第2016話 文化祭と提督3(2)
(いつか来るだろうとは思ってたが・・・・・・遂に来やがったな。クソッ、昨日の朝宮と月下といい、朝一からキツい奴ら来すぎなんだよ・・・・・・!)
影人の体に緊張が奔る。影人からすれば光司は魔王のような相手だった。
「そうだね。今の僕は魔王を倒す使命を背負った勇者だ。僕は既に3人の四天王を倒した。君との勝負に勝てば、僕は魔王に挑める。でも、正直に言えば、僕にとっての魔王は君だよ」
「・・・・・・ふっ、考える事は同じか。光の勇者よ。貴様を魔王様の元へは行かせん。貴様はここで我が倒す」
「望むところだよ」
影人と光司は互いに歩き、机を挟み向かい合わせに座った。仮面の下の影人の瞳と光司の瞳が交錯する。両者の視線がぶつかり、目には見えぬ激しい火花を散らす。
「では、光の勇者よ。まずは貴様に我との対決の方法を教えよう」
「それには及ばないよ。朝宮さんと月下さんから既にどんな勝負をしたのか聞いたからね」
「ほう。太陽の勇者と月の勇者から情報はリサーチ済みか。抜け目ない奴だ。では、早速始めるか。『道化に嘲笑れし暗黒遊戯』を」
影人が懐からトランプを取り出す。影人はトランプを入念にシャッフルすると、自分と光司に札を配った。
「帰城くん」
「我はメイジ・オブ・マスクだ」
「失礼。仮面の魔法使い殿。せっかくだから、少し賭けをしないかい? 勝った方は負けた方に何でも1つ命令できる。どうだろう。失うものがない戦いなんて、緊張感に欠けるとは思わないかい」
手札を確認しながら光司がそんな提案をしてきた。同じように手札を確認していた影人は「ほう・・・・・・」と声を漏らした。
「くくっ・・・・・・面白い。勇者のくせに賭け事の提案をしてくるとはな」
「勇者だって人だよ」
「確かにな。清濁合わせもつか光の勇者よ。よかろう。貴様の提案に乗ってやる」
メイジ・オブ・マスクに成り切っている影人は、光司に是の答えを返した。光司は「ありがとう。流石だね」と爽やかに笑った。
影人と光司は互いに数字の被った札を机の中央に捨てる。そして、残った札を手札としながらゲームが始まった。
「先攻は我が頂こう」
影人が光司の手札からカードを1枚抜く。数字が被っていたカードだったため、影人はそのカードと自身の手札のカードを1枚捨てた。
「じゃあ次は僕だね」
今度は光司が影人の手札からカードを1枚取る。光司も引いたカードが手札のカードと数字が被っていたため、合計2枚のカードを捨てた。
「参考までに聞かせてほしいんだけど、仮面の魔法使い殿は文化祭を誰かと回る予定はあるのかな?」
「下世話な質問だな。ない・・・・・・と言いたいところだが、1人だけいる。夜統べる吸血鬼の真祖に文化祭を案内するように言われている」
「真祖・・・・・・シエラさんとシスさんは考えにくいから、シェルディアさんのことかな。なるほど。相変わらず仲がいいね」
「・・・・・・彼の真祖とは色々とあったからな。今では気心の知れた隣人・・・・・・だが、それ以外の関係はない」
光司と影人はそんな会話をしながら、互いの手札を引き合った。1対1のババ抜きだ。決着がつくまでの時間はそれほど掛からず――
「うん。これで上がりだね。勝負は僕の勝ちだ」
光司が最後に2枚のカードを捨てる。結果、光司の手札は全てなくなった。




