第43話 理由(1)
「――と、さっきまでの僕の変な行動の理由は以上になるかな!!」
無理矢理に笑顔を浮かべてアカツキは再度自らの行動の言い訳を行った。結局、謎の視線は自分の勘違いだったし、アカツキはそれを「視線を感じたが虫だった」というこれまた苦しい言い訳をした。冷静に考えて虫の視線を感じるなどいうのはそれはそれでヤバイ奴なのだが、この時のアカツキは簡単に言うとめちゃくちゃテンパっていた。
普通ならそんな言い訳は嘘と見抜くだろうが、お人好しでどこか単純な陽華と明夜はアカツキの嘘を信じた。
「うわぁ・・・・・・すっごいですね! 虫の視線を感じ取れるなんて私にはできないですよ!」
「そうね・・・・・・あなたのような人を、人は達人と呼ぶのでしょうね」
陽華はキラキラとした目をアカツキに向け、明夜は尊敬の眼差しでアカツキを見つめた。
もし影人がこの会話を聞いていれば、2秒でこの2人をバカと認定して絶対に詐欺に引っかかるタイプだと断定していただろう。そもそも人は虫の視線を感じ取れるような人間を達人とは絶対に呼ばない。全国の達人と呼ばれる人々に失礼である。
現に光司は「あはは・・・・・」と苦笑いを浮かべている。
「ええっと・・・・・コホン! 改めての改めてだけど、自己紹介をするね。僕は光導姫ランキング25位の光導姫名、アカツキ。変な出会いになっちゃったけどよろしくね!」
まさか自分の嘘を真に受けるとは思っていなかったアカツキは、困惑しながらもようやく自分の自己紹介を終えた。全くこんなに自己紹介に時間がかかったのは、人生で初めてだ。
ちなみに、光司や暁理の自己紹介を見て分かる通り、光導姫や守護者は本名を名乗らないのがルールというか決まりである。基本的に名乗るのはランキングに名がある場合はその順位、そして光導姫名や守護者名だ。
陽華と明夜、光司はお互いが知り合いという関係上、変身していても本名で呼び合うがそれは特殊な例だ。
「あ、ええと、光導姫名レッドシャインです! ランキングにはたぶん載ってません! よろしくお願いします!」
「同じく光導姫名ブルーシャインです。よ――レッドシャインと一緒で恐らくそのランキングには載ってませんが、どうぞよろしく」
2人も空気を読んだのか本名ではなく光導姫名を名乗った。影人がこの自己紹介を聞いていれば、「そういやそんな名前だったな」と、どうでもよさそうな顔をするだろう。
2人の本名を知っている、というか学校が同じ暁理はそんなことは全く知らないといった感じで返事を返した。
「よろしく2人とも。ところで、もしかしてなんだけど、君たちは新人かい?」
かかしが言っていた守護者が光司だとわかったため、暁理は光司と共にいる陽華と明夜がフェリートと戦った新人の光導姫ではないかと予想した。
「あ、はい。私達まだ光導姫になって1ヶ月ちょっとなんですけど、どうして分かったんですか?」
陽華がキョトンとしたような顔でそう聞き返す。陽華の答えを聞いた暁理は「なるほど」と言葉を続けた。
「じゃあ、君たちがフェリートと戦った新人というわけだ」
「え!? どうして知ってるんですか!?」
陽華が驚きの声を上げるが、明夜も驚いたような顔をしている。ただ、光司だけは暁理がその事を知っていても、表情を崩さなかった。まあ、それも当然だろう。ラルバにその事を報告し、情報が広まるようにしたのは光司なのだから。
「なに、知り合いの守護者から聞いてね。君たちと10位の彼がフェリートとかいう最上位の闇人に襲われたって。改めて大丈夫だったかい? 何でもスプリガンとかいう人物に助けられたらしいけど」
暁理が気遣いの意味を込めて2人にそう言った。暁理の優しい言葉に明夜が「ええ」と言葉を返す。
「・・・・・・私はあわや命を失うところだったけど、彼がスプリガンが助けてくれたおかげで今もこうして生きてるいるんです」
「私もスプリガンに助けられました。・・・・・でも、彼があの後どうなったかは私たちにはわからないんです。それだけが不安で・・・・」
明夜と陽華の様子を見た暁理は、かかしから聞いたスプリガンなる者の情報を思い出していた。曰く、光導姫を二度助け闇の力を扱う闇人の可能性もある謎の人物。そのため、いま闇奴との戦闘にはどんなに危険度が低くても守護者が光導姫のボディーガードとして来ることになっている、と。
守護者はその名前の通り光導姫のボディーガードではないのかというツッコミがあるかもしれないが、確かに守護者は光導姫を守る者だが、今回のような場合は保険としてのボディーガードの意味が強い。
暁理は2人の様子を見ていると、かかしというかラルバのこの方針は杞憂な気がしてならない。2人の、当事者の話を聞いていると、例え闇の力を使うとしてもスプリガンはやはりいい人という感想しか出てこない。
「そっか、いい人なんだねそのスプリガンって人は。一度、僕も会ってみたいよ」
暁理があははと笑いながらそんなことを言うと、今まで話を聞いていた光司が突然その口を開いた。
「・・・・・・それは危険ですよ。光導姫アカツキ」




