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あなたを救いに未来から来たと言うヒロインは三人目ですけど?  作者: 氷純
第二章 燃える運命は回避できない

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第5話  終業式

 何事もなくキャンプ場で土日を過ごし、学校へと帰ってくるとすぐに終業式だった。

 授業もないんだから休んでもいいのでは、とサボリ心が頭をもたげるものの、大学推薦などを考えると休むわけにもいかない。

 そんなわけで、終業式で話を聞き流し、教室でクラスメイトの番匠から夏休み中のテニス部の活動の愚痴を聞き流し、放課後、笹篠に拉致られて、いまミラノ風ドリアをつついている。

 うん、なんでこうなった。


「間違いは起こらなかったようで安心したわ」

「焼死もしなかったよ。なんか、カラスが虫メガネを枯葉の山に投棄するのが原因だったみたいだ」

「へぇ。昆虫採集に来た子供が落としたのを拾ったのかしら?」

「さぁ? 山の中にそれらしい子はいなかったけどね」


 キャンプ場の掃除中にカミキリムシとか見たけど、カブトムシはいなかったな。朝早くに外に出れば違ってたかもしれない。あんまり虫には興味がないから思いつかなかった。


「それを聞くために俺をここに拉致したの?」

「そうよ」


 笹篠はあっさり白状としてナスのミートソーススパゲッティをフォークでくるくる巻き取る。


「間違いが起きていたら過去に戻らないといけないでしょ」

「そこまでする?」


 大人の階段スタート地点に戻るのか。足腰が鍛えられそうだな。

 笹篠はオレンジジュースを飲んで俺を見る。


「冗談はさておき、キャンプ場に行った感想はどう? 私は差し入れに何を持っていけばいいのかしら?」


 それ、直前にメールで聞けばよくない?

 もちろん言わない。俺は空気が読める系男子である。山の空気に浸り、研ぎ澄まされた感覚が告げているのだ。

 笹篠は夏休み中の予定を今日のうちに組み立てたいのだと。


「差し入れねぇ。とにかくコンビニも遠い山の中だから嗜好品かな。スナック類もある程度は管理小屋の売り場で販売してるけど、売り手の俺や迅堂が買うのは何かね」

「いざお客さんが来た時にないと困るものね。週刊誌とかは?」

「帰ってきたらまとめて読むよ。本はかさばるし、重いし、笹篠にキャンプ場まで運んでもらうのは忍びないから」

「ありがとう。私はか弱いものね」


 にっこり笑ってそんなことを言う笹篠だが、俺と一緒に球技大会でテニス部の先輩相手に勝っている剛腕の持ち主である。


「それじゃあ、お菓子とか持っていくわ。それはそれとして、この後はどうする?」

「今日は一日何もないから、行きたいところがあるなら付き合うよ」

「よっし、そう来なくちゃね。最近の白杉、緊張のせいか反応薄くなってるし、気分転換しましょうよ」

「……反応、薄いかな?」


 自覚ないんだけど。

 ここ最近を振り返ってみる。

 言われてみると確かに、焼死の危険が迫っているせいで神経をとがらせているからギャグに上手くツッコめてない気がする。


「自覚は芽生えたかしら?」


 笹篠が悪戯っぽく笑って、ストローでオレンジジュースをくるくるかき回す。


「油断しろとは言わないわよ? でも、楽しまないと高校二年の夏がもったいないじゃない。だから、息抜きしましょう?」

「ご心配おかけします」

「好きな人のことくらい、いくらでも心配するわよ」


 ドストレートに表明されると照れる。

 ドリアを平らげてコーヒーを飲みつつ、時刻を確認。午後二時を少し回った時間だ。


「どこに行こうか。カラオケは知り合いに出くわす確率が高そうだけど」

「水族館に行きましょうよ。夏なんだから、水の周りに行きたいわ」


 水族館か。しばらく行ってないな。

 俺はスマホで近場の水族館の営業時間を確認しつつ、頷いた。


「分かった。水族館に行こうか。平日だし、そんなに混まないでしょ」

「決まりね。水族館デート、ちょっと憧れてたのよ。ライトアップとかもあるでしょう?」

「近くの奴はライトアップ期間は夏休みになってからみたいだね」


 ちょっと残念ではあるけど、もともと夜遅くまで出歩くわけにはいかない。明日には長期でキャンプ場に泊まり込めるように準備をして、明後日には出発だ。


「早速行きましょう」

「そうだね。もたもたしてると向こうで楽しむ時間も無くなるし」


 笹篠と同時に席を立って、手早く会計を済ませて外に出る。


「うっ……」


 笹篠が夏の日差しに気圧されて足を止めた。冷房が効いた店内から出ると湿気と気温の落差がひどい。

 そそくさと俺の後ろに回って日差しをやり過ごす笹篠に苦笑しつつ、歩き出す。


「笹篠って日仏ハーフだけど、夏休みにフランスへ行ったりとかは?」

「今年は予定がないわ。向こうから日本に来るから、従妹の相手をしないといけないけど」

「フランス語で?」

「六割くらいはボディランゲージよ」


 それで通じるのか。


「親も通訳に入るから案外困らないわよ。カタコト英語もあるし」

「フランス語は?」

「私は日本生まれの日本育ちだもの。ほとんど分からないわ。向こうはオタクだから、日本語が多少わかるけど日常会話は無理ね」

「そんなもんか」


 もっとフランス語が飛び交う家庭を想像していたけど、笹篠の家も公用語が日本語らしい。


「あ、でもフランス語での口説き文句はいくつか親に教えられたわよ」

「何でそのチョイス?」


 日常会話の方が汎用性は高いだろうに。

 笹篠は俺の横に回るとニヤニヤしながら見上げてくる。


「外国語なら日本人相手に通用しないから、恥ずかしがらずに言えるだろうって」

「伝わらないと意味がなくない?」

「調べようともしない男とは将来の相談もまともにできないんだから、見限って他を当たれと言われたわ」


 意外と実用的というか、現実的というか。

 でも割と納得できる。


「白杉の家には何かないの? しきたりとか。古い家柄みたいだから何かありそうだけど」

「別にないよ。しきたりどころか年中行事ですらかなり緩いくらいだ」


 子供の頃は節分とかやったけど、小学三年生あたりからはやっていない。

 和服をちょくちょく着るぐらいだろうか。


「あ、バスが来てる。早く行きましょ」

「走ると余計に暑いんだけどなぁ」


 駆けだした笹篠を追いかけて、俺もバスに乗り込む。バス停で日光に照らされるよりも少し駆けるだけで冷房が効いた車内に飛び込めるのだ。走らない理由はない。

 バス定期を見せて適当な椅子に腰かける。

 そこで、俺はふと隣を見た。


「なぁ、笹篠、俺たちっていま制服じゃん」

「……確かに、このまま水族館に行くのはまずいわね。帰りの時間を考えると補導されるわ」

「滑らかに俺の懸念を言い当てたけど、実体験?」

「過ぎた未来よ」

「差し迫ってるから回避しよう」


 互いの家に一度帰って駅で合流することに決めて、俺たちはそれぞれの最寄りのバス停で別れた。

 バス停から家へと歩きながら、スマホを取り出して耳に当てる。


『ヤッホーご主人、一学期のお勤めご苦労さまー』


 ラビットの電子音声が冗談めかした労い言葉を投げてくる。

 この向こうに海空姉さんがいるわけだが、それは言わない約束だ。


「ちょっと水族館に行くことになったから、今日の連絡はこれでお終いな」

『ちょっと、ラビットちゃんの扱いが悪すぎませんかねー!?』

「いや、命の危険が迫るのってキャンプ場だしさ」


 本家にいる海空姉さんには何もできないはずだ。このインドア派の権化がキャンプ場に出てくるとも思えないし、そもそも虫が大嫌いな人である。


『酷いっ! ラビットちゃんの存在価値が危機回避だけだと思ってるなんて! こんなに愛くるしいラビットちゃんに愛でる以上の価値があるだろうか? いや、ちょっとしかないはず!』

「微妙に反語じゃないな」


 しかも、はずって。言いきらないのかよ。


『いいもん、いいもん。ラビットちゃんはへそ曲げちゃうもん。雷におへそ捧げちゃうもん』

「ちゃんと熨斗を付けないと失礼だから、気を付けて」

『捧げさせるんかーい! プリティなお腹のアクセントが無くなってしまうじゃろーがい!』

「太ればそのお腹そのものが大きなアクセントになるんじゃない? じゃあね」


 電子音声でキンキンと喚く『ラビット』を強制終了し、俺は家の玄関をくぐった。

 早く用意して笹篠と水族館を楽しもう。


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― 新着の感想 ―
[一言] そういえばマスコット的にラビットちゃんが居たんだった。 後輩と同輩が濃すぎて忘れてたよ、すまぬ……。
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