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あなたを救いに未来から来たと言うヒロインは三人目ですけど?  作者: 氷純
第二章 燃える運命は回避できない

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第13話 アクロバティック

 八月十日に印がつけられたカレンダーをぼんやり眺めて、俺はため息をついた。


 事件から三日が経過している。警察からの事情聴取もあったが、陸奥さんとほぼずっと一緒にいたこともあってまるで疑われなかった。

 最後に迅堂と接触していたのは俺と陸奥さんだが、神社から宿泊所まで休憩なしに走ったこともあって犯行に及ぶ時間を確保できたとは到底考えられず、容疑者ではなく第一発見者になっている。

 斎田さんが心配そうに俺に声をかけてきた。


「巴君、辛いなら実家に帰ったほうがいいよ?」

「いえ、大丈夫です。バイトを途中で投げ出したら迅堂に笑われるので」


 それに、ここにいなければ捜査情報をリアルタイムで得られない。

 俺がいまだに過去に戻ろうとしないのは、警察の捜査で犯人、せめて容疑者が特定されるのを期待しているからだ。


 現状、迅堂の死に関しては謎が多い。

 動機が不明。しかも殺害方法もおかしいのだ。

 神社の倉庫から持ち出されているのは縄と灯油である。殺害目的であるのなら縄で迅堂の首を絞めればいい。わざわざ、生きたまま灯油をかけて焼き殺すというその方法は強い恨みがなければ取らない選択だろう。


 しかし、恨みがあったというのなら殺害に及ぶ前に道具を準備していそうなものだ。神社の倉庫から持ち出しているのは、突発的な犯行にも見える。

 犯人が倉庫に祭り用の備品が保管されていると知っていた可能性が高いが、それを知りうる立場の人間に迅堂と面識のある者がいない。


 現場の科学捜査が進めば情報が出てくるはずだと身構えて三日目だ。今日は嵐の前の静けさか、風もなく静かだが明日には台風が到来する。証拠品は流されてしまうだろう。

 まぁ、現場の遺留品なんかはとっくに回収されているし、今更だけど。


 地方新聞を読んでいると、管理小屋にぞろぞろと若い男女四人組が入ってきた。


「ここが斎田キャンプ場であってますかー?」


 先頭にいた男性が俺を見て声をかけてくる。

 俺は頷いて、カウンター裏から利用者名簿を出しながら答えた。


「はい、斎田キャンプ場です。失礼ですが、ご予約の小品田様でしょうか?」

「そうです、そうです。あぁ、よかった。ちょっと道に迷っちゃいまして。後ろの三人は連れです」


 男二人、女二人の大学生グループだ。山慣れしていそうな出で立ちである。

 名簿にそれぞれの名前を書いてもらう前に、説明をする。


「電話でもお伝えしましたように、すぐ近くで事件がおきまして。宿泊の意志は変わりませんか?」

「大丈夫です。それと、夜間のキャンプ場外への外出禁止でしたっけ?」

「はい。事件の影響もありますので、外出は一律禁止です。夜の十時までここの売り場はやっているので、良ければご利用ください」


 同意してもらってから、利用者名簿に名前を書いてもらう。男性が小品田さんに、大塚さん。女性が与原さん、難羽さんの四人か。


「バンガロー二つのご利用ですよね。鍵はこちらです。どうぞ」


 鍵を渡すと、小品田さんと与原さんが一つずつ手に取る。男女で別れるらしい。

 難羽さんが俺の顔をまじまじと見つめてくる。


「この肌ツヤ、高校生と見た!」

「えっと、はい。オーナーの斎田さんの親戚で、バイトさせてもらってます」

「お、やっぱり! 高校生からキャンプ場バイトとは将来有望だねー。うちらは大学のキャンプサークルなんだけど、興味ない?」

「こら、難羽、こんなところで勧誘しない」

「まぁまぁ、パンフレットだけ渡したいんだよ」


 スポーティな印象の女性、難羽さんが鞄から折りたたまれたパンフレットを差し出してくる。

 思わず受け取ると、難羽さんはにかりと白い歯を見せて笑った。


「オープンキャンパスとか、文化祭とか覗きに来てよ。歓迎するぜー、めっちゃ歓迎するぜー」

「行けたら、行きます」

「それ来ない人のセリフー! 無理強いはしないけどね。なんか落ち込んでるっぽく見えるからさ。未来を見せてあげようと思ったんだよね!」

「あ、ありがとうございます」


 顔に出てたのか。しっかり愛想笑いはしているつもりだったんだけど。

 ちらりと他の大学生を見てみるけど、俺が落ち込んでいると分かっていたのは難羽さんだけらしい。不思議そうな顔をしている。

 小品田さんが肩をすくめた。


「未来を見せるって言っても難羽、まだ就職は決まってないんだろ?」

「うっせー! 生きている限り未来は続くんだ。就職しなくても生きていれば未来は見えるんだぜ!」

「現実逃避じゃね?」


 賑やかに笑いながら、大学生グループが管理小屋を出ていくのを見送って、俺は頬を両手で揉む。

 愛想笑いの準備――ヨシ!

 などとやっていると、管理小屋に新たな人が入ってきた。

 顔を向けると、そこには西洋風の顔立ちをした男性が立っていた。

 カウンターの俺と目が合うと、男性はウインクをしてくる。


「やぁ、予約はしてないんだけど、いいかい?」

「スペースは開いてますけど――」


 大学生グループにもした説明をする。

 説明の間、男性は俺を観察するようにじっと見つめてきた。

 なんだろう。


「うん、わかった。それでいいよ」


 説明を終えるや否や、男性は食い気味に了承する。

 ずいぶんと流暢な日本語だなと思いつつ、利用者名簿を出す。


「こちらに名前を書いてください」

「はいはい」


 くにうさぎのぶと予想外にゴリゴリの日本人名をさらさらと慣れた手つきで書きつけた男性は名前を指した後、親指で自分の胸を指す。


「いい名前だろう?」

「えぇ、良い名前ですね。信じると書いて信さんですか」

「そうそう。日本の友人と一緒に考えたんだ。僕は信じるに値する人間だからね」

「仲のいいご友人がいるんですね。今日はおひとりのようですけど」

「あぁ、あいつは奥さんに捕まってね。アウトドア派のあいつとインドア派の奥さんを繋ぎとめる折衷案をご自宅でお楽しみ中さ。おっと、高校生に言うことではなかったな」

「かすがいを作ろうって話ですね」

「そうそうそれさ。話が分かるね。仲良くなれそうだ」


 笑いながら、国兎さんは管理小屋を出ていく。

 リアルであのノリの人は初めて見た。


 利用者名簿を再びカウンター裏に収めた直後、管理小屋の扉が開かれる。

 また飛び込みの客だろうかと目を向ければ、そこには大石さんがいた。

 大石さんは険しい顔で管理小屋を見回し、俺に歩み寄ってくる。


「警察の発表は聞いたか?」

「警察の? いえ、まだです。犯人が捕まったんですか?」


 待った甲斐があった、と腰を浮かせた俺に、大石さんは首を横に振った。


「自殺と判断された」

「――は?」


 自殺?

 誰が?

 混乱する俺を見て、大石さんは険しい顔のまま木製の椅子に座る。


「迅堂ってあの女の子は手の込んだ自殺をしたことになった。捜査も打ち切りだ」

「そんな馬鹿な!」


 肝試しの最中に自分の腕を縛って顔に枯葉を被せて灯油を服に染み込ませて火をつける自殺だと?


「曲芸じゃねぇんだぞ!?」


 大石さんもまるで納得がいかない様子で両腕を組み、重い溜息を吐き出す。


「ありえない。だが、警察はそう発表した」


 警察が何かを隠している?

 自殺だけはあり得ない。それは断言できる。

 だとすれば、これ以上のこの世界線にとどまっても情報は得られない可能性が高い。

 唯一得られた情報が、警察は役立たずってことだけか。救いがないな。

 大石さんは当時の状況を俺からもう一度詳しく聞き出すと、管理小屋を出ていく。吹奏楽部の陸奥さんや顧問の美滋田さんにも話を聞きに行くのだろう。


 俺は大石さんを見送って、スマホを取り出し、『ラビット』を起動する。

 無言で起動した『ラビット』を操作した。


『――ロールバックを行います』


 春以来、聞かずに済んでいたその台詞と共に、視界が切り替わった。



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― 新着の感想 ―
アクロバティックってそういう意味かよ。作者さんあなた変態ですね、、ヒロインを酷い目に合わせてゾクゾクしてる変態でしょ!俺の同類!!!
[一言] 現場ネコw それダメなやつ(笑) 事件起こったあとに怪しい人間が出てきた……
[一言] 辛くて苦しいシリアスな展開の中サブタイトルで笑ってしまった私を許してください アクロバティック自殺は草生えても許されるはず
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