第2023話 文化祭と提督4(5)
「・・・・・・この人がお前の母親か」
数分後。影人とアイティレはロシアの首都、モスクワにあるとある病院の病室にいた。カーテンから覗く光は、外がまだ早朝であるという事を示していた。
「・・・・・・ああ、そうだ」
影人の言葉にアイティレが頷く。影人とアイティレの視線の先には、1人の女性が眠っていた。見たところ、30〜40代くらいだろうか。アイティレと同じ銀髪はかなり長い。伏せられたまつ毛も長く、一目で美人だと分かる。しかし、その体は痩せこけ、口元には酸素マスクが、腕には様々なチューブが繋がれていた。
「・・・・・・そろそろ教えてくれ。君はなぜ私の母への面会を求めたのだ?」
アイティレは様々な感情を乗せた赤い瞳で眠り続ける母親を見つめながら、影人にそう質問を飛ばした。影人はアイティレからアイティレの母親の居場所を聞くと、アイティレを伴ってソレイユに転移を頼んだ。影人の長距離間の転移の力は、1度行った事のある場所という限定付きだ。そのため、影人はソレイユに転移を頼んだのだった。ソレイユは影人からの急な転移の依頼を不思議がっていたが、快く了承してくれた。そして、次の瞬間には影人とアイティレはこの病室内にいた。
「・・・・・・その理由は今から見せてやるよ」
影人はそう言うと、ゆっくりとアイティレの母親へと近づいた。そして、スッと右手をアイティレの母親の額へとかざす。すると、影人の右手に暖かな闇が灯り、アイティレの母親の中へと浸透していった。
「っ、何を・・・・・・」
「・・・・・・俺の力は便利な事に万能でな。大体の事は出来る。・・・・・・まあ見てろ」
訝しげな顔になったアイティレに、影人はそう答えた。影人はしばらくの間、アイティレの母親に暖かな闇を流し込み続けた。
「・・・・・・これでいいはずだ。『提督』、俺はしばらくの間外に出てる。ある程度落ち着いたら出てこい。じゃあな」
スプリガン状態の影人はそう言い残すと病室から出て行った。残されたアイティレは「っ、おい!」と反射的に影人に向かって手を伸ばしたが、時は既に遅かった。
「いったい何なのだ・・・・・・」
アイティレは訳が分からないといった様子でぼやく。アイティレが横たわる母親に視線を戻す。
すると、
「ん・・・・・・」
アイティレの母親の顔がピクリと動いた。
「っ!?」
アイティレは信じられないものを見たといった様子で固まった。なんだ。自分は夢でも見ているのか。アイティレは今見たものが現実かどうか疑った。
「う・・・・・・ん?」
だが、それは紛れもない現実だった。アイティレの母親は徐々に顔を動かし始め、やがてその両の目を見開いた。その瞳の色は、アイティレと同じ赤色だった。
「ここ・・・・・・は?」
目を見開いたアイティレの母親はぼんやりとした様子でそう声を漏らす。その声はかなりか細いものであった。
「母さん・・・・・・」
長らく目を覚まさなかった母が目覚めた。アイティレは震えた声でそう呟く。アイティレの声を聞いたアイティレの母親は、ゆっくりとその目をアイティレへと向けた。




