第2029話 熱血、ドキドキ、体育祭1(5)
(ウチの高校は変わった奴しかいねえな。この中でまともそうなのは俺くらいか。ま、俺は影に紛れる一般人だから紹介はないだろ)
影人はそう高を括っていた。
しかし、
『さあ、最後は第6コーナー! 間違いなくこの学校で1番前髪が長いのは彼でしょう! 見た目こそ暗いが彼に関する噂は様々あります! 曰く、金髪美少女と歩いていた! 曰く、ガチもんのヤバい奴! 曰く、宇宙人に攫われて留年している! 謎が謎を呼ぶ! 赤組、2年7組の帰城影人くんです!』
影人の予想に反して、実況役はガッツリと影人の事を紹介した。
「なっ・・・・・・!?」
その実況を聞いた影人が驚いた顔を浮かべる。何だこの紹介は。なぜこんな根も葉もない噂(一応、全部本当)が流布しているのだ。訳がわからない。
「え、あの前髪の人そんなにヤバいの・・・・・・?」
「怖っ・・・・・・」
「うわ、ガチで留年したんだ・・・・・・」
実況を聞いた生徒たちは全く歓声を上げず、ヒソヒソとそんな事を言っていた。流石は前髪野郎。1人だけ歓声が上がらない特別感がある。
「・・・・・・どうやら、帰城影人の愚かさはこの学校の生徒たちにも知れ渡っているようですね」
「うーん、みんなが帰城くんの本性とか経験を知ったらひっくり返りそうね」
「はっはっはっ、まあ彼の独特ぶりは隠し切れるものではないからね」
「頑張れー帰城くん!」
「「「「「「頑張れブラザー!」」」」」」
一方、イズ、明夜、ロゼ(競技者ではなく観客)はアナウンスにそんな反応を示し、光司、A、B、C、D、E、Fの 6バカは影人に声援を贈った。
「ちきしょう、どうなってやがるんだよクソが・・・・・・! ああもうどうでもいい・・・・・・! 取り敢えずさっさと終わらせてやる・・・・・・!」
影人は半ばヤケ気味にそう呟く。最悪だ。最悪の目立ち方をしてしまった。間違いなく、今日は人生で1番不幸な日だと影人は思った。
『さあ、ではこんな6人で最後の障害物競争をやってもらいましょう! では、先生スタートの合図をお願いします!』
「位置に着いて! よーい・・・・・・」
実況役の言葉を受けた教師がスタートピストルを空に掲げる。陽華、暁理、力也、風香、秀明、影人はいつでも走れるような体勢になった。
(はっ、こうなったら1位を取ってやるよ! 見せてやるぜ、華麗な流れ星と呼ばれたこの俺の実力を!)
半ばヤケクソ気味の前髪野郎はそう考えた。どうやら本気を出す時が来たようだ。どう見ても運動が得意そうな見た目ではないものが、1位を掻っ攫う。そんな胸が熱くなるような展開を見せてやる。
「行くぜ、本気の本気だ・・・・・・!」
影人が決意の言葉を漏らす。そして、パンッ! と教師がスタートピストルを鳴らし、6人は一斉に駆け出した。
――結果は当然の如く、前髪野郎がぶっちぎりの最下位であった。




