第7話 女神ソレイユ(2)
ソレイユに会うためには、どこか人目を気にしない場所が必要なので、二人は人通りの少ない住宅街の路地裏に向かった。なぜその場所を知っているかというと、二人はそこにいる野良猫がかわいいのでたまに行くからだ。
「でも、ソレイユ様もスプリガンのこと知らないかもしれないし、そんな理由だけで会いに行ってもいいのかな?」
路地裏に向かう道すがら、陽華がうーんと唸る。そんな陽華を見た明夜はカラカラと笑いながらこう言った。
「大丈夫大丈夫! もし知らなかったとしても、その時はその時よ。それにソレイユ様はそんなことで、いちいち怒る神様じゃないでしょ?」
「うん、そうだね。ごめんごめん、何か色々弱気になってるみたい」
「ほんと珍しいよね。陽華がなんかいろいろ躊躇するなんて」
明夜が少し不思議そうな顔で陽華を見る。確かに、陽華を知っている者が今の陽華を見ればおかしく思うだろう。それほどに今の陽華は普段とは違っていた。
「そ、そんなことないない!! ほ、ほらこんなに元気よ!? あ、そこ曲がれば路地裏ね! 早くソレイユ様に会おう!? ――わ!?」
「ったく、あの野郎。いきなり呼び出しやがっ――っ!?」
明夜に思いを気取られまいと、慌てた陽華は走って角を曲がったため、路地裏から出てきた人とぶつかってしまった。
その衝撃で陽華は尻餅をついてしまった。
「いてて・・・・・あ、ごめんなさい!」
陽華は自分がぶつかってしまった人物を見上げた。陽華がぶつかった人物は幸いにも尻餅をつくことはなかったようだ。
陽華がぶつかったのはどうやら同じ学校の生徒だったようだ。
その長すぎる前髪のせいで顔はよく見えない。おそらく、その前髪の下から陽華を見つめているであろう少年に陽華は見覚えがなかった。
「お前は・・・・・そうか。――気をつけろよ」
その前髪の長い少年は陽華の顔と、今し方自分が出てきた路地裏を交互に見ると、何やら独り言を呟いた。そして陽華に注意の言葉を言うと、そのままどこかへ歩いていった。
「あ、はい・・・・・」
陽華は素直に言葉を返すと、立ち上がった。少年の去りゆく背中を見ながら、陽華は知らないはずの少年になぜか既視感を覚えた。
「大丈夫、陽華? まったく、確かに陽華の不注意が原因だけど、あんなに冷たいのは流石にひどくない?」
陽華と同じく少年の背中を見て、明夜は少し不満げに口をとがらせた。
「いや悪いのは私だから。それより、明夜。あの人知ってる?」
「さあ? 風洛の生徒みたいけど私は知らないかな」
どうやら明夜も知らないようだ。二人は気を取り直して、路地裏に入る。
「さてと、確か・・・・・」
一応、辺りに人がいないことを確認した明夜は、スクールバッグから青い宝石のついたブレスレットを取り出した。そして、それを自分の左手に装着する。
「ほら、陽華も」
「うん」
陽華も同じように鞄から赤い宝石のついたブレスレットを取り出すと、右手に装着した。
「陽華、手順は覚えてる?」
「大丈夫、明夜3秒後ね」
「わかったわ」
陽華が明夜の左手を掴み、明夜が陽華の右手を掴む。握手をしたような状態で二人は同時に言葉を紡いだ。
「「光導姫が希う。我らを光の女神の元へ。開け、光の門よ!」」
二人が詠唱を終えると、赤と青の宝石が強い輝やきを放つ。そして、二人の前に光の輪ができる。
陽華と明夜は顔を見合わせて頷くと、そのまま輪を潜った。
そして、二人はしばし地上から姿を消した。