第113話 暗黒迷宮ビナー2・グリムリーパー戦
俺とニートンは、巨大洞窟である暗黒迷宮ビナーの探索を続けていた。
ニートンが踏破済みの箇所に案内してくれたが、セフィラは見つからない。
仕方なく、カボチャを倒しながらニートンすら未踏の地を進む。すると、野球ドームのような巨大空間に出た。
「なんかヤバそうなのがいるぞ」
俺の視線の先には、黒い外套のような“皮膚”を被った巨大人骨がいた。さながら死神だ。
「ワシも見たことないドン。“グリムリーパー”と名付けるドン」
まんまだな。嫌いじゃないけど。
観察していると、グリムリーパーの目の前を巨大カボチャが通った。
グリムリーパーの腕から刃がニョキニョキと生える。それは死神が持つような長柄の鎌だった。
おい、俺の団長ゼロとキャラ被りしてんじゃねぇか。設定変更しろ!
俺の文句は当然届かずに敵は鎌を使ってスイカ割りならぬカボチャ割りをしていた。
息絶えたカボチャを前に思い切り息を吸い込み始める。カボチャのカケラはまるでサイクロン掃除機のように吸われて口内へ。その後、カケラは頸椎を巻きつくように周りながら下降していき、胸郭の空間にある“赤い球体”に吸収された。
コアとでも言うべき赤い球体の内部には黒い宝玉“セフィラ”があった。二つは入れ子状で、二重丸のようになっている。
「セフィラを取り込んでいるな」
「やれるのかドン?」
「やるしかない。下がっていてくれ」
「分かったドン。頑張ってくれドン」
ニートンは、人間に見つかったヤモリのような素早い足取りで、元来た道へ消えていった。逃げ足だけは早いな。
ため息を吐きつつ、敵に向き直る。よし、やるか。
周囲の地形を確認する。巨大空間の至る所に死神の鎌が刺さっていて墓場のように見える。なんだろ、部屋にデカいオブジェ置きたがるタイプの方かな?
グリムリーパーの他には無数のカボチャが徘徊している。遠くの方は暗くて見えないが、視認できる範囲では他の種類の巨獣は見当たらない。
「面倒臭そうなギミックは無いな。懸念点はカボチャの妨害と、周囲が薄暗くて見えづらいことくらいか」
敵はまた呑気にカボチャを食べている。昼食タイムかな? じゃあ最後の晩餐にしてやるぜ。
「まずは数を増やして囲む」
火属性の鎧兵を消火状態にし、さらに爆発しないよう設定する。爆発物は洞窟を崩壊させるからな。
焦らずじっくりと包囲網を形成していく。そしてドーナツ状に周りを百体以上で囲んだ。
「よし、討伐開始!」
キーボードを叩くと火鎧兵が一斉に点火した。これにより周辺が明るくなる。
突然の異変にグリムリーパーがドクロの面を上げた。
「突撃!」
鎧兵が一斉に走り出す。敵は顔色一つ変えず、手持ちの鎌を横なぎに一振りした。真っ二つになるには鎌がデカ過ぎて、バットでリンゴを叩き潰すかのごとく鎧兵達は無惨に砕け散った。さらに巻き起こった突風により触れていないヤツらも吹っ飛ばされる。
「とりあえず最低限」
呟いた俺の視線の先、敵の持つ死神の鎌が青白く光っていた。雷鎧兵で帯電させたのだ。これで攻撃が見えやすくなるはず。痺れて武器でも落としてくれたらよかったが、残念ながらビクともしていない。
視認しやすくなった鎌を風鎧兵が大ジャンプでかわす。ジリジリと距離を詰めていき、死神の足へと飛び掛かる。
だがしかし、そう全てが上手く行くはずもなく、敵は次の一手を打ってきた。
着ていた黒衣を剥がし、地面を這うように振るう。風鎧兵のジャンプでも避け切れずに包み込まれていく。
敵が三百六十度浚う頃には、パンパンに詰めた黒いゴミ袋のようになっていた。それを思い切り振り上げて地面に叩きつける。鈍い音と甲高い音の不協和音に、俺は思わず顔をしかめた。
「無茶苦茶なことしやがる」
モニターの端の数字を見ると、黒衣に包まれた鎧兵の九十九パーセントは死滅していた。
あれをかわすのは至難の業だな。それなら次の策で行くか。
すぐに思考を切り替え、点火した火鎧兵を灯籠流しみたいにして列を作った。これで敵を細道へ誘導する。
が、読まれたのか、グリムリーパーは出入り口に黒コートの皮膚を飛ばして膜を張るように穴を塞いだ。
あ、卑怯だぞ! 道を塞ぐなんて道路交通法違反だろ!
グリムリーパーは、俺の理不尽な叫びも無視し、黒衣を使って鎧兵を壁際に集めた。まるで格ゲーのハメ技のように壁際で鎌をぶん回し始める。
あのコート邪魔すぎるな。北風と太陽助けてくれ。
なんてメルヘンな思考になりつつも、背後からクロスボウでチクチク嫌がらせをする。
敵は鬱陶しかったのか、振り向きざまにコートで風を起こして鎧兵を吹き飛ばした。さらに体の骨から棘のようなものが生えて矢のように飛ばしてきた。それにより鎧兵が削られていく。
はぁぁ、イライラするぅ! クソゲー!
でもまだまだ諦めねぇぞ。
敵は黒衣を投げた後は近づかなければならない。そこが狙い目だ。
俺はその時を待つ。それから敵が数歩ほど歩いた瞬間。
「ここだ!」
床で死んだふりをさせておいた木鎧兵に根を張らせた。巨大なネットになり、足場を不安定にする。
敵は急な地形の変化にバランスを崩した。どうにか踏ん張ろうと頑張っているが、氷鎧兵で凍らせた地面によりそれを許さない。
数秒後、ようやく膝をついたグリムリーパー。
「決める!」
鎧兵の大群が進軍する。それを敵は新たな黒衣を出して防御しようとしている、が。
「遅い」
本命は上。刹那、グリムリーパーのコアに鋭い雷が落ちた。天井に木鎧兵で、根の橋を作り、そこを雷兵が渡って待機していたのだ。
雷鎧兵は雷の弾丸に出来る。大きい音が鳴るのと命中率が低いのがデメリットだが、奇襲には最強の技といってもいい。
「……オオオ」
さすがにコアへの直接攻撃はダメージがあったようで呻き声を出して動きが鈍る。
俺は畳み掛けるように鎧コウモリをコアへ突撃させた。群れは一本の剣の刺突のように鋭く直撃。命中、崩壊、命中、崩壊。岩を穿つドリルのごとく連続音が響く。
そして999コンボくらいヒットさせた時だった。コアにヒビが入ったかと思うと、瞬く間に広がって砕け散った。直後、不思議な力で接合されていた骨はバラバラになり、崩れ去る。周辺の砂埃が消えた頃に、暗黒に染まったセフィラがまろび出てきた。
「ふぅぅ、勝てたぁ」
セフィラ持ちとはいえ、狭い空間だったし余裕があったな。ま、ホントは俺が強くなったからですけどねぇ!
天狗になっていると、突然。
「おい、こっちに来てくれ! 現れたんだ! “首なし騎士”が!」
な!? ニートンの叫び声に俺は慌てて操作を切り替えた。




