第57話 共闘(2)
明夜が少し不満げにそう呟くと、闇奴に向かって水の鞭のようなものが5本ほど伸びてゆく。水の鞭は闇奴の体に絡みつくと、その体の自由を奪う。
「――!」
今まで無作為に暴れていた闇奴はその結果、その暴走を止めることになった。
「おお、やるもんだね」
かかしが感謝の意を示してか、明夜の方にヒラヒラと手を振ってきた。
「ありがと、ブルーシャイン。これで近づけるよ」
「ありがとう! め――ブルーシャイン!」
陽華がつい癖で明夜の名前を呼びそうになるが、そこはどうにか気づくことが出来た。3人は再び闇奴に攻撃を仕掛ける。
「・・・・・分かってはいるけど、私って援護や後衛担当なのよね。最近、闇奴の動きを止めることばっかりだわ」
後ろで3人の姿を眺めながら明夜は不満というか悩みのようなものを独白した。
後衛というポジションがとても重要なのは明夜にもわかっている。分かってはいるのだが、明夜も某日曜朝の少女向け番組を見て育って世代だ。欲を言うのであれば近接で陽華のようにガンガン殴りたい。
「まっ、そういった運命だったということね」
明夜は少し格好をつけようと杖をくるりと回そうと思い、派手にミスってその杖を落とした。こういうところがクールビューティー風なのにポンコツというかバカと言われるゆえんの1つだ。
明夜が慌てて杖を拾ってる間にも、陽華や暁理、かかしは闇奴の攻撃を時には受け、時には回避して闇奴に攻撃を行っていた。
「おーい、アカツキ。そろそろ決めてもいいんじゃねえの?」
スケアクロウが体から所々黒い血のようなものを流している闇奴を見てアカツキにそう言葉を投げかける。無論、その傷はスケアクロウとアカツキの武器による傷だ。
「確かにね。ならフィナーレと行こうかな!」
アカツキがバックステップで闇奴から少しだけ距離を取る。そして剣を正面に構える。
「――浄化の風よ、我が剣に宿れ」
アカツキがそう唱えると、その壮麗な剣に浄化の力を宿す風が剣に集中した。そうして浄化の力の宿った剣を携え、アカツキは闇奴に向かって駆け出した。
「――!」
闇奴は危険を感じたのか、アカツキの方に集中する。しかし、その隙をかかしと陽華が見逃すはずがない。
「よそ見は厳禁だぜ?」
「そこっ!」
かかしはチクチクといやらしく闇奴に弱体化を促す血のようなものを流させていき、陽華は浄化の力の宿った拳を闇奴にぶつける。
「――! ――!」
闇奴は悲鳴のような声を上げ、かかしと陽華の方に集中せざるを得ない。
「疾風――」
その隙にアカツキが必殺の一撃を叩きこもうとその剣を振るう。
その攻撃により闇奴は浄化された――かに思えた。
「――――!」
しかしそこで不測の事態が起こる。闇奴が突然、咆哮したかと思えば、闇奴の腰の部分辺りから固い甲殻に覆われた尻尾のようなものが出現したのだ。
「なっ!?」
そしてアカツキの必殺の一撃はその尻尾に弾かれた。
「おいおい、こいつは・・・・・!」
「まさか・・・・・ちっ、みんな距離を取れ!」
それだけではない。今まで片翼だった翼が新たに闇奴の背から生えてきて、両翼になり、鋭かった爪はさらにそのリーチが伸びて凶悪になる。
その現象を目の当たりにして、スケアクロウは少し冷や汗を流し、アカツキは指示を飛ばした。
「――!!」
そして頭部はぎょろりとした目が額に追加され、両の目と合わせて合計3つに。肉食獣を思わせる獰猛な牙を覗かせていた口の部分は大きく裂ける。
そこにいたのは正しく化け物と呼ばれる者の類いだった。
そして化け物――闇奴は先ほどよりも禍々しい姿になり生まれ変わったように咆哮を上げた。
「最悪だ・・・・・! 野郎、段階進化しやがった!」
「くっそ・・・・! レッドシャイン、ブルーシャイン! 気を引き締めてッ! あいつはさっきまでとは全く違う強さになってるよ!」
かかしとアカツキは顔つきを真剣そのものにすると、油断なく闇奴を睨み付ける。
「ッ・・・・・・!? はい!」
「一体何が起こったっていうのよ・・・・・・!」
陽華と明夜には何が何だか分からなかったが、スケアクロウとアカツキに尋ねている暇がないことくらいは、2人の言動から分かった。
「――! ――!」
第2ラウンド開始の合図かのように、闇奴は4人に襲いかかった。




