第110話 隠れ里ダアト2・したたかな女
黒髪の美女シラユッキにどこかへ連れて行かれる最中、『あなたもしかして“日本人”ではないですか?』という突然の彼女の言葉に俺は一瞬にして頭が真っ白になった。
「日本人、とは?」
俺は辛うじて言葉を絞り出した。
「そうなりますわよね。私、知ってますわ。アナタがた鎧兵の中身がないこと」
汗が体中から吹き出す。
「数が百人以上いたこと、首が飛んでも動いたこと、液漏れなどなど。執事の調査でわかりましたわ」
え、あの七人のポンコツ執事達が仕事した!?
彼らは羊より役に立たないと思っていたのに。油断した。
俺が別な点でショックを受けているとは知らず、シラユッキは話を続ける。
「私の予想では聖騎士団の中身は一人。多くても二人くらいだと思いますわ。でなければあれだけの統率力を発揮できないでしょうし、人が多ければ秘密も漏れるはずですわ」
……鋭いな。
「それが事実だとしたらシラユッキさんはどうするんですか?」
「私の知っている“世界の真実”をお話ししますわ」
「真実?」
「えぇ……と、その前に到着しましたわ」
目の前には横長の建物があった。瓦屋根、障子、縁側なんかがあり、どう見ても日本家屋だ。
「ここは?」
「この里を作ったとされる人の家ですわ。異世界転移あるいは転生した日本人のね」
「転移に転生だって……!」
頭が混乱する。俺が動揺する中、シラユッキが構わず話を続ける。
「さて、最終確認ですわ。お顔を拝見させていただけませんか? それであなたが日本人だと分かれば世界の真実をお話ししますわ。魔法のこと、転移転生のこと、巨獣のこと、分かること全てですわ」
「…………」
顔を見せることは心臓を握られるようなもの。トマティナやオイチは例外として、これ以上秘密を知られるのはマズイ。ただ、世界の真実は知りたい。
迷う。でもやはり人生において虎穴に入らずんば虎子を得ずで、どこかでリスクを負わなければ何も得られない。ここを逃せば世界平和にかなり遠回りすると思う。
……うん、賭けに出るか。
「……わかった。少し待っていてくれ」
少しして、俺本体を連れてきた。
「それじゃあ、行くぞ」
辺りを警戒し、恐る恐る、ゆっくりと兜を脱ぐ。新鮮な空気が露わになった顔を撫でる。汗でおでこに張り付いた前髪を手でかき上げ、シラユッキと目を合わせた。
彼女は眉をわずかに上げた後、優しく笑った。
「素敵な面立ちですわ。私の持っている原初の日本人の絵と特徴が一致していますの。他にもお仲間がいたりしますか?」
「秘密だ」
自衛のためにも言わない方がいいだろう。
「ふふ、賢明ですわね。それではこちらも約束通り真実を語るとしましょう。……あ、その前に移動しましょうか。ここは日本人の家ではなかったのを思い出しましたわ」
ペロッ、と舌を出していたずらに笑う。
予防線を張ってたか。強かな女だね。
それから俺達は再び移動した。途中、隠し通路のような道を通って、何度も角を曲がった先にそれはあった。
「ここが本当の日本人の家ですわ」
さっきと同じく平屋だ。違いがあるとしたら池があり、鹿威しが風流を押しつけて来ていることくらい。
飛び石を渡り、玄関の引き戸を開いて中に入る。
内部も畳や障子などがあって和を感じさせるが、よく見ると所々に幾何学模様が刻まれており、異世界の技術も使われているのが分かる。
俺は警戒しながらも鎧を解除して、『お邪魔します』と言いながら靴を脱いで家へと上がった。
通された和室に鎮座している囲炉裏の前にシラユッキさんと向かい合わせで座る。
「まず何から話しましょうか。そうですわね、私が何者なのか、からにしましょう」
彼女はゆっくりと話し始めた。




