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変身ヒロインを影から助ける者  作者: 大雅 酔月
92/1999

第92話 シェルディアの東京観光2(4)

「うん、よかったわね!」

 時刻はすっかり遅くなり、夕暮れ。入り口に戻ってきたシェルディアは、うーんと1つ伸びをした。

 公園は雑誌の通り、自然に溢れていてコースも様々で道も木で作られており、舗装もされていた。花や木を楽しみながら、散歩をするのはやはりいいものだ。

「・・・・・・・・もう少し、この辺りを歩いてみようかしら」

 陽華と明夜もいないので、この辺りの道は何も分からないが、そういうのもいいだろう。迷うのも旅の楽しみだ。

 日傘を影に仕舞い、気の向くままに歩き続ける。この土地の人々の営みを観察しながら、どれくらい歩いただろうか。気がつけば、シェルディアは人通りの少ない場所にいた。

「やあ、お嬢ちゃん・・・・・・・お一人かい?」

 そんなタイミングを見計らったように、ニタニタと笑みを浮かべる男性がシェルディアに声を掛けた。

「? ええ、そうだけど」

 年の頃は30を過ぎたくらいだろうか。小綺麗こぎれいなスーツに身を包み、ワックスできれいに髪をなでつけたその男性は、シェルディアの言葉を聞くと話を続けた。

「よかったらお兄さんとお茶しないかい? 良い店を知ってるんだ」

「あらあら・・・・・」

 どうやらこの男は自分をお茶に誘いたいらしい。シェルディアに馴染みのない言葉で言うとナンパである。

 見た目14~15のシェルディアを明らかに成人している男性がナンパするのは、明らかに事案であるが、シェルディアはそのような事などいっさい知らなかった。

「嬉しいお誘いではあるけれど・・・・・・・・・ごめんなさい、《《あなたのような》》人間は好みではないの」

「っ・・・・・・・手厳しいね、お嬢ちゃん。ならお小遣いを上げよう、後悔はさせないと誓うよ?」

 男は取り繕いながらも、必死にシェルディアを誘い続ける。その様子を見たシェルディアは、くすりと笑い少女の見た目らしからぬ大人な笑みを浮かべた。

「ダメね、あなた。まずは、その下卑た欲望を隠し切れていない気持ちの悪い笑顔をどうにかしなさい。それと、あなた少し前から私をつけていたでしょう? バレバレよ変態さん」

 シェルディアの容赦のない言葉が男に突き刺さる。変わらずにニタニタとした笑みを浮かべていた男は、その言葉を聞くと一瞬真顔になり怒り狂ったような顔に変貌した。

「このクソガキがっ! こっちが下手に出りゃいい気になりやがって! もう我慢ならねえ! こっちに来やがれ!!」

 逆上した男がシェルディアの腕を掴もうと手を伸ばす。シェルディアの言うとおり、男はシェルディアを見かけた瞬間から、その人形のような見た目に劣情を抱いた。そして人通りの少なくなったところで行動に移したが、残念ながら全てシェルディアに見透かされていた。

「不愉快だわ。触れないでちょうだい」

 ひらりと男の手を避けるシェルディア。避けた、というその行動が余計に男を逆上させた。

「避けるんじゃねえよッ!!」

 男が拳を握る。そしてその拳を男はシェルディアの顔めがけて振るった。

「バカね・・・・・・」

 はあとため息を吐いて、シェルディアは影から日傘を取り出した。シェルディアからすれば止まって見えるような男の拳を最小限の動きで避けると、見目麗しい少女は右手で持った傘を無造作に振るった。

「っ!?」

 とても傘で殴られたとは思えない激痛を味わいながら、男は文字通り吹き飛ばされた。シェルディアの細腕のどこにそんな力があるのか男には全く分からなかった。

「私はいま気分がいいの。だから、これ以上私に関わらないなら殺さないであげるわ。でももし、まだ私に向かってくるというなら、あなたを殺すわ」

 淡々とシェルディアは先ほどとは一転、恐怖に歪んだ顔に変わった男に宣言した。陽華と明夜といったような人間もいれば、この男のような人間もいる。そしてシェルディアはこの男のような人間があまり好きではなかった。

「ひ・・・・・・ひぃぃぃぃぃぃぃ!?」

 男は何が何だか分からぬまま、シェルディアの傘が直撃した脇腹の部分を押さえ無様に逃げ去った。

「全く・・・・・・・・人というものはいつまで経っても、愚かな所も変わらないわね。よりによって、私をどうこうしようだなんて」

 シェルディアは基本的には人間に好意的だが、ああいった種類の人間に対してはそれなりの不快感がある。

「さて・・・・・・・・・さっきからそこにいるあなたは誰かしら?」

 シェルディアはある路地の曲がり角に視線を集中させた。男に声を掛けられた中盤あたりからシェルディアは第三者の視線を感じていた。

「・・・・・・・・・・」

 すると、曲がり角から1人の少年が姿を現した。陽華と明夜と同じ制服を着た、いやに前髪の長い少年だ。手には何やら不思議な紙の入れ物のような物を持っている。

「いや、怪しい者じゃないんだが・・・・・・」

 怪しさ満点の言葉を吐きながら、その少年――帰城影人はシェルディアをその前髪の下から見つめた。


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