第2014話 文化祭と提督2(4)
「魔王様にそう簡単に挑めてはつまらんだろう。そして、これはチームで挑んできたお前たちに対する負債のようなものだ。今までの四天王・・・・・・例えば、獣王ダークビースト戦などでは、チームで戦う事が有利であったろう。このメイジ・オブ・マスクとの戦いでは、それが不利に変わる。それだけの事よ。出なければ、ソロの勇者たちとのバランスが取れんからな」
「た、確かに。うん、なら仕方ないね」
「しっかり1人と複数人でバランスが取れたゲームなのね。感心だわ」
影人の説明に陽華と明夜は納得した。2人の様子を見た影人は頷いた。
「納得したか。では、これより『道化に嘲笑れし暗黒遊戯』を始める。各自、各々手札を確認しろ」
影人がそう言うと、陽華と明夜が伏された札の束を手に取った。影人も自分の札を手に取り、目で確認する。影人、陽華、明夜はそれぞれ数字が被っている札を机の中央に置いて行った。
「くくっ、さあ勝負といこう。魔王軍四天王が1人、メイジ・オブ・マスク、参るぞ・・・・・・! 全力で来い、勇者たちよ!」
「うん! 行くよ!」
「本気のババ抜き・・・・・・燃えるわね!」
影人が不敵な笑みを浮かべ、陽華と明夜もノリ良く応える。こうして、影人対陽華と明夜による対戦が始まった。
「では、まず我が太陽の勇者の札を取ろう。太陽の勇者は月の勇者から札を、月の勇者は我から札を取るがよい」
「太陽の勇者は私で月の勇者は明夜だよね。うん、わかったよ! じゃあ、はい。どうぞ!」
陽華は影人にトランプの裏面を向けた。陽華の手札の数は10枚。そして、いま影人の手札にジョーカーはない。つまり、陽華か明夜のどちらかがジョーカーを握っている。影人は少しの緊張を伴いながら、適当に陽華の手札から札を1枚引いた。
「ふむ・・・・・・そう言えば、今日は魔なる機神の器に宿りし意思と一緒ではないのだな。最近は大体貴様らと一緒にいるイメージだが」
影人は数字が被ったカードを捨てながら、2人にそう聞いた。今度は陽華が明夜の手札からカードを引く。
「イズちゃんのこと? イズちゃんなら今はウチのクラスの出し物当番よ。ウチのクラスの出し物は、王道のメイド・執事喫茶なの。イズちゃんは給仕役よ。イズちゃんのメイド服姿はそれはそれは可愛いわよ。少なくとも、ウチのクラスは男子も女子も全員メロメロよ。もちろん、私と陽華もね」
「そうそう。イズちゃんのメイド姿、本当に可愛いんだよ。今年は絶対イズちゃん目当てで繁盛するよ! あ、帰城くんも暇な時は来てね! 私と明夜がおもてなしするから!」
「我はメイジ・オブ・マスクだ。間違えるな。ふん。闇纏う暗黒の魔法使いである我が、わざわざ自分から光の場所に行くと思うか。絶対に行かんぞ」
「本当、帰城くんってブレないわね・・・・・・何か、逆に感心するわ。それはそうと、帰城くんの一人称の我ってどうしてもレイゼロールを想起しちゃうわよね」
「あ、分かる! 明夜の言うみたいに、我って言ったらレイゼロールだよね!」
「・・・・・・言いたい事は分からんでもないが、別に我の一人称は終わりを司る闇の女神を意識しての事ではない。勘違いはするな」
明夜、陽華、影人は勝負とは裏腹に、緊張感のない会話を交わす。無論、会話の最中にも勝負は進んでいる。現在、影人の手札が5枚、陽華の手札が6枚、明夜の手札が4枚だ。
そして、それから勝負は続き――
「ふっ、我の1抜けだ。この時点で貴様らの敗北は確定だ」
手札を全て捨てた影人がドヤ顔を浮かべる。初戦は影人の勝ちに終わった。
「悔しいー! よし、もう1回勝負だよ!」
「次こそ勝つわ」
「ふっ、いいだろう。また蹴散らしてやろう。一応言っておくが、今日の挑戦回数は残り2回だ」
陽華と明夜がすぐさま影人にリベンジの意思を表明する。影人は2人にそう言葉を返すと、トランプを集め入念にシャッフルを行った。
その後、再びババ抜き対決が行われたが、今度は陽華が最後まで残ってしまい、また影人の勝ちとなった。陽華と明夜は影人に3度目の勝負を挑んだが、また影人が1抜けしたため、陽華と明夜は負けてしまった。
「ふはは、見たか。これが、魔王軍四天王最強たる我の力よ。今までの四天王とは格が違うのだ。貴様らの今日の挑戦権は尽きた。また明日来るがよい」
「ううっ・・・・・・絶対また明日来るからね! 明日こそ勝つから!」
「覚えてなさいよメイジ・オブ・マスク!」
全勝した影人は気分が良さそうに高らかに笑った。そんな影人とは裏腹に、陽華と明夜は悔しげな顔になっていた。陽華と明夜はそんな捨て台詞と共に、教室から出て行った。
「・・・・・・朝宮のセリフは分からんでもないが、月下の奴のセリフは勇者じゃなくて完全に悪役のそれだったな。まあ、今の時代は色んな勇者像があるからいいっちゃいいのか」
1人になった影人は素に戻りそう呟くと、トランプを回収し懐に仕舞った。
「だが、どんな勇者だろうがこの俺が返り討ちにしてやるぜ。俺は孤高の悪の魔法使い、メイジ・オブ・マスクだ。ふはは、ははははははははははは!」
最高潮にまで昂まった厨二病野郎が高らかに笑う。そして、仮面の魔法使いは次の勇者が来るまで、背を向けながら立っていたのだった。
――文化祭初日はこうして終了した。




