第2013話 文化祭と提督2(3)
「我との勝負ではこの52の紋様が刻まれた札を使う。さあ、席につけ勇者たちよ。貴様らにルールを教えよう」
影人は陽華と明夜に、机の前に設置されていたイスに座るように促した。机は影人が座る用に1つ。客である勇者たちが座る用に1つ用意されていたが、今回は勇者が2人でイスが足りなかったため、影人は教室の隅からイスを1席取り、そのイスを客側の席に追加した。
「52の紋様が刻まれた札・・・・・・あ、トランプだね。なるほど。帰城くん、いやメイジ・オブ・マスクとの戦いはトランプ勝負なんだね!」
「魔法使いとだけあって頭脳戦なのね。面白い。腕が鳴るわ」
陽華と明夜が席に着く。2人が席に着いたのを確認した影人は、自身も着席した。陽華と明夜、影人は机を間に挟み向かい合った。
「では、ルールを説明する。今からこの52の紋様が刻まれた札に1枚の札を追加する。その札とは・・・・・・これだ」
影人は懐から1枚のカードを取り出した。そのカードには道化師が描かれていた。
「この札の名はジョーカー。道化の名を持ち、同時に切り札の名を持つカードだ。我が最も好むカードでもある」
「ああ、確かに帰城くんはジョーカー好きそうよね」
「イメージ通りだね!」
「おい、それはどういう・・・・・・まあいい」
妙に納得する明夜と陽華に疑問を抱いた影人だったが、今の影人は悪の魔法使いメイジ・オブ・マスクである。影人は役に徹した。
「このジョーカーを加えたカードの束をシャッフルし、その束を我と貴様らの3等分にする。各々の束で数字が被っているカード、例えばダイヤの10とスペードの10があれば、それを真ん中に置いて行け。最終的に残った束を手札とし、3人で札を引き合う。その際、数字が被ったカードがあれば、最初と同じく真ん中に捨て置け。そして、最後までジョーカーを持っている者が負け。・・・・・・これが、我との戦いのルールだ。智と智の駆け引き戦・・・・・・名付けて・・・・・・!」
「ババ抜きだね!」
「ババ抜きね」
満を持して影人がその遊戯の名を宣言しようとする。だが、その前に陽華と明夜が遊戯の名を言葉に出した。
「・・・・・・貴様らに人の心はないのか?」
2人に先に遊戯の名前を言われた影人は、酷く落ち込んだ様子になった。先ほどまで高揚していた気分は一気に萎んでしまった。
「・・・・・・まあいい。理解はそれで合っている。だが、それは人間たちの俗称だ。魔族の間では、遊戯の名は『道化に嘲笑れし暗黒遊戯』という。では、カードを配るぞ」
影人はそう言うと、トランプの束をシャッフルし始めた。シャッフルの方法は、多くの人がよくするシャッフル――正式名称はヒンドゥーシャッフルというらしい――を入念に行った。そして、影人は自分、陽華、明夜の順番にカードを配った。トランプの枚数は53枚。対して、人数は3なので割り切れない。そのため、配り順的に影人が18枚、陽華が18枚、明夜が17枚という配り札となった。
「ああ、そうだ。聞きたかったんだけど、このゲームの勝利条件って帰城くんよりも早くゲームを抜けることよね? でも、3人でゲームをやる以上、陽華か私がババになる事もあるわけでしょ。その場合はどうなるの?」
「ほう。愚鈍と名高い月の勇者にしてはよく気付いたな」
「誰が愚鈍よ!?」
「よかろう。この我がしかと教えてやる。その場合は勇者たちの負けでやり直しだ。ちなみに、1日に挑戦できる回数は3回までだ。規定回数以内に我に勝つ事が出来ない場合は、また後日に挑戦してくるがよい」
「え、それってちょっと厳しくない!? 場合によったら、文化祭期間中に魔王に挑めない可能性もあるってことでしょ!?」
影人の説明を聞いた陽華が納得がいかないといった顔を浮かべる。影人はそんな陽華に対し、「落ち着け。太陽の勇者よ」と言葉を返した。




