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あなたを救いに未来から来たと言うヒロインは三人目ですけど?  作者: 氷純
第一章 未来人とチェシャ猫論

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第22話 情報整理

 保健室に笹篠を運び込むと、保険医の姿はなかった。


 ベッドを貸してもらって笹篠を寝かせる。

 シュレーディンガーのチェシャ猫の発動で笹篠の未来の記憶と人格が消えた。


 事件の背後に未来人がいるのは確定だ。

 俺は椅子に座り、ため息をつく。

 事件の背後に未来人がいるのは分かった。


「けど、なんで……」


 ――俺は無事なんだ?


 現在は水曜日。俺は土曜日までの記憶を有する未来人だ。

 笹篠と同様に俺も未来の記憶や人格が吹き飛んで意識を失ってもおかしくない。


 シュレーディンガーのチェシャ猫が発動する条件は平たく言うと、過去に観測した状況と矛盾がある場合だ。


 笹篠に発動した理由は単純。

 笹篠が、自分以外の未来人がいるとは知らなかったから。

 今まで、迅堂との会話でぼろを出さないようにフォローしていたからこの辺りは分かる。


 俺が無事なのは、自分以外の未来人の存在を知っているから、か?

 海空姉さんから、この世界には仮説で十人の未来人がいると聞かされている。その一人が事件の背後にいる。


 仮説だが、俺にとってこの世界に未来人がいるのは確定事項だから、未来人の出現を観測しても矛盾が起きなかった、のかもしれない。

 もしくは……俺はすでに事件の背後にいる未来人を、未来人として観測していた。

 黒幕は俺が観測したことのある人物なのか?


 真っ先に海空姉さんや迅堂が思い浮かぶが、あの二人はありえない。

 彼女たちが犯人じゃないと断言できるのは、心情的なものもある。

 だが、一番の理由は彼女たちが未来人だからだ。


 笹篠が死亡した未来から来た彼女たちは、わざわざ笹篠を殺害するために過去に戻ってくる意味がない。

 未来人は、本人にとって失敗した未来からやってくる。何度も笹篠や俺を殺したいとでも思わない限り、未来から戻ってくる理由がない。


 もう一つ、疑問がある。なぜ、事件の背後の未来人にはシュレーディンガーのチェシャ猫が発動していないのか。


「僕だけが特別だなんて思っちゃいけない、か。他に未来人がいると知らなかったような口ぶりだったな」


 笹篠と同様に他の未来人を観測していない未来から戻ってきたのなら、自滅にならないか?

 少し考えて、思い出す。


 海空姉さんが『ラビット』を介して俺と話していた理由は保身だった。

 未来人はチェシャ猫だ。姿を隠して口を出し、望む未来に誘導する。『ラビット』は海空姉さんにとっての変わり身、スケープゴートだった。


 今回、事件の背後にいる未来人はスマホと通り魔を自分にとってのスケープゴートにして自分を観測させなかったから、シュレーディンガーのチェシャ猫が発動しなかった。


 笹篠は未来人が誰かを特定できなかった。だが、自分以外の未来人がいるという確証を得てしまった。だから、チェシャ猫が発動した。


 事件の背後にいる未来人は、笹篠が未来人であることを確信していたが、確証を得ていなかった。チェシャ猫が発動したことで笹篠は未来の記憶と人格を消失し、現代人になったため確証を得たが、逆に今現在は未来人がいないとの確証も得て、チェシャ猫が発動しない。

 こういう、からくりか。


「こういうのは海空姉さんの領分なんだけどな……」


 シュレーディンガーのチェシャ猫がそもそも仮説だから、論理が凄くふわふわしてしまっている。

 だが、敵の尻尾は見えた。


 相手が未来人なら、旅館への奇襲は失敗する。俺が旅館への奇襲を行って成功した未来から犯人が戻ってくるのだから、無限ループだ。

 犯人がこのタイミングで笹篠に気付いたのも、俺が必ず笹篠を連れて旅館に奇襲をかけるから。他にも、笹篠が俺の知らない未来で何かをした可能性がある。


 同時に、犯人は俺が未来人だとは気付いていない。

 当然か。俺が普通の未来人なら笹篠が意識を失うタイミングで俺にもチェシャ猫が発動するんだから。


 俺は他の未来人の存在を知っているから、無事だった。


「通り魔が俺を殺さなかったのも、いまなら分かるな」


 笹篠が気を失った後、通り魔は俺に危害を加えず走り去った。


 旅館に視察に出向く名目は笹篠明華とのお疲れ会である。つまり、笹篠の未来の記憶が無くなった時点で、二人での旅館行きは当然却下される。

 何しろ、これからの笹篠は俺のことを君付けで呼ぶくらいに距離があるのだから。


 つまり、犯人側は証拠を隠滅する時間を稼げる。何なら、今日にでも飛び込みで団体客が入ったことにすれば、食品在庫の矛盾も解消できる。未来人ならこのくらいの工作はお手の物だろう。


 実際には、俺はすでに旅館の不正を確信していて証拠の確保に動けるのだが、それをしてしまえば犯人は未来から俺を殺害しに戻るだろう。


 手詰まりか。

 手の甲に爪を立て、痛みに神経を集中させる。

 諦めない。何度も、俺や笹篠を殺した相手だ。絶対に追い詰めてやる。

 犯人を特定してやる。


 今ある情報で犯人に繋がりそうなものはいくつかある。

 一つ、旅館の不正で利益を得ている人物。

 二つ、俺がテニスコートに向かう事を知っており、その時間やルートを知ることができ、トラックを先回りさせられる人物。

 三つ、俺と笹篠の旅館訪問を海空姉さんからの連絡で知ることのできる人物。


「相手が未来人であるのなら、もっと過去に飛んでもよかったはず。それをしない理由があるのか?」


 今日は水曜日。

 昨日は火曜日。これ以前に飛べばいい。

 例えば、トラック事故のやり直しとかでもいい。


「そうか……俺には観測できないのか」


 犯人は戻らないんじゃなくて、戻ったうえでトラック事故作戦を失敗している。


 ――これはジレンマだ。


 俺がトラック事故を超えた世界線上にいる限り、犯人にとってのターニングポイントを過ぎている。

 トラック事故作戦が成功した世界線では、犯人はわざわざ過去に戻る必要がないからだ。


 同様に、俺はトラック事故作戦が失敗した世界線を戻っている。

 さらに今日この時までに笹篠が未来人の笹篠であると観測している世界線だ。


 犯人が月曜に戻って笹篠を罠にかけても、俺はその世界線上にいない。だから、観測できない。

 ここまでの情報と推理はおそらく、海空姉さんもたどり着いている。そのうえで、海空姉さんが犯人を特定できないとなると、まだ情報が足りていない。


 事件は俺の周りで起きている。何か見落としがないか。


 旅館が隠しているのはおそらく、食品の架空発注だ。食品会社と結託しているのだろう。

 食品会社は碁蔵という人物がパイプ役になっているのか?

 碁蔵……宮納さんの喫茶店にもコーヒー豆を下ろしているって話だったけど。


「……あれ?」


 今日って水曜日だよな。

 スマホで日付を確認する。

 何回か過去に飛んできたせいで記憶があいまいになってきている。


 スマホをメモ帳代わりに、出来事を羅列していく。

 すぐに矛盾が見つかった。


 あれは、木曜日のこと。迅堂とテニスクラブを出てバイトに向かう道中に問い詰められた。


「――笹篠先輩と旅館に二人きりで行くという不純異性交遊をする計画があると宮納さんに聞きました!」


 迅堂がその情報を得るタイミングは前日の水曜日のバイト中になる。

 だが、先ほど海空姉さんは電話口で言っていた。


「――怪しまれないように明日の夜にでも予約をしようと思っていたところだけど。どうかしたのかい?」


 明日、木曜日の夜。

 ――なんで宮納さんは、今日の段階で俺と笹篠が旅館に行くって知っていたんだ?


「……決まってるか」


 宮納さんが未来人だからだ。


 海空姉さんが犯人を特定できないのは情報不足。

 迅堂の発言を海空姉さんは知る由もない。

 だから、特定できなかった。


 宮納さんは俺と笹篠の関係やテニスクラブに行くことを知っているし、旅館への資金援助には賛成派だ。

 碁蔵との繋がりもある。


 物的証拠はない。全て状況証拠だ。

 もっと言えば、宮納さんが他の未来人から情報を得た可能性も否定はできない。

 だが、宮納さんが未来人で黒幕なら、これから事件を起こさせない解決方法が一つだけある。


 俺はベッドに横になっている笹篠を見て、覚悟を決める。


「全力で取り組むよ」


 スマホを取り出して、俺は数十分前に戻った。


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― 新着の感想 ―
[一言] 宮納さん未来人の癖に迅堂に余計なこと話したことが原因で未来人ばれするのうかつすぎないか?
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