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あなたを救いに未来から来たと言うヒロインは三人目ですけど?  作者: 氷純
第二章 燃える運命は回避できない

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第33話 杖突

 懐中電灯で夜道を照らしながらレンタルビデオ屋に向かう。


「それじゃあ、お店に住んでるわけでもないんですね」

「あぁ、車を置いてあるんだよ。毎朝山登りは流石に堪えるから」


 中腹にあるとはいえ、バスなども通らない山の中だけあって交通の便が悪い。

 迅堂が疑問を口にした。


「なんであんなに辺鄙なところにお店を出したんですか?」

「土地が安いっていうのもあるが、半ば道楽でやってるからな」


 自主制作映画のパッケージを顔の前に掲げて、監督は続ける。


「この自主制作映画もそうだがね。マニアックな映画や個人的なお勧めの映画を並べてあるんだよ」


 つまり、あの二階の十八禁スペースには――いや、よそう。

 俺の考えを読んだように、迅堂がニヤニヤしながらわき腹をつついてくるが無視する。


「いまどき、ネットを使えばどんな映画でも借りられるし、物によっては借りる必要もなくお金を払ってパソコン画面で見れちまう。だから、独断と偏見で集めた、コレクションみたいなラインナップでうちは商売をしてるんだ」


 監督はそう言って、道の先に見えてきた自分の店を誇らしそうな顔で指さした。

 その時、山頂の方角からコーン、コーンと何かを木に打ち付ける音が響いてきた。

 思わず足を止めた俺たちは山頂を仰ぎ見る。暗い山の頂は少し強くなってきた風で木々が揺れ動き、不気味に脈動している。

 監督が頭の後ろを掻いた。


「早起きのキツツキかね」


 再び歩き出した監督がぼやく。

 迅堂が首をかしげて監督に続き、俺も違和感を持たれないように歩き出した。


 耳を澄ませて音の位置を探る。遠くはないが、火の玉が見えないということは近いわけでもない。

 中腹よりは山頂側だ。キャンプ場まで音が届かないのだから、位置は――

 車のエンジン音に顔を上げると、監督が自分の車に乗り込むところだった。


「見送りありがとう。キャンプ場まで乗っていくかい? ……いや、野暮だった。夜の散歩デートを楽しみなよ」


 ニヤニヤ笑って俺の腕を軽く叩いた監督は車を発進させ、山道を下っていった。

 車のエンジン音を警戒したのか、丑の刻参りの音が途絶えている。つまり、車を警戒するような位置に潜んでるってことか。

 だいぶ絞れたな。


「帰るか」

「ですねー」


 迅堂と一緒に来た道を戻り始める。

 今からでも消防団を呼ぼうかと思ったが、車のエンジン音に反応していたあの女は俺たちのことを認識している可能性がある。このタイミングで消防団を呼ぶと、俺たちを逆恨みしかねない。

 というか、今の段階で罪に問えるんだろうか。潜在的な殺人鬼ではあっても、現状では何もしてないんだよな。

 木に釘を打って傷つけているから器物破損とか?

 それでも、あの女が暴れなければせいぜい注意するだけで終わりそうだ。


「夜デートってもっとこう、夜景がきれいなところを歩きたいですよね。ここからだと麓の灯も大したことないですし」


 迅堂が麓に広がる町を見て少し不満そうな顔をする。

 夜三時をとうに回り、人々は寝静まって民家の明かりは消えている。まばらな街灯と二十四時間営業のコンビニの明かりが点在する夜景をながめてもあまり楽しくはない。


「ともすれば線香花火の方が明るいかもな」

「いま、灯すと掛けましたね」


 即座に掛け言葉を見抜いた迅堂が感心したように頷いた。


「線香花火といえば、キャンプ場で花火セットが売ってたのでやってみますか?」

「いいな。でも、笹篠が十三日にくるから、一緒にやろうぜ」

「私は先輩とムード溢れる花火を楽しみたいんですけどね」

「バイト先でムードも何もないと思うけどな。せめて、川の方にいって二人きりでやるとかなら別だけど」

「じゃあ、そうしましょうよ」

「もうじき夜が明ける。川に着く頃には朝だ。明日の夜は台風接近だからむりだしな」

「うーむ。何とかならないですかね」


 迅堂は諦め悪く思案して、結局良案が思い浮かばなかったのかため息を吐く。


「いっそ、いまから麓の人たちに明かりをつけてもらって夜景を楽しみましょうか。ここから大声を出せば届きませんかね?」

「安眠妨害はやめろ。罪悪感でムードどころじゃなくなるわ!」

「二人で背負う共通の罪の意識、それもまたムードがあると思いませんか?」

「そんなお手軽に背徳的なラブロマンスを演出するな」


 不倫なんかよりは健全だけども。

 麓の寂しい夜景を守るため、俺は反論する。

 ふと、脳裏をかすめた違和感に俺は足を止めた。


「……先輩? どうかしましたか?」


 唐突に止まった俺を迅堂が肩越しに振り返る。


 丑の刻参りの女はなぜ、キャンプ場で迅堂や俺を殺すんだ?

 時系列を考えれば、山を登り、キャンプ場の横を通って儀式の場に向かう途中で目撃されて、小品田さんと大塚さんが泊まるバンガローに火をつける。

 ここまでは分かる。


 だが、なぜ、そのままキャンプ場の横に留まるんだ?

 火をつけたのならそれでお終いだろう。それとも、バンガローから焼きだされて出てきたところを殺すつもりだったのか?

 だとしたら、バンガローを監視できる位置にいたはずだ。俺や迅堂は外国人に火事を知らせに行く途中で行方不明になり、殺されている。

 迅堂を引きずった跡が残されていた森の入り口はバンガローを確認できる位置ではない。つまり、女が潜んでいる位置がおかしい。


 バンガローに火をつけて、目撃者を処理した後に儀式を継続してキャンプ場の横を通って帰る際に俺や迅堂と鉢合わせたのか?

 往復する時間があるか?


 火の玉は午前二時以降に見かけられる。これは丑の刻参りの儀式に向かうところだろう。

 だが、儀式を終えた後、帰宅途中となれば時刻はおそらく四時半を過ぎている。

 人目を避けて夜の森の中、舗装も整備もされていない獣道を通るとどうしても時間がかかる。キャンプ場に到着する頃には五時近い。

 この時期に五時ともなれば日が昇り始める。


 俺はレンタルビデオ屋を振り返る。

 監督の車はキャンプ場とは逆方向に走っていった。


 ――麓へは、キャンプ場の逆方向に向かったほうが近いのだ。


 本当に、あの女がバンガローに火をつけたのか?

 こうは考えられないか?


 バンガローの出火と女は無関係で、何も知らない女がいつも通りに儀式へ向かう途中、外国人に火事を知らせに走る俺や迅堂に目撃されて、殺害に至る。

 ポケットの中のスマホを握る。

 対未来人用の切り札ともいえる、登録メッセージ。


「先輩、UFOでも見つけましたか?」

「どちらかというとUMAかな」


 はぐらかしながら、迅堂とキャンプ場へ歩き出す。

 どうやらこの事件、丑の刻参りの女だけでは終わらないようだ。


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― 新着の感想 ―
<<<「ともすれば線香花火の方が明るいかもな」 「いま、灯すと掛けましたね」 学がなくてわからぬ、、、和歌か短歌の掛け言葉のことっすか?
[一言] 今回のタイトルが意味深過ぎて凄く気になる。 二人っきりで焼けるのは今回にも掛かってたかと思ったけど…違うかな。
[気になる点] 情報が一気に出て来て頭が回らない 早く次回を読ませて…
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