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変身ヒロインを影から助ける者  作者: 大雅 酔月
31/1997

第31話 友と謎の光導姫?(3)

「・・・・・何だ暁理?」

「いやー、5時間目の教科書忘れちゃってさ。数学なんだけど貸してくれないかな?」

 暁理が片目をパチッと閉じて、両手を合わせてそう言ってきた。ボブほどの髪の長さで、その整った顔は男子にも女子にも人気がある。現に暁理を見かけた女子生徒たちが、「あ、早川さんだ。やっぱ格好いいよね」「え、でも彼――」「そんなことはいいのいいの! 格好いいんだから」などと話し合っていた。

「断る。イケメンは敵だ」

 その会話を聞いたからではないが、影人は一応友達であるはずの暁理の頼みを無下にした。理由は今自分が言った通りである。

「は!? 誰がイケメンだよ! 失礼な奴だな!」

「どこが失礼だアホ。つーか、真面目な話、お前なら俺以外にも他のクラスに友達いるだろ。そいつから借りろよ」

 影人は面倒くさそうに答える。すると暁理はジト目で影人を見つめ返した。

「相変わらず影人は面倒くさい性格だな。別にいいじゃないか、それとも貸すの嫌なの?」

 暁理と影人は中学こそ違うものの、中学時代からの知り合いだ。そして入学式でたまたまこの風洛高校で再会した。1年も同じクラスではなかったが、2人は友達と呼べる関係になっていた。

 だと言うのに、中学時代からこの前髪の長すぎる友人は、なぜか教科書を貸すのさえしぶる。まったく、自分たちの友人関係を疑う気になってしまう。

「・・・・・・・別に。わかった、貸すから今度なんかおごれよ」

 仕方なく影人は、自分の机から数学Ⅱの教科書を持ってくる。そしてそれを暁理に手渡した。

「ありがと、影人。せっかくだから今日一緒に帰ろうよ。帰りなんかおごるしさ」

 暁理は嬉しそうにニコッと笑った。普通なら、友人の笑顔で貸した側も笑みを浮かべたりしそうなものだが、影人は別の理由で笑みを浮かべた。

「言ったな? その言葉、忘れるなよ。いいもんでもおごってもらうぜ」

「・・・・・・影人ってさ、若干というかクズだよね」

 突如、機嫌をよくした友人に暁理は少し引いた。クズで見た目は冴えないどころか、顔の半分は前髪で覆われている。おまけに癖は独り言だし、少し厨二病。しかも本人は孤独を好んでいる。正直、よくこんな奴と友達になったものである。

「・・・・・・まあ、仕方ないか。結局、影人って良い奴だし、面白いしね」

「は? いきなりなんだ?」

「いや、こっちの話。じゃ、ありがたく借りるよ。また放課後」

 そう言って暁理は自分の教室へと戻っていった。暁理が教室に戻ったと同時に、昼休みの終了を告げるチャイムの音が鳴り響いた。

「・・・・・・結局、何だったんだ?」

 その音を聞きながら、影人は友人からの自分に対する評価のようなものが何だったのか疑問に思った。








「お待たせ。いやーごめん、そういえば今日から教室の掃除当番だったよ」

 放課後。2年6組の前で暁理を待っていた影人は、笑って教室から出てきた暁理にそう声を掛けられた。どうでもいいが、その元気の良さは一体どこから来るのかと考える影人である。

「ほい、これありがとう。取りに来なかったってことは、6時間目、数学じゃなかったんだよね?」

「ああ。というか、返すなら5時間目と6時間目の休憩の時に返しに来いよ」

「あはは、ごめんごめん。つい、面倒くさくなっちゃって。じゃ、行こうか」

 影人と暁理は放課後の騒がしい校内を出て、そのまま正門を潜る。そして、そのままブラブラと当てもなく歩きながら、とりとめも無い話をする。

「そういや、クラスの奴らが話してたのを聞いたが、体育の上田勝雄またお見合い失敗したらしいな」

「それ盗み聞きだよ影人・・・・・・しっかし、そうか。上田先生またお見合い失敗したのか。可哀想に、南無三だね」

 そんなことを話しながら歩いていると、左前方に緑色が特徴の某コンビニエンスストアが見えてきた。ちょうど小腹が空いていた影人は暁理さとりに寄っていこうと話した。

「おい、暁理。お前なんかおごるって言ってくれたよな? ファ〇チキおごってくれよ。腹から狼の唸り声が出そうだぜ」

「別にいいけど、表現が意味不明な上にきもいよ影人。普通にお腹が減ったって言えないの? まあ、確かに僕もお腹減ったし寄ろっか」

 2人はコンビニに入り、店内を回った。影人はミネラルウォーターと、自宅に帰って食べる用の某ペッパーベーコン味のおつまみを購入した。暁理は、烏龍茶を1本に影人の分のファ〇チキと自分の分のファ〇チキ。それにハッシュドポテトを購入した。どうやらよっぽど腹が減っていたようである。

 そのまま影人と暁理は近くに小さな公園を見つけ、ベンチはなかったためブランコに座った。そして、暁理が影人にチキンをを渡した。

「はい、影人。よーく感謝して食べるんだよ?」

 どこか意地悪そうな顔でチキンを渡してきた暁理から、チキンを受け取ると影人はフッと笑みを浮かべた。

「断る。お前なんかに感謝するのは時間がもったいないんでな。それより、早く俺の内なる獣にこいつをくれてやるのが先だ」

「・・・・・・あーヤバイ、すっごい殴りたい。というか、ごめん影人。ムカついたし殴るね」

 そう言うと、暁理はニコニコと笑顔で影人の横腹に軽めのジャブを放った。まさか本当に殴られるとは思っていなかったクソ野郎は、「ぐふっ!?」と思わず頬張っていたチキンをこぼしそうになった。

「・・・・・ゴクッ! てめえ、何しやがる!? オヤジにもぶたれたことないんだぞ!?」

「うるさいよゴミ野郎。馬に蹴られて死ねばいいのに。というか、僕はぶってないよ。軽めにジャブしただけだし」

「なお、悪りぃよ!?」

「・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・」

 そして突如訪れる静寂。

「ぷっ・・・・・」

「ふ・・・・・・・」

「はははははははははははははっ! 何か久しぶりだなこういうの!」

「まあ、そうだな」

 暁理は本当に楽しそうに笑い、影人はニヒルを気取り口角を上げた。どうやら、暁理はよほどそのやり取りが面白かったらしく、少し涙まで浮かべていた。

「あー面白い・・・・・・でも影人最近つき合い悪くなったよね。何か理由でもあるの?」

 暁理が右手で涙を拭いながら、そんなことを聞いてくる。影人は残りのチキンを食べながら、言葉を返した。

「・・・・・・・別に。たまたまだ、というかそう言うならお前も昔からよくドタキャンしてたし、今もするだろ。何か理由あんのか?」

「あはは、それは本当にごめん。ほら、ぼく影人と違ってけっこう人気者でしょ? だから色々な予定が被ったりしちゃってさ」

「張っ倒すぞてめえ。ま、どうでもいい話か。それより――」

 それからまた他愛のない話をしている内に、日も暮れてきた。来た時は淡い青空が広がっていたが、今やこの小さな公園は夕焼けで遊具も真っ赤に染まっている。

「と、けっこう日も暮れてきたな。どうする暁理、まだもうちょい駄弁だべるか?」

「うん、そうだね。影人さえよければ僕はまだ――」

 暁理が答えを返そうと口を開いたが、暁理は突然その口を閉ざした。そして、仕切り直したように、影人に笑顔を向けてきた。

「・・・・ごめん影人。そういえば今日はちょっと用事があったんだった。ということで、今日はもうお暇させてもらうよ。・・・・・・・本当にごめん」

「そうか、気にするなよ。んじゃ、途中まで一緒に――」

 影人がブランコから立ち上がろうとすると、暁理は慌てたように手を振った。

「いや、僕は急ぐから走って帰るよ! じゃ、またね!」

 そう言い残すと暁理は鞄を持ってさっさと走り去ってしまった。後に残された影人は少し呆気にとられてしまった。

「・・・・・・そんなに急ぐ用事なら前もって言っとけよな」

 チキンを食べた後のゴミを、コンビニのビニール袋に入れると丸めてズボンのポケットに突っ込み、影人はトボトボと帰路についた。

 空を見上げてみると、星が1つか2つほど瞬いた。そんな光景を見て、影人はとりあえず家でゴロゴロしようと、どうでもいいことを心に決めた。

最近ちょっと短いのが続いたので、少し長めです。読んでいただいて、ありがとうございます。

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