第81話 強くなりたいと願うこと(1)
「2人とも、大丈夫だったかい・・・・・・・!?」
休み明けの風洛高校。昼休みに学食スペースで昼食を取っていた陽華と明夜の元に、慌てたように光司が現れた。
「えっと・・・・・・どうしたの香乃宮くん?」
「何かあったかしら・・・・・・・?」
陽華は学食の唐揚げ定食の大盛りをペロリと食べ終え、焼きそばパンを頬張っている最中で、明夜は食後にパックの紅茶を飲んでいるところだった。
「どうしたもこうしたも・・・・・・・・レイゼロールと遭遇して、あの怪人・・・・・スプリガンから攻撃を受けたそうじゃないか!」
心配からのことであろうが、光司は少し声を荒げてそう言った。
香乃宮光司という人間がこのように声を荒げるのは本当に珍しい。事実、周囲の生徒も何事だとばかりに光司に注目していた。
「っ・・・・・・・・・」
光司もそのことに気がついたのだろう。深呼吸をして、いつもの様子になると驚いている陽華と明夜に謝罪した。
「僕としたことが・・・・・・・すまない2人とも。不快な思いをさせてしまった」
「全然! 香乃宮くん、私たちのこと心配してくれたんだよね。ありがとう」
「その優しさは本当に身にしみるわ。ありがとう、香乃宮くん」
2人は全く気にしていないとばかりの顔で、そう言った。
光司が心配からそのような態度を取ったことは、明らかだったからだ。
「・・・・・・・本当にごめん。2人とも、放課後は空いているかい? 出来れば、しえらで話し合いたいんだけど・・・・・・・」
「あ、ごめん。私、今日は部活なの。だから、陽華と一緒に行ってくれないかしら? その話なら、私がいなくても陽華がしてくれると思うから」
光司が何を話し合いたいのかは、明夜にも理解できた。
だから、その話をするなら自分がいなくても出来るだろうと明夜は判断したのだ。明夜は近頃、部活に顔を出していないので、そろそろ出なければ非常にまずいのである。
「という事でいいかしら?」
「私はいいよ。香乃宮くんはどうかな?」
「え・・・・・君たちがそう言うのであれば、僕もそれで構わないけど・・・・・」
陽華にそう振られた光司は、思わずそう言ってしまった。
本来ならばその話――レイゼロールとスプリガンの話を当事者である2人としたかったが、陽華と明夜はそのような条件を提案してきた。
確かに、当事者と話をするだけなら陽華1人でも事足りる。それに明夜本人の用事も自分との話よりかは優先事項が上だろうと考えた光司は、つい首を縦に振ってしまったのだ。
「じゃあ、そういうことで。陽華、しえらに行くならまだ食べたことないデザート頼んでみて。味が気になるわ」
「了解だよ、明夜。なら私、今日はフレンチトースト頼もうかな。・・・・・・・えへへ、きっとおいしいんだろうなー」
焼きそばパンを食べながら、じゅるりとよだれを垂らすという器用なのか不器用なのかわからない事をする陽華を見て、光司はどこか肩透かしのような感覚を覚えた。
(色々な事があっただろうに、この2人はいつも通りなんだな・・・・・・)
明るく笑顔で。この2人はいつもそんな雰囲気と表情をしているが、それが出来ない人間が、それを難しいと感じる人間がどれほどいるか。
光司は眩しいような目で陽華と明夜を見た。
「・・・・・・・・お邪魔したね。じゃあ朝宮さん、放課後にまた会おう」
「うん。また後でね、香乃宮くん!」
元気いっぱいの笑顔で、陽華は光司と約束を交わした。




