第109話 隠れ里ダアト1・再会
俺は冒険家ニートンと共に新天地カーナから東北東ぐらいにある隠れ里ダアトへ向かっていた。
ニートンは巨獣図鑑や地図を描いているだけあって地理に明るかった。彼の案内する道では全くと言っていいほど巨獣に出くわさない。
安全な道を通りながら雑談していると、宝玉セフィラの話になった。
「セフィラ集めねぇ。あんなきな臭いもんよく集めようと思ったなドン」
「人類にとっての希望でもあるが巨獣を凶暴化させる危険なものだからな。もし何も起きなくても集めて管理することも大切だ」
「大層な考えを持ってるねぇ。でも嫌いじゃないドン。ワシに出来ることがあったらいつでも協力するから言ってくれドン。金さえ払えばだがね」
そういやコイツケチだったな。巨獣図鑑を分割できるだけ分割して金をむしり取っている。
それから道なりに進んでいると、人が通れるだけの小さな穴があった。そこを抜けると天井に穴の空いた吹き抜けの場所に出た。
上部から差し込む木漏れ日の他に、光るキノコや光る岩が辺りを照らしていて明るい。
先を見ると、薄らと巨大なテントっぽい移動式住居がいくつも目に入った。
奥から人が歩いてくる。ソイツはよく見知った人物、片目に眼帯をした青年“オレンジャ”だった。体に少し筋肉が付いたのか大きくなったように見える。短髪だった赤毛も、わずかだが伸びていた。
「あ! ハムじゃねぇか!」
竜騎士小隊隊長バハムートを指差して言った。
俺は慌てて操作を切り替える。
「……オレンジャさん! お久しぶりです!」
「なんだ今の間は。まさかオレのこと忘れてたんじゃねぇだろうな?」
「まさか! 犬小屋に住んでいる方ですよね!」
「んなこと一言も言った覚えねぇよ!」
「それよりニートンさんからドラゴンに襲われたって聞いたんですけど大丈夫でしたか?」
「ん? ああ、オレがボコボコにした、と言いたいが今回は勘弁しといてやったよ。詳しい話は“イドテア”に聞けよ。着いてきな」
オレンジャの案内で奥に進み、見知った人達と挨拶を交わしながら建物の隙間を通り抜ける。
開けたところに出ると、中心に女族長イドテアが立っていた。相変わらずの凛々しい顔付きの成人女性だ。黒い短髪をかき上げながら、こちらに気付いて話し掛けてくる。
「ゼロ。久しぶりだな。よく来てくれた」
「イドテアさん、ケガはないですか?」
「この通り元気だ。安心しろ」
「ドラゴンが現れたと聞いたのですが、詳細をお尋ねしても?」
「ああ。ヤツは何の前触れなく現れた。初めにドラゴンを目撃した者によると、ワニくらいの大きさから徐々に大きくなったのを見たと」
「……まさか体の大きさを自在に変えられる?」
「見間違いの線も捨てられないが可能性は高い。少なくとも考慮して行動すべきだろう」
クッ、空を飛ぶ巨獣だけでなく、大きさを変えるタイプもいるのか……。その気になれば神樹に潜入し放題だな。
俺が不安を覚えていると、ニートンが口を挟んだ。
「体の大きさを変えられる巨獣を一体だけ知っているドン。聖騎士団には前にも話した首なし騎士。その名も“デュラハン”だドン」
ここに来る前に言っていたな。ただの中二病の妄想かと思ったが、そうではなさそうだ。
「確かソイツに狙われていると言っていたな。狙われている心当たりは?」
「あり過ぎて逆に分からないドン。今までいくつもの謎の遺跡を荒らしたり、謎の墓を暴いたりしたドン。それで怒ったのかも知れないドン」
いかにもやりそうだもんな。
「他にあるとしたらデュラハンの弱みでも握ったとかか? 鎧の中身を見たとか」
「うーむ、見てたらとっくに図鑑に描いて金に変えてるドン」
ま、そういうタイプだよな。
「アハハ……まぁ何か分かったら教えてくれ」
イドテアに視線を戻す。
「イドテアさん、他に何か気づいたことはないですか?」
「ドラゴンについては手詰まりだろう。それより気になることがあった。隠れ里ダアトの場所を知っていたのが“シラユッキ”だったことだ」
「え? あのリンゴ農家で七人の執事を連れている?」
「そうだ。ドラゴンが現れ、みなが焦っている最中、シラユッキは冷静にダアトへ避難するよう呼び掛けていた」
なんだろう。新天地に初めてたどり着いた時に何か真実を知っている的な意味深なことを言っていたが、それが関係するのだろうか。
「シラユッキさんはその事について何と?」
「残念ながら上手くはぐらかされてしまったよ」
直接聞いた方がいいか。聖騎士団に対してなら話してくれるかも知れないし。
「シラユッキさんはどこにいますか?」
「ここから右へ真っ直ぐ進んだ先の赤い屋根の家に居るはずだ」
「分かりました。今から訪ねてみます」
そういえば族長代理のテンソさんが居ない。それについて聞くと、彼は寝ているとのことだった。のん気かよ。
まぁいいか。疲れてるんだろうな。物事について深く考えるタイプだろうし、余計にな。
俺は適当に挨拶をして団長ゼロ一人で移動した。
一、二分歩くと赤い屋根の家が見えた。家の前には長い黒髪のシラユッキが立っている。こちらに気づくと微笑を浮かべて迎えてくれた。
「ゼロ様。お待ちしておりましたわ」
「シラユッキさん……」
何から話すか考えていると、先に彼女が口を開いた。
「大事なお話がありますわ」
なに!? 遂に告白されるのか!? 何のフラグも建設してないけど!
「こちらへ来てくださいな」
ついて行く。マジで告白されたらどうしよう。二人の彼女が居るしなー、断るか。でも美女だしなー。
なんて妄想をしながら、しばらく道なりに歩いていると、シラユッキさんが急に立ち止まり、こちらを振り返った。
「お尋ねします。あなたもしかして——“日本人”ではないですか?」
……え? 思い掛けない言葉に俺の思考は停止した。




