第111話 隠れ里ダアト3・有塚しろの秘密
俺は異世界転移転生者が住んでいたという日本家屋風の建物内の囲炉裏の前に座っていた。
今から、対面に座っている黒髪ロングのお姉さんシラユッキが“世界の真実”を話してくれるらしい。
まずは“シラユッキが何者なのか”ということだ。
「私は後にアダムとイブが食べることになる禁樹から生まれたとされる“禁断の果実”の分派“アップル一族の末裔”なのですわ」
「アダムッチとイブイブがどうとか言っていたあれか?」
新天地カーナに行く時に通ったホド砂漠のオアシスで言っていたことだ。
「そうですわ。印象付けるためにワザと名前を変えましたわ。正確にはアダムとイブでもなく、似て非なる世界の話ですの」
アハハ、やってくれるな。
「禁断の果実はアップルだけでなく、他にも居ました。ブドウ、イチジク、ザクロ、バナナ、トマトに小麦などなど」
トマトに小麦もか。これもオアシスで言っていたな。
「果実の一族は何らかの能力が備わっていたとされていますわ。例えば未来を見る、未知の言語を理解するなどですわ。残念ながら世代を重ねたせいか今では強力なものは使えませんけど」
オイチが占いを当てるのも、修道女ナナバさんがウホホイの言葉が分かったのも、巨獣加工屋クローザが武具造りに長けているのも、もしかしたらその名残なのか。
「そしてそんな果実の一族達によって行われたのが“禁断の果実戦争”ですわ。人類の祖であるアダムとイブに果実を食べさせる聖戦。そのままだと何も成せず死ぬ運命にあったアダムとイブを助けるため、あるいは殺すため」
あくまで異世界の話だよな? いわば平行世界、パラレルワールド的な。
「果実とは別に蛇の一族も居ました。旧約聖書では蛇が禁断の果実を食べることを唆したと悪のように云われていますが、こちらの世界ではむしろ救世主で、あえて食べさせることで毒を回避したのですわ」
「毒?」
「果実の一族には毒を持つものが居たのですわ。その筆頭が“マンチニールの一族”ですの。彼らはアダムとイブを殺そうとしていました。ですが、それを良しとしない他の一族に阻止されたのです」
シリアスな話に息を呑む。
「聖戦はアップル一族が勝利し、アダムとイブに知恵を授けることに成功しました。ですが、二人は禁断の果実を食べたことで楽園から追放されてしまいました」
そこは一緒か。
「ここからは“神樹セフィロト”と“巨獣”の真実をお話ししますわ」
いよいよか。緊張するな。
「アダムとイブを追放後の話になりますわ。最高神は二人に何か危険なものを感じ取っていたのでしょう。二人を監視するため保険として神樹セフィロトを下界に植えたのですわ」
神樹は神が植えたのか。でも神樹は人間にとって毒ではないよな。
「時が過ぎて人類が繁栄した頃、静観していた神樹セフィロトが動き出しました。人間の天敵である“巨獣”を生み出したのです」
「な……神樹が巨獣を……!?」
「巨獣は人類が力を持ちすぎないよう、抑制のために作られたのですわ。いわば、世界のバランスを取るための防衛機構。だから人間を襲う巨獣が多かったのですわ」
「嘘だろ……そんな……。じゃあ巨獣を根絶するには神樹を破壊するしかないのか……?」
「そうとも限りませんわ。神樹の上の馬や牛などは変化していないでしょう? それよりも神樹と対をなす“邪神樹トリフェス”の影響が大きいと思いますわ」
「邪神樹?」
「最高神は神樹以外にも樹を植えましたの。ホド砂漠や新天地カーナにも大樹があったでしょう? あれらに似たもので最も邪悪な力を持つものが邪神樹トリフェスですわ」
「それはどこに?」
「ここから更に北にあるケテル連山のどこからしいですわ。巨獣が北に偏っているのは気付いていましたか?」
「確かに北が多い気がする。今まで戦った凶暴な巨獣もみんな北にいた。それは邪神樹トリフェスがあるからということか」
「恐らく」
「本当に邪神樹があるとして神樹に似たそれを破壊できるのだろうか」
「お気持ちは分かりますわ。でも私達には二つの希望がありますわよね」
シラユッキは立ち上がり、地下へ向かう。俺は黙ってついて行く。階段を降りながら彼女は話の続きを始めた。
「一つ目の希望は“日本人”。神樹の上のマルクト王国を作ったとされる王様と聖職者は日本人なのですわ」
だから日本語が通じるのか。
「日本人はどうやってこの世界へ?」
「この世界は過去、現在、未来、異世界、その他もろもろと見えない根で繋がっているとされています。日本人ばかりなのは転移転生を強く願う人間がいるから。専門用語で“オタク”というらしいですわ」
オタクすげぇぇぇ! でも確かに俺も人生やり直せたらとか別の世界に行けたらとか考えてたしな。推しとか現代用語があるのも多分オタクが広めやがったな。あ、拙者は決してオタクではござらんので本質は分からんでござるよ。
「日本の方の知識と果実の一族、そしてアダムとイブの血を引く者達が協力して今の王国が存在するのです」
「魔法は? 日本には魔法なんてなかった。でもこちらに来たら使えるようになっていた」
「恐らく転移する力に影響を受けて使用できるようになったのでしょう。ただ、あなたのような強力な魔法を使える方を私は知りません」
俺だけ特別なのか? その疑問を口にする前に地下に着いた。
「二つ目の希望。それはこれです」
目の前にはガラス玉のように半透明な宝玉が鎮座していた。
「セフィラ……」
十集めると世界が平和になるという宝玉。今俺が必死に集めているものだ。
「セフィラの正体は私にも分かりません。これに関する口伝や資料はことごとく消失しているのですわ」
謎の宝玉、か。パンドラの箱のように希望の宝なのか、絶望の宝なのか。
「最後にもう一つ見せたいものがありますわ」
さらに奥へと進む。腰を少し曲げる程度の小さな出入り口をくぐると、そこは鍾乳洞のようだった。先には澄んだ泉が見えた。パワースポットのような奇妙な魅力がある。
「この泉は?」
「過去が見える泉ですわ。覗き込めばあなたの過去を知れますわ。転移した時の様子を見ればあなたの魔法の秘密がわかるかも知れません」
過去が見れるか……なんか変なことしてる時の映像流れたら嫌だな。
邪な考えが浮かぶ中、恐る恐る覗く。
水面が揺れて波紋を作り、俺の異世界転移前の姿が映し出された。シラユッキさんも覗いている。どうやら他の人間も見えるようだ。
映像は俺の転移直前である原付で道路を走っているところを映していた。
原付に乗った俺が巨大な古い木にぶつかる。そのまま頭が木にめり込んだ。グロくはないけど、観光地などにある顔ハメパネルを後ろから撮ったようなマヌケな絵面だ。
ある意味モザイクを掛けたい、と思っていると、木の中から白い虫が無数に出ているのが映った。その虫が俺の顔に纏わりついている。
「え、シロ、アリ?」
「プッ」
「あ、今笑ったな!」
「わ、笑ってませんわー。それより、分かりましたわ! 無数のシロアリの魂も一緒に持ってきたので、強力な魔法が使えるようになったのだと思いますわ!」
「え、嘘だろ? シロアリて。英雄の魂とか、巨獣にやられて亡くなった人達の希望の魂とかじゃねぇのかよ。シロアリて」
俺が結構ガッカリしていると、シラユッキが切り替えるように、ぱん、と一回手を叩いた。
「とにかく! これが私の話せる真実の全てですわー!」
「……まだ頭の整理がついていませんが、色々と合点が行きました。ありがとうございます」
それからテンションガタ落ちで初めに会った場所に戻り、シラユッキと別れた。
色々と思う事はあるが、とにかくやる事はセフィラ集めだ。それで何かが変わるはず。
俺が族長の元へ移動していると、猪、ではなくニートンが現れた。
「セフィラを集めるんだろドン? ワシも連れて行ってくれドン」
「悪いが断る。危険だからな」
「天下の聖騎士団様がワシを見殺しにできるのかな?」
……コイツ、目敏いな。俺が簡単に人命を見捨てられないことを察している。旅人ってのは危険を察知するため嗅覚が鋭いものだし、人間観察にも長けているのかもな。
「ワシを連れて行ってくれドン。ワシがいたら最短ルートで各地のセフィラがありそうな場所に行けると思うドン」
確かにそうか。
「金は払わないぞ」
「構わないドン。金になりそうなものを途中で見つければいいドン」
なるほど。さすが冒険家といったところだな。
「分かった。じゃあ行くか」
「そうこなくてはなドン」
そして俺達は準備をして、残りのセフィラ集めに向かった。




