第100話 旅の準備2・大司教ビーチ
「やっぱりダメかー」
教皇の住む宮殿の前で俺は肩を落とした。
教皇に宝玉セフィラの情報を聞くため謁見を申し出たのだが、門前払いされてしまった。
そりゃあ、ふらりと入る居酒屋のようなノリで教皇に会えるわけないよな。女王はバカだから会えるのにな。
しれっと女王をディスりながらどうすべきか考える。
「うーん、どうするかな」
謁見の申請だけしておいて復興の手伝いに戻るか。思案していると、背後から声が掛かった。
「ゼロや、どうかしたのかえ?」
振り返ると、白髪のお婆さんであるビーチ大司教が、桃を詰めた袋を持って立っていた。
「ああ大司教猊下。実は宝玉セフィラについて教皇聖下にお訊ねしたかったのですが、すぐには謁見が叶わないようでして、困り果てていたところです」
「おぉゼロや、遂にセフィラを探す気になってくれたんだねぇ。それなら大聖堂に来なさい。私の管理する書庫にセフィラに関する本が沢山あるんだよぉ」
「本当ですか……! それは助かります!」
「こっちにおいでぇ」
大司教とともに王都復興の様子を見ながら移動。さほど時間は掛からずに大聖堂へ着いた。建物の一部が破損していたものの、あまり被害を受けていないのですんなりと入れた。埃っぽい階段を降りて地下に着く。暗い廊下を歩き、とある部屋の前で立ち止まってドアを開いた。
「こんな場所があったんですね」
「普段は聖職者しか入室できない特別なところなんだよねぇ」
中を覗くと、本棚が所狭しと立ち並んでいた。
「綺麗な本が多いですね。管理がしっかりしているってことかな?」
「違うよぉ、数年前に小火があってねぇ。一部の本が焼けてしまったんだよねぇ」
「あぁ、そういうことですか。では、あまり有益な情報は期待しない方がいいかも知れませんね……」
「大丈夫だよぉ。私と他の生き字引たちが知識を持ち寄って本を修復したからねぇ。細かい違いはあれど概ね元通りだと思うよぉ」
おいおいすげぇな。俺なんて演劇サークル時代の脚本なんて一行すら思い出せないのに。
「なるほど、素晴らしいです」
「ヒッヒッヒ」
魔女のように笑うビーチ大司教。かわいいような、不気味なような不思議な感覚を味わった。
それから俺はさっそく本を漁り始めた。日本語っぽい文字で書かれているが完全に一致しているわけではないので推測で読むしかない。
巨獣の情報が載っているニートン巨獣記はまだ読めたんだけどな。まぁあれは絵もあったからというのもあるか。
もうすぐ俺の屋敷にやってくる二人の彼女、踊り子トマティナと占い師オイチにも手伝ってもらうかな。役に立つかは分からないが一人よりは捗るだろう。
それから少し経って二人が屋敷にいる俺本体の元へやって来た。俺は彼女達に事情を説明した。
「分かったわ」
「喜んでやりますわ」
トマティナには火がモチーフのNo.1ファイアを、オイチには蜂モチーフのNo.28ブンブンを操作させて大聖堂の地下に誘導してもらった。
「おや、助っ人のご到着のようだねぇ」
ビーチ大司教が口を三日月に歪めて歓迎した。
「オレはファイア。よろしく」
トマティナが魔法のボイスチェンジャーで声を変えて挨拶した。
「ブンブンです。お邪魔します。ビーチ大司教猊下」
オイチも同じく声を変えて挨拶した。
俺はそれを聞いてムッとした。
「おい、オイチ。ちゃんと語尾の『ハチ』を付けろよ」
ブンブンの特徴だ。
「クッ……そのような屈辱的な語尾付けたくありませんわ。ですがシロ様が罵倒するように命令してくだされば、やぶさかではありませんの」
「黙れ。早く付けろ」
「ああ! 命令口調が気持ちいいですわハチ!」
それでいい。やっぱりキャラ付けは変な語尾に限るぜ。
「ああ! 早くシロ様の股間の針で刺して欲しいですわハチ!」
「発情してないで働け」
変態は放っておいてみんなで本を漁り始めた。
ビーチ大司教は近くのイスに座って本を読んでいる。
「ビーチ大司教って魅力的ですわよね」
オイチが本をめくりながら言った。
「うーん? 確かに落ち着いていて理想の老人ではあるか」
「なんだかビーチ大司教からは、わたくしと同じ匂いを感じますわ」
はぁ? うさん臭いとこか? それとも異常性癖持ちってことか? 想像したくねぇな。
「それはない。お前にはエロさしかないだろ」
「そう言ってもらえて嬉しいですわ!」
暖簾に腕押しかよ!
オイチに侮蔑の視線を向けていると、団長ゼロに対して誰かが声をかけて来た。
「ゼロ君、進捗はどうでしょうか?」
振り返ると高貴なローブを着用した白髪のお爺さんが立っていた。
「教皇聖下……!」
その老人は、教皇“ホロウ”であった。




