第2024話 文化祭と提督4(6)
「あな・・・・た・・・・は・・・・アイ・・・・アイティレ・・・・? アイティレ・・・・なの・・・・?」
「ああ・・・・・・ああ、そうだとも。私はアイティレ・・・・・・あなたの娘だ。母さん、母さん!」
もう色々と限界だった。アイティレは目に涙を滲ませると母親の元へと駆け寄った。今は何が何だか分からない。だが、もう2度と目覚める事がないと思っていた母親が目覚めてくれた。気づけば、アイティレは涙を流していた。
「本当に・・・・あなた・・・・なの・・・・? ああ・・・・すっかり・・・・大きく・・・・なって・・・・」
アイティレの母親は弱々しくではあるが、暖かな笑みを浮かべた。アイティレは「っ・・・・・・!」と感極まり、伏せている母親に抱きついた。
「母さん、母さん、母さん・・・・・・! よかった・・・・・・! また、母さんと話せて・・・・・・! ううっ、うううう・・・・・・!」
「ふ、ふふっ・・・・泣いて・・・・いるの・・・・仕方ない子・・・・ね・・・・」
抱きつき泣き声を上げるアイティレを、アイティレの母親は何とか左腕を動かし抱き返した。
7年間も寝た切りだったため、普通ならば腕を動かす事も満足には出来ないはずだが、アイティレの母親は母としての本能の力――または愛と言うべきか――を発揮したのか、しっかりとアイティレを抱き返したのだった。
そして、しばらくの間、アイティレとアイティレの母親は抱き合い続けたのだった。
「・・・・・・」
病室の外に出ていた影人はただ無言で佇んでいた。一応、この病室の周囲には人払いの結界を張っているので、廊下には影人以外誰の姿も見えなかった。
『急に善人ぶりやがって。いいのか? あいつはお前を何度も殺そうとした奴だぜ』
「・・・・・・殺されそうになった事なんざいくらでもある。別に今更そこを気にするところでもねえよ」
語りかけてきたイヴに影人はそう答える。影人がアイティレの母親に施したのは治癒の力だ。その結果、アイティレの母親は脳の損傷が回復し、目を覚ましたのだった。
「・・・・・・まあ、別にいいだろ。たまたまだが、俺にはまだ力があった。その力で親子がまた言葉を交わせるなら・・・・・・それに越した事はねえよ」
どんな形であれ、親と子が引き裂かれる辛さを影人はよく知っている。ただそれだけだ。
『けっ、お前のそのたまにあるクソ甘いところ気持ち悪いよな。反吐が出るっていうか』
「そこまで言わなくていいだろ・・・・・・」
影人は少し傷ついた様子になった。そして、影人はアイティレが出て来るまで、ずっと病室の前で待ち続けた。
「・・・・・・」
すると、しばらくして病室のドアが開きアイティレが出て来た。
「・・・・・・もうよかったのか?」
「ああ。また必ず会いに来ると約束したからな。取り敢えず、今の私はまず日本に戻らなくてはならない。陽華と明夜にまだ会っていないからな」
「・・・・・・そうか。じゃあ、戻るか。帰りは俺の力で転移できるから、ここから直接跳ぶぞ」
影人が転移の力を使用する。すると、影人とアイティレの体を黒い光が包み始めた。
「分かった。スプリガン、いや帰城影人くん・・・・・・ありがとう。本当にありがとう。この恩は一生忘れないよ」
アイティレは今まで見たこともないような、優しい笑みを浮かべ、影人に感謝してきた。アイティレのそんな顔を見た影人は少し驚きつつも、
「・・・・・・はっ、大袈裟なんだよ」
自身も小さく笑いそう答えを返した。そして、影人たちは黒い光の粒子と化し、日本に戻ったのだった。
――ちなみに、文化祭に戻った前髪野郎がシェルディアたちに見つかり、それはそれは恐ろしい目に遭うのはまた別の話である。




