第538話 歌姫オンステージ5(2)
「化け物だなんて酷いわね。私はただそれが出来るってだけよ。ああ、後キベリアと響斬もいるわよ。まあ、2人とも遅かったから置いて来たけど」
「・・・・・・・待て、キベリアは力を解放しているからまだいい。今のところ我がキベリアの気配を感じられないのは、お前が何かしたからだろう。だが、響斬はまだ封印を解いていないのだぞ? 今はただの人間とほとんど変わらない。それに響斬の剣の腕は――」
レイゼロールがシェルディアを睨み言葉を紡ごうとすると、シェルディアは「分かってるわ」と即座に言葉を返して来た。
「響斬からその事は聞いたから。でもまあ、いい修行になるでしょう。一応、近くにキベリアもいるし、浄化されはしないんじゃない?」
「適当な事を・・・・・・・・・・どうせ2人を連れて来た理由は面倒な戦闘を避けるための足止めだろう」
「ふふっ、バレた?」
レイゼロールが珍しくキベリアと響斬に同情するようにため息を吐いた。特に、響斬は下手をせずともここで浄化されてしまう可能性は極めて高い。
(だが、我は早くこの山の頂上を目指し、目的物を確認しなければならない。それにこう言ってはキベリアと響斬には悪いが、2人には光導姫と守護者の足止めをしてもらった方が助かる。ならば――)
レイゼロールは無言で右手を無造作に振った。すると、地面から闇で造られた骸骨兵たちが何体も出現した。骸骨兵たちはケタケタと歯を鳴らしながら剣や槍、斧などといった闇で出来た武器を携えている。
ちょうどそんな時、新たなる闇の気配が1つ生じたのをレイゼロールたちは感じた。恐らくキベリアだろう。力を解放したという事は、光導姫たちとの戦闘に突入したという事か。
「行け」
レイゼロールはただ一言、骸骨兵たちにそう命じた。レイゼロールの命令を受けた骸骨兵たちは、その命令を了解したようにケタケタと音を鳴らしながら、下の方へと向かっていった。
「あらあら、優しいわね。キベリアたちへの援軍だなんて」
「・・・・・・相手は恐らく最上位が複数人だ。いくらキベリアといえども荷が重いだろう。響斬はほとんど一般の人間と変わらないしな」
レイゼロールの意図を察したシェルディアが、揶揄するようにそう言ってきたが、レイゼロールは無感情にそう答えただけだった。骸骨兵たちはまだまだ無際限に地面より湧き出て、下の方へと向かっていく。
「・・・・・・・・我は先を急ぐ。お前はどうする気だ?」
「んー、とりあえずはあなたについて行こうかしら。スプリガンとかが現れれば、私はそっちに行くつもりよ」
「そうか。ならば・・・・・・・行くぞ」
「ええ」
レイゼロールとシェルディアは凄まじい速度で、釜臥山を登っていった。




