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あなたを救いに未来から来たと言うヒロインは三人目ですけど?  作者: 氷純
第二章 燃える運命は回避できない

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第44話 お帰り、日常

 現住建造物等放火罪とかなんとかで大塚さんは逮捕され、丑の刻参りの女の方は暴行未遂の容疑で逮捕。

 一夜明けた十三日。被害状況は管理小屋の全焼。


「命があるだけましとはいえ、斎田さんになんて言ったもんかなぁ」

「放火ですし、許してくれると思いますよ」


 持ってきた荷物もすっかり燃え尽きてしまったため、俺と迅堂は手持無沙汰に燃えカス状態の管理小屋の前に佇む。

 消防車が来た段階で斎田さんに火事のことを連絡してあるが、こちらに到着するのは昼頃になる予定だ。


「これはもう、バイトどころじゃないですね」

「死人がいないとはいえ、一時閉鎖は免れないよな」

「ハッピーエンド、なんでしょうか?」


 自信がなさそうに迅堂が呟く。

 キャンプ場の被害はお金で解決できるのでとりあえず脇においても、失意の表情で麓にホテルを借りに行った小品田さんたちを思い出すといまいち喜べない。

 大塚さんが何故管理小屋に火をつけたのか、小品田さんたちには一生分からないだろう。大塚さん本人すら、チェシャ猫で記憶が吹き飛んでいるから動機を覚えていない。

 俺だけが動機を知っている。

 まぁ、墓まで持っていくつもりだけど。


「斎田さんが来るまでどうしましょうか? 何もすることがないんですけど」

「現場保存をしないとだから、片付けもできないしな」


 買い物目当てにやってきたご近所さんに説明して帰ってもらうくらいしか仕事がない。

 迅堂と二人、ご近所さんの厚意で貸してもらった組み立て式の椅子に座って夏の日差しを見上げるだけのお仕事である。交通調査だってここまで暇ではないはずだ。


「事件を解決したものの、燃え尽き症候群だよなぁ」

「あ、今の上手いですね」

「そういうつもりで言ってない」


 まだまだ夏は続くけど、死亡フラグは叩き折ったので少しは心安らかな日常を過ごせるだろう。

 相次いで自殺という不穏な未来をすでに聞いているけれど、ちょっとくらいは静かに過ごせる、よね?

 というか、この事件を解決すれば自殺の未来が訪れない可能性があるから、俺も迅堂も頑張っていたわけで。


「先輩が燃え上がるような未来情報をお届けしましょうか?」

「ちょっと休憩させて。達成感に浸る時間くらいは欲しい」

「これから笹篠先輩が登場します」

「……あ、連絡してない」


 ドタバタしていて笹篠への連絡を忘れていた。管理小屋が燃えかすになっていて、俺と迅堂が並んでぼんやりしているって事情を知らないと戸惑う状況だ。

 まして、昨日のうちに決着をつけるべくいろいろと無茶をしていたことがばれたら、確実に怒られる。


「加えて、松瀬のお姉さんも来ます」

「海空姉さんが? なんで?」

「斎田さんから事情を聞いて、心配したからですね」

「なるほど」


 ……ちょっと待てよ。


「なんで、迅堂が未来のことを知ってるんだ? いつから戻ってきた?」


 迅堂が未来から戻ってきたのなら、何か事件が起きるはずだ。


「俺が自殺、したのか?」

「自殺もしました」


 自殺、も?


「それって――」


 他にどんな死に方をしたのかと問う前に、キャンプ場に車が入ってくる。

 見慣れたその車は松瀬家のお嬢様こと海空姉さんの専用車だ。

 停車直後にドアが開かれ、黒髪の和風美人が飛び出してくる。


「――巴、怪我はないかい?」


 自分でドアを開けて駆け寄ってきた海空姉さんが俺の顔を覗き込んで聞いてきた。


「火傷一つしてないよ」

「そうか、それは良かった。迅堂さんも無事みたいだね」


 ほっと胸をなでおろした海空姉さんの後ろから同乗していたらしい金髪の美人が降りてくる。


「白杉、連絡一つ寄越さないとはどういう了見かしら? 心配したわよ?」


 太陽で紡いだ糸のように輝く金髪を耳に掛けて、笹篠が睨んでくる。

 この空間、美術的な価値がものすごく高くなってません?

 この三人が揃うと、日常が戻ってきた感が凄いな。背景に全焼した管理小屋を前に佇む斎田さんがいるけど。

 海空姉さんが斎田さんを振り返る。


「斎田、しばらくキャンプ場は閉鎖になるだろうが、支援はしよう。放火なんて防ぎようもないからね。帰ったら親族会議を行うが、ご隠居の話も聞きたい。出席願えるかい?」

「え、あぁ、ちょっと待ってください。頭の整理が追い付いてなくて」

「無理もないさ。数日、こちらに泊まり込もうか。バンガローは開いているのだろう?」


 今後の予定を話し始める海空姉さんと斎田さんを余所に、笹篠と迅堂が火花を散らす。


「一週間もあってなにも進展してないのね。見向きもされてないじゃない」

「防御力ゼロなのにブーメラン投げるのはどうかと思いますよ? 一週間も連絡してもらえなかった、笹篠先輩」


 迅堂、その攻撃は俺にも効く。

 俺と笹篠が同時に怯むと、迅堂は勝ち誇った笑みを浮かべて胸を張る。


「それに、私の方は進展もありましたよ。放火される直前まで体を重ねていたわけですからね!」


 言い方ぁ!


「お前が俺をソファに押し倒していただけだろうが!」


 誤解を招く言い方を訂正するも、当然疑いは晴れない。

 笹篠が俺との距離を一歩詰めて睨んできた。


「何でそんなことになったのかしら?」

「それは――」


 放火犯が来るのを未来人の迅堂が知っていたから寝静まっているように見せかけるため――って、言えねぇ!?

 説明したらチェシャ猫が発動するんだけど! 詰んでるんだけど!?


「何で口ごもるのかしら?」

「笹篠先輩、問い詰めるのは野暮ってもんですよー?」


 ニヤニヤしながら迅堂が煽る。自分の優位を確信して完全に調子に乗っている。

 人の気も知らないで……。


「笹篠、冷静に考えてくれ。俺は迅堂に押し倒されたが、こうも言い換えられる。迅堂は俺を押し倒すしかなかった。何せ、この一週間何の進展もなかったんだから」

「……なるほど、迅堂さんは焦っていたわけね」


 納得すると同時に攻勢に転ずる糸口を見つけて笹篠がにやりと笑う。


「まさかの先輩の裏切り!? しかし、残念でしたー。お祭りには先輩と二人きりの浴衣デートプランで行くことが決まっているので進展ゼロってわけじゃないですよ!」

「語るに落ちたわね。所詮はバイトの打ち上げの延長にすぎないわ。その点、私は水族館デートをした仲よ」

「季節イベントな分こっちの方が上ですよ!」


 どういう張り合い方?


「ふっ、浴衣の着付けに失敗する癖に」


 やばい、未来発言を阻止し損ねた!


「まるで見てきたかのように言うじゃないですか。確かに自信ないですけど!」


 セーフ、迅堂は気付いてない。

 あぁ、これが日常か。

 チェシャ猫地雷原の上を駆け抜けるこれが日常。

 燃え尽きてられないな、ちくしょう!


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― 新着の感想 ―
[一言] 全ての事件が終わった後、何気ない会話でみんな記憶を飛ばして「はい、もう一周」とかそんなオチだったら斬新ですねw
[一言] ヒロインズの気持ちに応えないのは学業優先が一応の理由だったかと思いますが、この調子で受験勉強に集中できるんでしょうかw 例え全部が全部キレイに収まっても、進学できなかったらそれはそれで負けな…
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