第106話 コクマー岩壁群3・ドラゴン
ワシ型巨獣グリフォンを倒す準備を始めて数日後。
俺は鎧兵の視点越しにグリフォンの“巣”を見ていた。やはり動き回る敵は休んでいる時に狙うのが最適。ここを狙うのがベストだと考えた。
巣は巨木や巨獣の骨でできた灰皿状で、典型的な鳥の巣形だ。大きさが体育館ぐらいあることを除けばだが。
「よーし、準備完了。いっちょやってみますか」
現在、グリフォンは巣の真ん中でスヤスヤと眠っている。その隙に巣の周りに火鎧兵を配置した。
あとは背後から近づいてケツの穴を爆破できれば完璧だ。
ちなみに空中からの爆撃は断念した。鎧コウモリは羽音がバサバサ&鎧が擦れてカチカチうるさくてバレるからだ。
「落ち着け、ゆっくりとだぞ〜」
火鎧兵達が列をなして、喜劇を演じるバレエダンサーのように爪先立ちでお尻の穴へ近づいていく。
慎重に移動して、あと十メートルほどまで来た。
これは勝ったか!?
なんて考えたのが運の尽き。一番後ろの鎧兵が足元の枝につまづいて盛大に前へ転ける。なんとか一個前のヤツを掴むも、ソイツもバランスを崩して転ける。さらにその前も、その前も。ドミノ倒しのように次々と転倒していく。そして遂に一番前の鎧兵がうつ伏せに倒れて大きな音を立てた。
グリフォンは目を大きく開き、銀色の瞳を兵達へ向ける。
や、やぁ。俺は挨拶もそこそこに、起き上がった火鎧兵達を飛び掛からせた。
爆発とほぼ同時にグリフォンは火を纏いながら空へ飛んだ。うわー、フェニックスみたーい。
無邪気な子供のような感想を述べていると、敵は近くの水場に飛び込んだ。数秒後、勢いよく水飛沫を上げながら飛び出してきた。
まぁこれじゃあやれねぇよな。作戦が失敗したのもそうだけど、思った以上に体が硬かったようだ。
「クェェェ!」
明らかにブチギレている。やはり短気だったか。前回、煽るような行動を取っていたし、こういう性格のヤツは鎧兵を殲滅するまで逃げないだろう。
「プランBで行くか」
巣の爆破で倒せていたらよかったがそう甘くはない。次の策で行く。
俺は部隊を分けて散らし、グリフォンの見える範囲に移動させた。
「クェ!」
敵が翼をひと扇ぎ。それだけで暴風が発生して鎧兵が吹き飛ばされる。
甘いな、まだまだ数は居るぜ。こっちには王都に置いてきた一万体を除いて九万体いる。召喚獣を合わせれば十八万体だ。ちょっとやそっとじゃ怯まない。
「クェェ!」
敵が翼を広げて羽根のシャワーを浴びせてきた。そんな攻撃もなんのその。逃げつつ、各地に潜ませていた鎧兵を補充して目的地へ誘導する。
逃げる。逃げる。そして、ボロボロになりながらも、とある場所へとたどり着いた。
「よし、ここでプランBを発動!」
鎧チーターに曲がり角を急激に曲がらせた。それに合わせて曲がるグリフォン。
すると、すぐ目の前に現れたのは“ハーピーの群れ”だ。
作戦名“バードストライク”。
簡単に言うと、グリフォンにハーピーを物理的に当てる作戦だ。
概要は次の通りである。まず、ハーピーを集めるためにエサである“岩ミミズ”の特性を調べた。普通のミミズは雨などで地面が濡れると地表に出てくるのを知っていた俺は、岩ミミズにもその特徴が適用されないか試した。結果はノーマルのと同じく外にウジャウジャ出てきた。
それを踏まえて、ハーピーの生息場所と食事時間を調べ、ポイントを絞って罠を仕掛けた。複数の氷鎧兵を溶かして地面を濡らし、岩ミミズを外に誘導。ミミズを主食とするハーピーをたくさん誘き寄せたのだ。
「クェ!?」
グリフォンが群れに驚き、急停止を試みる。
しかし、勢い余ってハーピーがボコボコとグリフォンに直撃。人と人がぶつかると痛かったりするように、巨獣同士でも大ダメージを受けるだろう。
急激に速度を落とせないグリフォンが同じくスピードに乗っているハーピーに激突して行く。アクロバティックにかわそうと試みているが数が多くて不可能だ。
敵はどうにか群れを切り抜けたが、岩壁に衝突して地面に叩きつけられた。
土煙が舞う中、グリフォンが血を吐きながら立ち上がる。脳を揺らされた影響なのか、千鳥足になっており、飛び上がらない。
「チャーンス!」
俺は岩壁の至る所に潜ませていた火鎧兵を突撃させた。
「グェ……!」
グリフォンは視点が定まらないながらも足爪を使ってこちらの数を減らしてくる。しかし、数の多さだけは誇れる俺の鎧兵を全て倒すことはできない。
組みついては爆破を繰り返していく。すると遂にグリフォンはその場に倒れた。それでも起きあがろうと踠いている。まだ立ち上がるか。だが、翼が折れたヤツに勝機はない。
「じゃあな」
俺がとどめを刺そうと火鎧兵を差し向けた、瞬間だった。
巨大な影が横切ったかと思うと、グリフォンが“消えていた”。
「は?」
唖然とする中、鎧兵の視点を動かして探す。
岩の転がる音がして、その方向にある岩壁を見上げると、グリフォンの首を持ち上げてこちらを見下ろしている何かがいた。
「え……あれは、まさか……!」
真っ赤な体表、太い尻尾、鋭利な鱗、長大な首、縦割れの黄金の瞳。そして一対の翼。
「ど、ドラゴン、か?」
そうとしか思えなかった。
俺が硬直していると、ドラゴンはグリフォンの首を食いちぎり、頭だけを丸呑みにした。残った肉を咀嚼しながら鎧兵達を値踏みしている。
次はこちらに向かってくるか、と頭をよぎり出した刹那。
「ギェェ!」
ドラゴンは気持ち悪い叫びを上げながら、どこかへ飛んでいった。
俺は瞬きもせず、ドラゴンが見えなくなるまで凝視して、視界から消えたと同時に安堵の息を漏らした。
「……た、助かった」
戦闘になったら勝てる自信はなかった。
にしても、この世界にはドラゴンまでいるのか……。ますます巨獣という存在をどうにかしないといけないと思った。
その後、鎧コウモリでドラゴンを追跡しようとしたが早すぎてどうにもならなかった。
諦めてグリフォンから出てきた灰色のセフィラを回収する作業に移る。作業は誰にも邪魔されることなく進んで無事に終わった。
ドラゴンがまた戻ってくるかもしれないので鎧兵を何十体か残し、俺本体は次のセフィラがあるとされる場所へ向かうことにした。




