン」
「ニートンが行けないなんて珍しいな」
死線をたった一人で越えて地図や巨獣図鑑を描き続けているようなヤツが行けないなんて相当だろう。
「山には厄介な巨獣が二種類いて難しいんだドン。一種は雪男のような巨獣“イエティ”。耳がいいんだドン」
イエティねぇ。白いゴリラみたいな感じか。
「もう一種は白い狼型の巨獣“フェンリル”。鼻がいいドン」
フェンリルってゲームとかでよく聞くけどカッコいいよな。中二心がうずく。ペットにしたい。
「ソイツらだけなら、どうにか出来そうなものだが」
特にニートンは逃げ足だけは早いし。
「コイツらの厄介なところは群れで行動するところだドン。特に額に十字傷の付いたイエティと、左眼に傷跡のあるフェンリルが大きくて強いドン。恐らくそれぞれ群れのリーダーだドン」
それでも隙を突けばなんとかなりそうだけど。
「山のどこからも登れないのか?」
「ワシには険しすぎてな。唯一登れる場所にはソイツらが陣取っていて無理だったドン」
険しい方のルートは鎧兵なら行けそうだが、俺本体は連れて行けなさそうだ。強力な巨獣が居なければそれでもいいが、まぁ勇気と運がいるよな。セフィラを飲み込んでいるヤツも近くにいそうだし。となると、本体を連れていく場合、イエティとフェンリルをどうにか倒して進むしか無さそうだ。
「一度調査してみるかな」
「どうする気だドン?」
……あ。普通に鎧コウモリ飛ばす気だったけど、コイツに見られたくないな。うーん……それなら。
「うちの“裏団長ポテト”を使えば余裕だろう」
ボケーっと、突っ立っている白いトゲトゲの鎧兵No.99ポテトを指差した。
「う、裏団長……! 凄そうなヤツだとは思っていたドンが、まさかそんな肩書きがあろうとは……!」
巨体なのとトゲトゲの鎧に騙されてるぞ。
「No.99、通称“ラストナンバー”のポテトだ」
今思いつきました。
「ラストナンバー……! ひぇぇ、カッコいいドン」
「ポテトは必ず騎士団の背中を守り、一人で巨獣を倒せる力を持っている。しかし、それを誇示することはない」
「きょえぇ! ぜひ一度話してみたいドン……!」
「辞めておけ、ポテトは多くを語らない。英雄は口で語るものではなく、背中で語るものと自負しているからな」
「うんぎゅぎぇー! しゅ、しゅごいドン!」
言語じゃなくなってきてんぞ。
それから。
「今日は日も落ちてきたし明日にした方がいいドン」
「そうだな。ここでそのまま休めそうか?」
「大丈夫だと思うドン」
地面の溝の中、俺達はそのままキャンプすることにした。
準備をしていると、すぐに夜の帳が降りる。星の瞬く夜空の下、たき火をしながらカボチャのスープを飲む。
「ニートンはどうして冒険家になったんだ?」
「単純に好奇心と探究心。そして“世界平和”のためだドン」
「世界平和? 意外だな」
「これでも世の中を憂いているんだドン。巨獣を排し、誰でも自由に歩ける世界にしたいんだドン」
バカなやつ。俺も同じだけど。
「我々と似ているな。何かきっかけがあるのか?」
「これといったきっかけはないドン。ただ、やはり旅から帰還して人里を訪れた時に知っている人間が笑っていないのは寂しいものだドン。旅の醍醐味の一つは再び会う人々の屈託ない笑顔だからなドン」
結構いろいろ考えてるんだな。ちょっと見直したよ。
「なるほどな。ただケチなだけじゃなかったのか」
「一言余計だドン」
そう言って、顔の半分を覆う茶色いヒゲをさすりながら、ワイルドな笑顔を浮かべた。見た目だけなら男が好きそうなサバイバル動画配信者みたいでカッコいい。変な語尾させなければよかったのにな。
「話は変わるが、その『ドン』って語尾なんなんだ?」
「ただのキャラ付けだドン」
お前は俺の鎧兵かよ。




