第251話 役者、揃う(4)
当然、殺花はその2人組の特徴についても聞かされていた。1人は暖色系の衣装を身に纏ったガントレットを装備した光導姫で、もう1人は寒色系の衣装の杖を持った光導姫。いずれも、殺花の視線の先にいる乱入者の特徴と一致している。
(・・・・・・・これは主への思わぬ土産になりそうだな)
殺花の視線に殺気が宿る。戦場の時が再び動き出そうとしたその時、一同は砂を踏み抜く足音を聞いた。
その音に、全員の視線が――それはいま乱入してきた陽華と明夜、断絶された『世界』にいるシェルディアとキベリアも含む全員――その音の発信源に向けられた。
音がした林の暗闇の中から、誰かがこちらへと歩いてくる。最初は暗闇で分からなかったその姿が、月明かりの下に照らされる。
「・・・・・・・・・・・」
闇に溶け込むような黒い外套。鍔の長い帽子。胸元を飾る深紅のネクタイ。紺色のズボンに黒の編み上げブーツ。そして――金色の瞳。
「「スプリガン・・・・・・・・」」
その名を静かな驚きと共に呟いたのは、乱入してきた陽華と明夜だった。
「ッ、おいおい・・・・・・マジかよ!」
その名を聞いた冥は嬉しそうにその表情を弾ませる。
「奴が・・・・・・・・!」
そんな冥とは対照的に、殺花は殺意を込めた瞳を陽華と明夜から外し、代わりにスプリガンへと向けた。
「スプリガン・・・・・!? なぜ彼まで・・・・・・・!?」
「っ!? 現れたか・・・・・・・・・!」
「え、まじ? あれがスプリガン? うわー、初めて会っちゃったよ・・・・・」
風音、アイティレ、刀時もそれぞれ驚いた反応でスプリガンへと視線を向ける。先ほどまで、陽華と明夜に集まっていた注目は一気にスプリガンへと移った。
「シェ、シェルディア様! あれがスプリガンですよ! 私をボコボコにした奴です!」
キベリアがどこか恐怖しているような声音で、シェルディアの肩を掴んだ。スプリガンにボコボコにされたキベリアからしてみれば、スプリガンはトラウマのようなものになりつつあるのだ。
「あれが・・・・・・・不思議、不思議だわ。何なのあの気配・・・・・まるで透明色」
そして、スプリガンとの邂逅を心待ちにしていたシェルディアは、まずスプリガンが纏う気配に驚いていた。
シェルディアは他人の気配というものが分かる。シェルディアの感覚がそれを教えてくれるのだ。例えば、以前シェルディアは影人のいる学校にお弁当を届けに行ったことがある。その時、影人は目立ちたくないとの理由でシェルディアから逃げ出した。だが、シェルディアは影人の気配を憶えていたので、その気配を辿り影人へと追いついた。このように、シェルディアは他人の気配というものが、感覚として理解できるのだ。
むろん、人間以外の闇人などの気配もシェルディアには分かる。闇人はその気配に、どうしても闇の気配が入り混じっている。
このように気配には必ず何かの特色があったり、何かの要素があったりする。だが、スプリガンの気配にはその特色や要素が何1つとして存在しない。無色透明とでも言うべき気配だ。
シェルディアも、そして本人である影人も知らない事ではあるが、実はこの気配はスプリガンの服装によって偽装されている気配であった。スプリガンは、まずその正体が絶対にバレてはいけない。そして正体というものはどこから分かるものか分からない。ゆえに、スプリガンの服装には隠蔽を主とした能力が備わっている。そんな能力の中に「気配の偽装」という能力も含まれていたのだ。
まさに究極の念入り。そしてその念入りがなければ、今ここで影人の正体はシェルディアにバレていた。




