第995話 カケラ争奪戦 イタリア2(4)
「まあ・・・・・・・・」
「・・・・何とも恐ろしい光景だな。まさか『聖女』の光を突き破るとは・・・・」
「・・・・・・・・やりやがったか」
その光景を見たファレルナは口を開き驚いた顔を浮かべ、エリアはその視線を厳しくし、影人はポツリとそう呟いた。
「ああ、やっと近づけるや。次は君自身を壊すよ」
ゼノは軽く息を吐くと、一歩を踏み込みエリアとファレルナの方へと更に近づいていった。
「『聖女』、下がれ。これ以上近づかれるのはよくない」
エリアはファレルナにそう言って、接近してくるゼノからファレルナを守るように立ち塞がった。エリアは守護者。普段は闇奴や闇人にダメージを与え、弱体化させる「攻めの守護」を主な戦法としているが、今回はその戦法よりも、オーソドックスな守護者の戦法を取った方がいいと判断した。その理由は、ファレルナの光を突き破ってこちらに近づいて来るゼノに底知れない何かを感じたからだ。
「驚きました。まさか私の光を超えて来るなんて。あなたの闇は、この程度の光では晴れないようですね」
エリアにそう言われた当のファレルナは、まるで焦ったような様子もなくただそう言葉を漏らした。
「分かりました。ならばもっと、もっと強い光を輝かせましょう。あなたの闇をどこまでも晴らせるように」
ファレルナは全てを許すような、そんな慈愛に溢れた笑顔を浮かべると、瞳を閉じ再び両手を祈りの形にした。
「光よ、私のこのささやかな祈りを捧げます。だから輝いて。もっと強く、もっと暖かに。光よ、闇を照らして」
ファレルナのその言葉は、どこまでも暖かさと慈愛に満ちていた。ファレルナがそう言葉を紡ぐと、ファレルナの全身がうっすらと輝いた。そして、その背後の光も、先程とは比べ物にならないほどに強く輝いた。
「っ・・・・・!? まだ強くなるのか・・・・!」
その光を浴びた影人は呻くようにそう呟いた。凄まじい浄化の力を宿した光。その光を浴びた影人は、何か虚脱感のようなものに襲われた。おそらく、更に弱体化したのだろう。
「・・・・あー、嫌だな。本当に嫌な光だ・・・・・」
そして、影人がそのように感じたという事は、闇人であるゼノは尚のことだろう。ゼノは再びファレルナの発する光のせいで、近づく事が出来なくなった。ゼノが先ほど破壊した光は、光の本体ではない。いわば光の端のようなもの。ゆえに、ゼノがファレルナに近づくには、またこの光を壊して進むしかないのだ。しかも、この光は先程よりも強力になっている。壊すには先程以上の『破壊』の力が必要だ。当然、ゼノはさっきの光を浴びた時よりも弱体化しているので、力の出力をあげる事は難しくなっていた。
それは、今のゼノからしてみればかなり厳しい状況でだった。さながら、それは太陽に近づいていくイカロス、とでも表現すればいいだろうか。とにかく、そのレベルでの厳しさだった。
(流石にこの光を1人で壊すのはゼノの奴でも厳しいだろうな・・・・・・・俺も援護をしたいが・・・・この光を突き進む攻撃となると、かなりの力を消費しないとさっきの鎖みたいに消えちまうだろうな)
弱体化しているのはゼノだけではない。闇の力を扱う影人もだ。そのため、影人もゼノ同様に力の出力を上げる事が難しくなっている。
(だが、今はやるしかねえ。なに、金髪の時と同じだ。要は、聖女サマが死ななきゃ問題ない。この界隈、多少のケガはどうとでもなるしな)
主にソレイユの顔を思い浮かべながら、影人は一旦後方にいるレイゼロールを確認した。レイゼロールは最低限の注意力は残しているのだろうが、未だに集中するように目を細めていた。
「・・・・・・お前は弱体化の影響を受けてはいないのか?」
「・・・・・・・・・・我も闇の力を扱う身だ。当然影響は受けている。実際、今までよりもカケラの気配を探るのが難しい。時間はまだまだ掛かりそうだ」
影人はレイゼロールにそう質問した。影人に話しかけられたレイゼロールはそう答えると、再び口をつぐんだ。影人もその事を確認したかっただけなので、それ以上は語りかけなかった。影人は再び正面を向いた。
「『破壊』の闇よ、全てを穿つ槍と化せ。目障りな光を砕き壊せ。合わせて顕現しろ、『影速の門』」
影人が右手を光へと向ける。すると、影人の右手の先に真っ黒な闇の槍が顕現した。その槍は高密度の『破壊』の力の塊だ。そして、槍の先には黒いひし形のゲートのようなものが出現した。
「行け」
影人は照準をファレルナとエリアからすこしズラし、闇の槍を発射した。闇の槍は発射と同時に「影速の門」を潜ると、超加速しファレルナの光へと向かい激突した。
「っ、スプリガンさん・・・・・・」
自身の光を突き破らんとする闇の槍を見たファレルナが、どこか悲しげな表情になる。しかし、そんな事は影人からしてみればどうでもよかった。
(っ、これでも貫けないか。流石にランキング1位の名は伊達じゃないな)
ファレルナの光に実体はない。ゆえに、正確に言えばせめぎ合っているのは、光の浄化の力と闇の槍だ。その2つが斥力場のようなものを発生させ、せめぎ合っているように見えるのだ。先ほどのゼノの時も、起こっていたのはこの現象だった。
だが、ファレルナの浄化の力の強さは影人が想像していた以上だった。このままでは、光を破壊する事は難しい。そう判断した影人は、ゼノに向かってこう叫んだ。
「ゼノ! お前も合わせろ! お前なら出来るだろッ!」
ゼノとは少し距離があるので叫んだような形になってしまったが、その甲斐もあってか影人の言葉はゼノに届いた。
「そうだね。俺なら出来る。分かったよ、スプリガン」
影人に名を呼ばれた事が原因かは分からないが、ゼノは影人の言葉を聞いて小さく笑みを浮かべた。そして、ゼノは自身の左腕も『破壊』の闇で半ばまで黒く染めると、黒く染まった両手を光へと突き出した。
「俺に出来るのは何かを壊す事だけ。だから・・・・俺はただ破壊する。この光も、何度だって」
ゼノが突き出した両手を、光を引き裂くような形に変えた。ゼノが両手に力を込める。影人の放った闇の槍と、ゼノの『破壊』の力。怪人と最強の闇人の合同攻撃。その結果、
ファレルナの光はゼノに引き裂かれ、影人の闇の槍に貫かれた。




