第2017話 文化祭と提督3(3)
「くっ・・・・・・さすがは光の勇者といったところか。まさか、この我が1回目の戦いで敗れるとはな・・・・・・」
影人はジョーカーのカードを握りながら悔しげな顔を浮かべた。そして、光司に対しこう言葉を続ける。
「・・・・・・よかろう。素直に我の負けを認めよう。光の勇者、貴様の勝ちだ。よくぞ、魔王軍四天王最強の我を倒した。貴様には我を倒した証を授けよう」
「ありがとう」
影人は机の上に置いていた、メイジ・オブ・マスクの紋様が描かれたダンボールバッジを1つ手に取ると、それを光司に手渡した。光司はそのバッジを受け取る。
「これで貴様は全ての四天王を倒した事になる。その事実が示すものは、魔王様への挑戦権の獲得だ。魔王様は我よりも遥かに強い。貴様は間違いなく魔王様の力の前に絶望するであろう。・・・・・・だが、我を倒した貴様の事はほんの少し応援してやらんでもない。では、行くがよい勇者よ。せいぜい足掻けよ」
影人は立ち上がると、フッと笑い光司にそう促した。だが、光司はニコニコ顔を浮かべたままイスに座ったままだった。
「ダメだよ仮面の魔法使い殿。約束を有耶無耶にしようとしては。負けた方は勝った方の言うことを聞く約束だ。君もそれは了承したはずだよ」
「・・・・・・ちっ、覚えてやがったか」
光司にそう言われた影人は、素の口調でそう呟いた。ワンチャンを狙ったのだが現実は厳しかった。
「・・・・・・いいだろう。貴様の望みを我に告げるがよい」
言い訳をする事を諦めた影人が光司に対しそう言葉を述べる。光司は「うん。ありがとう」と爽やかに笑った。
「僕が君に要求する事はただ1つだけ。存分に文化祭を楽しんでほしい。そして、ぜひ僕のクラスの出し物にも顔を出してほしい。それだけだよ」
「っ・・・・・・意外だな。貴様の事だ。一緒に文化祭を回れとでも言われると思っていたが・・・・・・」
「正直、それも考えていたんだけどね。僕は欲深い人間だから。でも、僕にとって1番嬉しいのは、君が楽しく日常を享受している事だ。君は今まで、ずっと戦い続けて来た。だからその分、君は日々を楽しんで幸せにならなきゃいけない。お節介で傲慢極まりないかもしれないけど・・・・・・それが僕の望みだよ」
光司は影人にそう言うと立ち上がりドアへと歩いて行った。
「そういうわけだから絶対に来てね。ちなみに、僕のクラスの出し物は、小さな演奏会だよ。じゃあね」
光司は影人に手を振るとドアを開けて出て行った。影人はしばらく無言のまま光司が出て行ったドアを見つめていた。
「・・・・・・はっ、余計なお世話だ。てめえに言われなくとも、しっかり楽しんでやるよ」
そして、影人はポツリとそう呟いた。その口元は少し緩んでいた。




