第353話 聖女来日3(3)
当然ながら、ファレルナと一緒にいた影人は警護の人々たちに警戒され、数人の厳つい黒服たちに周囲を包囲された。影人が内心「死んだな俺」と諦めていると、その中のリーダー格のスキンヘッドの人物――つまりいま影人の目の前にいる人物だが――に日本語で部屋に来るように言われたのだ。影人は素直にどうしてファレルナと一緒にいるのか、なぜここに来たのかの理由を全て話し終え、今に至るという訳である。
「そうか・・・・・・・む? 少し待ってくれ」
スキンヘッドの男が唸るように一言そう呟くと、携帯の着信音が響いた。スキンヘッドの人物はスマホをスーツの内ポケットから取り出し、影人に左の手のひらを見せると電話に出た。
「もしもし、私だ。ああ、いま事情聴取は終わったところだ。そちらは・・・・・・なに? そうか、ではやはり・・・・・・・・・・」
男は何やら外国語で(ファレルナはヴァチカンから来たのだから、影人はたぶんイタリア語だと思った)電話を数分しながら、やがてその電話を切った。
「すまなかった少年。違う部屋でファレルナ様から事情を聞いていた者から連絡があった。どうやら、君の言っている事は本当で、ファレルナ様は君にとても感謝しているようだと言っていた。尋問のような事をしてすまなかった。心から謝罪する」
「いえ大丈夫です、そちらもお仕事でしょうから。それよりと言ってはなんですけど、聖女サマが一時でも失踪していたって事は、そのどうなされるんですか?」
謝罪の言葉を口にした男性に、影人は理解の言葉を返してそう質問した。影人のこの質問は少し抽象的だったが、スキンヘッドの男性は正しく影人の言葉を理解したようにこう述べた。
「それに関しては心配しないでくれ。まだファレルナ様が失踪していたという事は日本政府には伝えていない。あと少しして戻られなかったら、連絡するつもりだったんだが、幸い君がファレルナ様を連れてきてくれた。それに今回の事はこちら側の落ち度だ。その事で日本政府を攻めるつもりはないよ」
「そうですか、それはよかったです」
男性の言葉を聞いた影人は、ホッとしたように息を吐いた。よかった、どうやらファレルナの失踪の事はマスコミなどには報道されていなかったようだ。
(よかったぜ。別に俺は愛国者でも何でもないし、そこら辺はどうでもいいんだが、テレビとかで報道されてたらかなり面倒くなってた。まあ、この人たちも失態は出来るだけ隠したいんだろうが、本当よかったぜ・・・・・・)
もしマスコミなどにその事が報道されていれば、ファレルナと一緒にいた影人にも注目が集まっていた事だろう。目立ちたくない前髪野朗からすれば、それは地獄以外の何者でもない。だから、影人は安堵しているというわけだ。
「では、私はこれで失礼してよろしいのでしょうしか? もう私と話される事はないと思うのですが・・・・・・・」
普段の口調ではなく、他所行きの丁寧な言葉で影人はそう確認を取る。自分がただの無害な一般人だと分かったのならば、もうここにいる理由はないはずだ。




