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あなたを救いに未来から来たと言うヒロインは三人目ですけど?  作者: 氷純
第二章 燃える運命は回避できない

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第16話 正解の選択

「話しておきたいこと?」


 聞き返すと、迅堂は大きく頷いてからバンガロー内に常備されている懐中電灯を手に取った。


「道中で話します。まずは陸奥さんを探しましょう。当てはあるので」

「……分かった。でも、先に消防団に連絡するぞ。どうやら、遭難は確実みたいだしな」

「はい」


 俺はスマホを取り出して大石さんに連絡を取り、消防団の出動を要請する。

 駆けだした迅堂と共に、キャンプ場を出る。


「斎田さん、ちょっと陸奥さんを探してきます。消防団には連絡済みです。ここに陸奥さんが来たら連絡してください」

「えっ!? 君たちまでいなくなったら困るんだけども!?」


 斎田さんの声を後にして、俺は迅堂を見る。

 迅堂はまっすぐに神社への道を目指していた。


「私が経験した世界線では、肝試しに参加して先輩が行方不明になり、焼き殺されます」


 やはり、俺が前の世界線で経験したのとほぼ同じか。迅堂の場合、俺が死ぬみたいだが。


「手足を縛って生きたまま焼き殺すっていう、恨みがないとやらないような殺害方法なので、対象は先輩だけだと思っていました」

「肝試しに参加しなかった理由はそれか」


 俺と同じ考えだ。

 強い恨みを持つ者の犯行ならば、最初から肝試しに参加せず殺せる隙を作らなければいい。俺が今回、肝試しの参加を断ったのもこの考えがあったからだ。


 しかし、今回は陸奥さんがいなくなった。

 標的は俺や迅堂ではなく、肝試しの参加者のうち、一人で行動する者。

 迅堂は不愉快そうに眉をひそめて続ける。


「先輩が殺害された世界線では、警察が役に立ちません」

「どういうことだ?」

「笹篠先輩の事故のショックから、後追い自殺したと処理されて一切の捜査が行われません。笹篠先輩が生存しているこの世界線においても、先輩はやはり自殺として処理されるんです」


 俺も自殺扱いかよ。

 迅堂の時といい、この事件で警察は役に立たないな。

 道を曲がって下り坂に入り、速度を上げる。

 少し息が上がってきた迅堂が続ける。


「この肝試し事件をうまくやり過ごした世界線でも、先輩はどこかしらのタイミングで焼き殺されるんです。だから、確実に事件が起こる今夜に犯人を見つけるのが一番手っ取り早いと思うんですけど、先輩が肝試しを断るのは初めてだったので、流れに乗ってしまいました。私の落ち度です」

「いや、迅堂が悪いわけじゃない。悪いのはいつだって犯人だ」


 そもそも、俺も同じ考えで肝試しを断ったんだから、迅堂に罪があるなら俺も同罪だ。


「今夜をやり過ごす方法があったのか?」


 俺が未来人であることを知らない迅堂に直接聞くのはこのタイミングしかないと、水を向ける。

 迅堂は疑問を挟むこともなく頷いて、答えてくれた。


「私と二人で陸奥さんより先に出発するんです。二人で話しながら歩いていれば後から陸奥さんが追い付いてきて、三人で神社に向かう形になります。犯人の姿を見ることすらできないので情報は得られませんけど」


 なるほど。わざと神社への到着を遅らせて陸奥さんと合流して、一人になる隙を潰すのか。

 犯人は神社の縄や灯油を利用して焼き殺そうとする。神社の周辺に潜んでいるのなら、そこに到着するまで一人になっていても犯人に接触することがない。


 前回の迅堂がわざわざ正解の選択肢を選ばなかったのも、犯人がいるのが神社周辺だと分かっていたからだ。

 潜んでいると分かっているなら先に見つけて犯人を特定し、今後に生かす情報を得られる。その後に俺や陸奥さんと合流してしまえば、殺されることもない。

 だが、迅堂は失敗して殺された。


「見えてきました。あの階段を上った先の神社です」


 迅堂が指さす先に神社の鳥居が見える。月明かりに照らされた赤い鳥居を潜り抜け、広い境内を二人で見回した。

 ノンストップで走ってきたとはいえ、そもそも陸奥さんが行方不明になってから大分時間が経っている。犯人の姿は見当たらない。

 迅堂が社務所の裏にある倉庫へと走り出す。


「やっぱり、開いてる」

「倉庫が開きっぱなしだな。犯人が開けたか?」

「おそらくは」


 俺は消防団に連絡しながら、迅堂の後に続いて森の中に入っていく。

 現場は前回、迅堂が焼き殺された場所と同じところだった。

 まるで天に召される魂のように細い煙が上がっている。

 ――陸奥さんの焼死体が転がっていた。



 陸奥さんの遺体が見つかった日の夕刊に事件のことが載っていた。

 俺は記事を読んですぐに迅堂を呼ぶ。


「迅堂、この記事を読んでくれ」

「あまり読みたくないですね」


 陸奥さんの遺体を見たことで半日寝込んでいた迅堂が青い顔で新聞を手に取る。

 記事を読んだ迅堂は能面のような顔で俺を見た。


「……自殺として処理されていない?」


 夕刊の記事には陸奥さんの事件を殺人事件と断定して捜査本部が立ちあげられたと書かれていた。

 俺や迅堂の時とは警察の動きが明らかに違う。


 迅堂は険しい顔でカウンターの椅子に座り、管理小屋の売り場を眺めて考え込む。

 俺も先ほどから迅堂の時と陸奥さんの時で何が違うのかを考えているが、答えは出ない。


 あるとすれば、『ラビット』の存在だろう。

 水族館で笹篠も言っていた。俺や迅堂、海空姉さんが相次いで不審な自殺を遂げると。

 だが、『ラビット』の所有者を狙って殺人事件を起こしているのなら陸奥さんも未来人ということになる。


 しかし、陸奥さんの事件は自殺ではなく他殺として捜査が進む。

 つまり、今回の事件は『ラビット』の所持者かどうかは関係がなく標的にされるが、事件後の処理は『ラビット』の所持者かどうかで変わることになる、のかな?


 迅堂は大きなため息をついた。

 まだ自分の作戦ミスで陸奥さんを死なせてしまったと思っているらしい。


「悪いのは犯人だぞ」

「分かってるんですけど、やっぱり割り切れないんですよ。多分、警察が本腰を入れて捜査しても犯人にたどり着けないと思います」

「まぁ、監視カメラもない山の中だしな」


 正直、警察への不信感もあってまともな捜査が行われるのか疑ってしまう。

 なにより、迅堂の落ち込みぶりを見ると、脳裏に笹篠の言葉がよぎる。

 迅堂が働き者なのは、ある種の責任感があるから。

 陸奥さんの後を追って自殺するとは流石に考えにくいのだが、それでも迅堂は悩み続けるだろう。


 俺はカウンター裏の扉を開けて自室へと向かい、スマホを操作する。

 肝試しにおける正解の選択は迅堂から聞いている。

 だから、今度はすべてを救う。


『――ロールバックを行います』


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― 新着の感想 ―
なるほど、犯人は未来人であることは間違いがなさそうですね。やっぱ前章みたいに不意打ちチェシャ猫で記憶消去を狙うしか、、、前章のあのシーン死ぬほどかっこよかったんよなぁ
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