第2019話 文化祭と提督4(1)
「・・・・・・お前も来てたのか。意外だな」
アイティレとバッタリと出会った影人は、アイティレに対しそう語りかけた。その口調は普段と変わらないものだ。軽く驚きこそしたが、ただそれだけだ。影人とアイティレは過去に多少の因縁があったが、それはもう既に払拭されている。
「・・・・・・陽華と明夜に呼ばれてな。最後の文化祭だから、ぜひ来てくれと言われた。今日は平日で授業があったが、風音が生徒会長権限で正式に休みの許可を取ってくれたのだ」
「生徒会長権限で休みって取れるのか・・・・・・? 凄いなお前の所の学校は。で、その生徒会長、『巫女』は一緒じゃないのか?」
「今日は私1人だ。風音は明日来る」
「そうか。・・・・・・ああ、悪いな。多少長くなっちまった。ほら、これ返すぜ」
影人はアイティレが落とした偽物の赤い宝石を差し出した。アイティレは「っ・・・・・・」と一瞬顔色を変えるも、偽物の赤い宝石を受け取った。
「すまない。感謝する。よりによってこれを落とすとは・・・・・・本当にありがとう。これは、私にとって何よりも大切なものなんだ」
アイティレは大事そうにギュッと偽物の赤い宝石を握った。その仕草が、アイティレの言葉が真実であると証明していた。
「・・・・・・差し支えがなかったら聞いてもいいか。その宝石・・・・・・見た感じ、明らかに偽物だよな。何でそれがそんなに大事な物なんだ?」
影人は興味本位でアイティレにそう質問した。アイティレはクールな雰囲気を持つ、影人と同じ同年代にしては大人びた女性だ。そんなアイティレが偽物の、オモチャのような赤い宝石を大事にしている。影人はそこに不思議さを感じざるを得なかった。
「・・・・・・一言で言えば、これが私の光導姫としての変身媒体だからだ。だが、私にとってこの偽物の宝石はそれだけの物ではない。・・・・・・少し長くなるが、それでもいいか?」
「・・・・・・逆にいいのか。お前のその話は、きっとお前自身に深く関わる話なんだろ。そんな話を俺なんかにして」
「ああ。君にはそれを知る権利がある」
「・・・・・・分かった。そういう事なら聞かせてもらうぜ」
影人はアイティレにそう言葉を返した。そして、影人はアイティレの前を歩き始めた。
「・・・・・・静かに話せる場所に案内する。ついて来てくれ」
どちらにせよ、シェルディア達から隠れる都合上、静かな場所には行くつもりだった。その間の暇も潰せるなら一石二鳥だ。アイティレにはその辺りの事を詳しく言わなかった前髪野郎は、さもクールそうに格好をつけた。
「ああ」
アイティレが影人の言葉に頷く。そして、影人とアイティレは文化祭の喧騒で騒がしい校舎の中を一緒に進み始めた。




